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年棒制:費用計上時期にご注意!

2006-02-02 | 経営実務
今日のニュースで、こんな記事が出ていました。

<申告漏れ>人材派遣「クリスタル」 3年間で17億円(毎日新聞)

この記事によると、今回申告漏れの指摘を受けたものの中に、「年棒制で支払われる賃金の費用計上時期」に関する事項があったとのことです。

企業では労働者に対して毎月賃金を支払いますが、管理事務の都合から「賃金計算期間の締切日(賃金締切日)」と「会計上の締日(決算日)」が異なることは良くみられます(例えば、賃金計算を15日締25日払とし、会計上の締日を末日にする等)。このとき、通期中であればさほど問題にはなりにくいのですが、会計年度が替わる時期(いわゆる「期をまたぐ」時期)については、「賃金計算期間の締切日以後決算日までの間に発生した賃金」がいつの時期に属するものなのか?ということが問題となる場合があります。

例えば賃金については3月15日が締日であり、決算日は3月31日である会社あったとします。この場合、企業は当然動いていますので3月16日から3月31日までも労働が行われています。そうすると、時間給であろうが日給であろうが月給であろうが、各労働日についてはその労働日に対する賃金はどこかのタイミングで支払わなければならない、すなわち、この時点で「各日分の賃金」が発生していると言えます。

企業会計では、通常「発生主義(実際の支払の有無に関わらず、費用収益が発生したときにその事実を記録する)」に基づいて考えますので、「期末最後の賃金締切日以降~決算日(上記の場合でいえば3月16日から3月31日)の賃金は、その期中に計上する」という考え方がとられます。そこで、決算時の整理として、当該部分の賃金を「未払い分」として費用計上することが行われています。

しかし、今回のクリスタルの事件では、年棒制で支払われている賃金については「年俸である以上、日割り計算は認められず、次の決算期に一括計上すべきだ」という判断を国税局が行ったとのことです。これは、年棒というものはあくまでも「1年間の労働に対する報酬」という形で決まっており、そこには賃金計算期間との関連性がみられないため、年棒制の場合には各月の賃金締切日を基礎とするのではなくあくまでも年度にしたがって計上すべきということを主張していると思われます。(ただ、私の個人的な見解としては、給与決定方法の類型である年棒制と費用認識時期に関する賃金締切日の話は別のものであると考えられますので、争う余地はあるのではないかと思います。もちろん、これは同様の経理処理が毎年反復継続的に行われていることが前提であり、「思ったより利益が出たから、この年だけ特別に前倒しで計上する」等ということは認められませんが・・・)

これが会計だけの話であれば、「いつの時期に費用認識すべきか」ということであり、企業にとってそれほど大きな影響が出るものではありません。しかし、これが「税務調査での指摘」となると、影響は大変大きくなります。なぜなら、そこには「過少申告」という問題がついてくるからです。

税務調査の場面では、今回のケースのような「期ずれ」に関する指摘を受けることがよくあります。このような場合、国税局・税務署は「調査対象期(概ね直前期)において過大な費用の計上があった」という部分だけを捉え「翌期には当該部分を費用として計上できる」という部分は無視します。そうすると、過大な費用の計上ということだけが事実として残りますので国税局・税務署は「過少申告」という判断を行います。そして、「過少申告ですので、当該部分にかかる税金に加え、延滞税と過少申告加算税を支払ってください。」ということを要求してきます。

もしこれが反復継続的に行われている経理処理を問題にしていると仮定すれば、企業側からすれば費用の計上時期の認識だけの話であり、「余分に費用がかかったように見せよう」等というようなことではありません。それでも、このようなケースの場合は延滞税と過少申告加算税という余分な出費を迫られることになってしまいますので、なんとも割り切れないことになってしまいます。(今回のケースが反復継続的に行われていた処理なのかどうかは不明ですが、個人的にはあえて「年棒制」を標的にしているところでクエスチョンがつきました。)

今回のような「賃金」に関する経理処理については、労務と税務が密接に絡み合った問題であり大変悩ましい問題です。幹部社員等を中心に「年棒制の導入」を行う企業が増加しておりますが、賃金制度の設計時にはぜひ「税務上の取り扱い」まで気を配って頂きたいと存じます。(なお、立石智工事務所では、Awingグループのパートナーである丹羽和子税理士事務所の協力の下、賃金や社会保険料などの税務上の取り扱いを確認する体制を整えております。ご質問・ご相談のある方はいつでもお気軽に当事務所までお問い合わせください。)


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