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見解の相違:「業務改善命令」と「コンプライアンス」

2007-08-16 | イッポウ
今日の気温を調べるために気象庁のWebサイトを覗いたら、気になる発表がみつかりました。

予報業務許可事業者に対する業務改善命令について(気象庁)


【概要】
株式会社ウェザーニューズに対して、業務改善を命じました。

【本文】
気象業務法に基づく予報業務許可事業者である株式会社ウェザーニューズが、平成19年新潟県中越沖地震の被災地を対象に「がけ崩れ予測メール」サービスを行っています。同社に対し、このサービスの内容について確認したところ、予報業務許可を得ていない地象の予報であったため、当庁はこれを取り止めるよう再三指導してきましたが、現在も継続して実施しています。これは、予報業務の範囲を変更しようとするとき気象庁長官の認可が必要であることを定めた気象業務法第19条に違反しています。
なお、同社からのメールの送信実績の報告から、本サービスは被災地に混乱を引き起こす可能性があるものです。
この事実を踏まえ、気象業務法第20条の2に基づき、同社に対し、気象業務法の遵守および予報業務の運営を改善するために必要な措置についての業務改善を命じました。


詳細情報のPDFによると、ウェザーニュースに対して発せられた改善命令の内容は以下の内容のようですです。
(1)気象業務法の遵守
気象業務法第19条第1項に違反している当該「がけ崩れ予測メール」に係る業務を平成19年8月17日までに取り止めること。
「がけ崩れ予測メール」を実施したいのであれば、変更認可の申請を行うこと。
既に同社が許可を取得している「気象」の範囲内で新たなサービスとして実施するのであれば、そのように内容を変更すること。

(2)予報業務の運営を改善するために必要な措置
法令等遵守体制を確立し、健全な業務運営を確保するため、以下の観点から業務改善計画を平成19年8月23日までに策定し、提出すること。
①法令等遵守に取り組む経営姿勢の明確化(責任の所在の明確化を含む)
②役職員の法令等遵守意識の醸成・徹底
③再発防止方策


これに対し、ウェザーニュース社は真っ向から対決姿勢を見せています。以下、ウェザーニュース社のプレスリリースからの引用です。

「がけ崩れ予測メール」に関する見解


当社では、防災・減災の向上のためには、国・自治体の「公助」に加え、地域、コミュニティの「共助」、個人一人ひとりの「自助」を広げ、社会の中に根付かせていくことが重要だと考えています。「がけ崩れ予測メール」は、防災・減災における「自助」を支援するためのものであり、防災・減災に関する行動を起こす際のひとつの判断指標として提供いたしました。
(中略)
今回の「がけ崩れ予測メール」に関する気象庁の指摘につきましては、当社は気象現象をきっかけにした予測であり、ご契約いただいている携帯電話サービス利用者との明示的了解と合意をもとにした特定利用者向けサービスであることから、当社では気象業務法許可の範囲内であると認識しており、現時点では当社と気象庁との間に見解の相違があります。今回の業務改善命令は、気象庁が行政を預かる立場より出されたものと理解しております。当社は利用者へのサービスをやり切るという立場より、今後も本件に対する立ち位置を明確にしていきたいと考えております。つきましては、ご利用いただいている皆様の意見もふまえながら対応を検討させていただきますので、本件に関する当社のこれまでの立ち位置を再確認いただくとともに、ご理解をいただきますようお願いします。


正に真っ向から「見解の相違」が起こっている事案のようです。私自身は気象予報業務に関する法律の専門家ではありませんので、個別にどちらの言い分が正しいかは分かりませんが、こうした「行政機関」と「民間事業者」の間で生じる「見解の相違」が生じた際の“コンプライアンス的対応”として、複数の点から非常に注目される事案であると感じます。

まず第1に、民間事業者にとってこのような行政機関との「見解の相違」があった場合に“コンプライアンス”の観点からはどのような行動を取るべきかということです。本来、行政機関は法に委任された事務を行う機関であり、「法を作る」こともなければ「法の解釈を示す」機関でもありません。つまり「法を解釈する」という観点に立てば、行政機関と民間事業者はあくまで「対等の立場」に位置することが原則であると私は考えます。

そのような中で「見解の相違」があった場合に、「行政機関の解釈を認める」か「自らの判断に従う」かについては、本来事業者側の自由に任されるものであると感じますし、本当の意味で「コンプライアンス的」であろうとすれば、むしろそうすべきであると感じます。その意味では、気象庁が業務改善命令の中で「法令等遵守体制を確立し」等と言っているのは、ちょっとやりすぎではないかと感じてしまいます。

また、このケースでは「特定の業務をどこまで法の規制の下に置くべきか」ということも考えなければなりません。今回の場合は気象・防災に関する「情報」の提供に関する業務なわけですが、業務改善命令を発出している行政機関である気象庁自身は「自ら自由に行える業務(注意報・警報の発令他)」であるわけです。そこに「官」と「民」の差異を設ける必要性がどこまであるのかについては、よくよく吟味を行わなければなりません。

これが、仮に気象庁の言うような民間事業者の行うサービスだと「混乱を引き起こす可能性がある」ケースがあるとすれば、気象庁自身が行う予報や各種の注意報・警報の発令などには同じような「混乱を引き起こす可能性がある」要素が含まれないかどうかを同様に検証しなければならないでしょう。行政機関だからよりよい品質の情報が提供でき、民間事業者だから品質が悪いというのは、ちょっと筋としては無理があると私は感じます。

かつて、気象予報が「国の独占」に置かれるべき最大の理由とは主に「軍事上の問題」でした。自然の大いなる力である「気象」は攻撃側にとっても防御側にとっても非常に重要な情報であり、だからこそ「統制」をかけなければならないものでした。この流れの中で、その後も「気象予報」は長らく「国の独占」に置かれていたわけですが、時代の流れの中で軍事上の懸念が薄れていき、主として民生利用されるようになった今の時代で、どこまで「行政(国)によるコントロール」が必要なのかと言うことは、この問題からも改めて考えさせられるものであると私は感じます。

たとえが悪いかもしれませんが、今回の「メールでの情報提供」の信頼性の問題というのは、各種選挙のときに行われる「当確情報」の提供における信頼性の問題と同じ性質ではないかと感じます。当確を打ったのが「NHK」なのか「他の民放」なのかというところで、「この情報を信頼するかしないか」は受け取った側がごくアタリマエに行っています。つまり、様々な情報が提供される中で最終的にどのように解釈し行動に移すかは「受け手の問題」であるわけです。「国民に対する気象情報の提供を行う行政機関」である気象庁がこの点をどこまで認識しているのか、ちょっと疑問を感じてしまいました(気象庁の天気予報だって外れる時には外れますしね・・・・といっては身もフタも無いですが(^^;;)

久しぶりに長くなりましたが、この「見解の相違」については今後もウォッチしてまいりたいと思います。

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