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ビジネスにも料理にも役立つ“ネタ”が満載!社労士・診断士のコンサルタント立石智工による経営&料理ヒント集

報道に見る:刑事と民事の狭間(ヒューザー編)

2006-01-22 | 経営実務
一日空けてしまいましたが、予告どおり「ヒューザー」の話題について見ていきます。例によって、「ヒューザー」を擁護したり糾弾したりする意図はありません。

こちらはまず「民事的視点」について。今回の“事件”では、耐震基準を満たさない構造設計により建築された建物の売主であるヒューザーに対しては、次の2つの法律から売主としての“瑕疵担保責任”が発生することになります。

【その1】
「住宅の構造耐力上主要な部分等の隠れた瑕疵」については、売主が10年間の瑕疵担保責任を負う(住宅の品質確保の促進等に関する法律 第八十八条(新築住宅の売主の瑕疵担保責任の特例)


【その2】
宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において瑕疵担保責任期間を定めるときには、引渡しの時から2年以上としなければならない。


さて、ここで考えなければならないのが、「そもそも瑕疵担保責任とは?」ということです。瑕疵担保責任の根拠法規である「民法五百七十条」ですので、こちらの条文をみてみましょう。
民法第570条(売主の瑕疵担保責任)
 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。

さらに準用される民法第566条を見ると・・・
第566条(地上権等がある場合等における売主の担保責任)
 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。3 前2項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない。


すなわち、瑕疵担保責任の発動効果としては基本的には「契約の解除(今回の場合は、売買契約の解除)」、それができない場合に「損害賠償の請求」の2つとなります。(「瑕疵の修補(問題のある所を直せ!)」という請求は出来ない点に注意が必要です。)

瑕疵担保責任は「無過失責任」ですので、過失があろうとなかろうとも、ヒューザーとしては「契約の解除(売買契約の解除)」又は「損害賠償の請求」を受けざるを得ないという状況です。ただし、現に相当期間居住されている方の場合にはすでに売買契約が終了しているため「売買契約の解除」ということはできませんので、相当額の「損害賠償の請求」を行うということになります。(ただ、居住期間に応じて価値が減耗している部分がありますので、購入金額の全額の賠償とはいかないでしょう。)

では、ヒューザーは黙って泣き寝入りしなければならないのか?ということですが、これにはいくつかの検討が必要になるでしょう。
まずは「注文者ヒューザー」として今回の物件の発注先=「請負人」である木村建設に瑕疵担保責任の履行を求める方法です。しかし、木村建設は自己破産してしまいましたので、現実的には不可能です。

次に考えなければならないのが「確認検査を行ったイーホームズや地方公共団体」に対して、「不適正な確認検査により損害を被った」ということで損害賠償を請求するということです。(ここにきて、小嶋社長からこの種の発言が出ていますね。)

そうすると、この「確認検査」がどのような行為であるかが問題となります。そこで建築基準法を確認すると、第6条第1項にて
建築主は、第一号から第三号までに掲げる建築物を建築しようとする場合においては、当該工事に着手する前に、その計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならない(抄)

とあり、さらに同条第6項にて
第一項の確認済証の交付を受けた後でなければ、同項の建築物の建築、大規模の修繕又は大規模の模様替の工事は、することができない。

と定められています。

これは、「大規模建築工事を一般に禁止し、これを確認済証の交付を受けるという特定の場合において禁止事項を解除している」ということになります。すなわち言葉では“確認検査”となっていますが、行政行為としては立派な「許可」行為と解釈されます。

そうすると、このような行政行為が行われたときにどのような効力が発生するかということですが、ここで重要となるのが「公定力」という考え方です。

“公定力”とは、ある行政行為がたとえ違法であったとしても、当該行政行為が取り消されるまでは適法の推定が働き、その内容が実体的にも適法かつ有効なものとして承認して従わなければならない。という、行政行為にのみ認められた非常に強い効力のことです。

この「公定力」により、地方公共団体が行った確認検査の結果に従って工事が行われていれば、たとえ確認検査に瑕疵があったとしても「適法な確認検査に基づく工事」ということが出来るようになりますし、確認検査に瑕疵があった場合にはこれによって被った損害に対して賠償請求することが出来るようになると考えられます(行政に対する賠償なので、国家賠償訴訟等の枠組みで行われることになろうかと考えられます)。

一方、イーホームズ等の指定確認検査機関が行った確認検査については、解釈が難しくなります。というのも「指定確認検査機関」が行った行為が「行政行為」となるかどうかという点を考えなければならないためです。

これについては、建築基準法第6条の2にて
前条第一項各号に掲げる建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて、第七十七条の十八から第七十七条の二十一までの規定の定めるところにより国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者の確認を受け、国土交通省令で定めるところにより確認済証の交付を受けたときは、当該確認は前条第一項の規定による確認と、当該確認済証は同項の確認済証とみなす。 (抄録)

というみなし規定があることから、「行政行為に準じた行為」として同様の効力(公定力等)が働くことになると思われます。

そうすると、地方公共団体による本来の建築確認と同様、その確認検査に瑕疵があった場合にはこれによって被った損害に対して賠償請求することが出来るようになると考えられます(ただ、こちらは民間に対する賠償なので、民法の損害賠償請求の枠組みで行われることになろうかと考えられます)。

いずれにせよ、「確認検査」という“許可”を与える行政行為が行われている以上、仮にヒューザーが故意に確認検査を忌避し、又は錯誤をさせるような行為を指示していない限り、確認検査を行ったイーホームズや自治体に対する損害賠償責任が発生する可能性は十分に考えられます。

イーホームズが、“設計書の偽装が行われていた可能性=建築確認検査に瑕疵があった可能性”をいつどこでどのようにヒューザーに伝えたは知りませんが、そんなことは「建築確認検査にあった瑕疵」に対する責任を負うか否かとは関係のない話であり、この瑕疵に対する損害については、“ヒューザーに対して”きちんと賠償する責任を負わなければならないと私は考えます。

今回の事件では、“ヒューザー”が一方的に悪者として報道されていますが、きちんと紐解いていくと「ヒューザーが負っているのは“無過失であっても負わなければならない責任”」であって、実際に過失があったのは「イーホームズ等が行った確認検査」という様相が見て取れます。(ヒューザーとして報道対応などにリードミスがあった点は否めませんが・・・)

今後、どのように自治体・イーホームズ等が対応を進めるのか注目を集めるところではありますが、報道を見る際には「どこに過失の事実」があって、それに対して「誰が誰に対して責任を負わなければならないのか」をしっかりと考える必要があると思います。

なお、私としては、たとえヒューザーが破産宣告を受けたとしても、必ず破産管財人の弁護士がイーホームズや損害賠償請求を行うと思っています。もしそうでなければ、“過失により瑕疵を与えた”者が逃げ切ってしまう可能性がありますし、被害者(購入者)への賠償もままならないことになってしまうと考えるためです。“見抜けなかった”の一言では「過失はなかった」ということには全くならないと私は考えます。



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