コンサルタントのネタモト帳+(プラス)

ビジネスにも料理にも役立つ“ネタ”が満載!社労士・診断士のコンサルタント立石智工による経営&料理ヒント集

判例DB:いろいろな裁判があるもので・・・・

2007-08-02 | よもやま話
士業の仕事の中では「法律の解釈」を求められることが良く有ります。社労士として行っている労働法や保険・年金法といった“労働社会保険関連諸法”だけでも様々な法解釈を巡る議論があり、かつ具体的なそれぞれの事案に沿って実務の中で判断を行っていくことが求められています。

このような法解釈の検討において有益な手がかりとなるのが「過去の裁判における判例」です。法解釈を巡っての争いになった場合には最終的には裁判所の判断を仰ぐことになるわけですから、判例を通じて「具体的な事案に対して裁判所が行った法律の解釈」を知ることは、実務上非常に大切なポイントとなります。

この判例を手に入れるには、以前は判例誌等を片っ端から紐解いていかなければならなかったそうですが、今はインターネット上で利用可能な様々な判例データベースが整備されていますので、事務所の席に座りながら必要な情報に手早くアタリをつけることができます。特に裁判所の判例検索システムなどは、無料で利用可能な上、最近では報道で注目されているような主要判例は比較的早期に掲載されることから、仕事の面でも知識研鑽の面でも非常に便利に使っています。

そんな中、労働関係の判例の調べモノを行ってたところ、全く関係のない「拾得物に対する報労金に関する民事訴訟」についての最近の判例を見つけてしまいました。

この事件のストーリーをごく簡単に言うと次のようになります
(1)Xさんが釣りの途中でカバンを拾った
(2)Xさんは、カバンをゴミとして捨てられたものだと思って中身を捨てた
(3)そしたら、中に株券が入っていたので、落し物として警察に届けた
(4)警察からの連絡で、株券が持ち主であるBさんに戻ることとなった
(5)そこで、XさんはYさんに「報労金(拾い主に対して法律上認められているお礼)」を求めたが、Yさんは拒否した。
(6)実は、このYさんのカバンは盗難(ひったくり)にあったものであり、株券などについても警察への届出や証券会社などへの手続きを行っていたものである。

この事件を考える時に注意しなければならないのが、このカバンが「拾い主であるXさんから見ると、落し物」であり、「持ち主であるYさんから見れば盗まれた物」であるということです。Yさんからすると、もし自分が落としたのであれば自分のミスなので“お礼”をすることもやぶさかではなかったかもしれませんが、今回のケースは盗まれたものが戻って来ただけですし、自分は『盗難の被害者』だということで、素直に応じれなかったのかもしれません。

一方、Xさんからみれば「自分は『落し物』を拾ったのだから、お礼は頂ける」という気持ちになっても当然でしょう。特に、今回の株券は一定の価値を持っており、相当額の「報労金」となることが見込まれていますので、みすみす逃す手はないと考えるのも自然です。もともとこのような「それぞれの立場からのものの見え方」が異なるわけですから、そこには行き違いが起こりやすく、感情的な対立となってこじれてしまってもおかしくない事案といえます(事実相当激しい口論があったということは、判決の中でも指摘しています。)

細かい内容を含めてぜひ興味のある方は判決の全文を一度お読みいただきたいと思います。裁判自体の勝ち負けとは別に、このような「それぞれの立場からの見え方の違い」をどのように争点として体系的に整理し、解決を図っていくかについて理解できると思います。

判決だけでは伺えませんが、きっと拾い主のXさんも落とし主のYさんも「ごくごく普通に生活をしている方」なのでしょう。それでも、立場が違うことでモノの見え方が変わってしまい、その結果としてトラブルとなるケースは後を絶ちません。こうしたトラブルに巻き込まれないようにするためには、同じ一つの出来事であっても「立場が違えば見え方が変わる」ということを常に意識することが必要なのだと私は考えます。

仕事の上で直接的に役立つことはなさそうな判例ですが、「立場による見え方の違い」を意識する上で非常に役立つ事例であると感じましたのでご紹介いたしました。

最新の画像もっと見る