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疑問:ヒューザー・ライブドア報道を見ていて・・・

2006-01-18 | 経営実務
昨日から紙面をにぎわせている2つの事件を見ていて、素朴な疑問が浮かんでいます。それは・・・

「彼らはいったい『何を』問われているのか?」

ということです。

なお、あらかじめお断りしておきますが、当然のことですが、このエントリでの意見は決してヒューザー・ライブドアを支持するものでもありません。というか、彼らがはたして「悪人」なのかそうでないのかには、まったく興味がありません。

ここでは単純に、報道を見ていて「法律面から見て、これってどうなの?」という疑問を感じた部分について、私見を交えて述べさせていただきたいと存じます。

ヒューザーのケース


まず、ヒューザーの「喚問証言拒否」についてです。仕事の都合でリアルタイムタイムに喚問の様子を見ることは出来ませんでしたが、その後の報道を見る範囲では

「刑事訴追の恐れがあるので」という理由で、証言を拒否した

という点が「誠実でない!」と非難を浴びているようです。(証言拒否罪なるものまで飛び交っていますが・・・)

さて、そうなると、「証言を拒否することがどこまで違法なのか?」というのが論点となります。

ここで確認しておきたいのが、日本国憲法です。少し憲法を読まれたことのある肩なら御存知でしょうが、憲法第38条1項には
何人も、自己に不利益な供述を強要されない

と書かれています。(一般的には「黙秘権」と呼ばれているものですね。)

これに対し、議院証言法第7条では
正当の理由がなくて、証人が出頭せず、現在場所において証言すべきことの要求を拒み、若しくは要求された書類を提出しないとき、又は証人が宣誓若しくは証言を拒んだときは、一年以下の禁錮又は十万円以下の罰金に処する。

とあります。

つまり、最上位の法規範である憲法の条文を、議院証言法で修正しているわけです。しかし、憲法第38条で保障しているのは「精神的自由」の一形態である黙秘権(自己負罪拒否特権)ですので、これに制限をかけられるとなると、単に「公共の福利のために必要」とは片付けられない話となります。(判例でも、精神的自由に対する制限は、合憲性の推定を受けないとされています。)

また、そもそも「ヒューザー」が行った行為(「瑕疵を認識した上で販売したのではないか」)という点ですが、これも「瑕疵を認識していたかどうか」というのは非常に微妙な話です。なぜならば民間機関とはいえ、公の事務に基づく「確認検査」を受けたわけですから、「明白かつ重大な過失」がない限り、この結果は「こ正しい」という一応の推定(「公定力」)が働くことになります。

そこで、この「正しいという推定が働いている確認検査結果」を信じて販売した「ヒューザー」には、瑕疵担保責任以外に、果たしてどのような「責任」があるのか、不思議に感じるところです。

これが、例えばイーホームズが「確認検査結果を取り消す。ついては、建設・販売・引渡しを中止するように」と明確に示したとすればまた別の話となると思いますが、単に「危ないかもしれない、どうしよう?」と言われたレベルでは、正しいという推定を打ち消す材料とは言いがたいのではないでしょうか?

そもそも、ヒューザーが×というなら、シノケンを初めとした他のデベロッパーも、場合によってはホテルの事業主も×ということにならないのでしょうか?

ヒューザーは営業停止状態に追い込まれていますが、“確認検査で瑕疵を見逃した”イーホームズはまだ営業を続けています。また、ホームページでは次のようなプレスリリースを出しています。
今日の証人喚問を聞き、事件の全容解明には、政治家の不当な関与が明らかになることが重要だと思います。全容が解明されることで、この事件の責任の所在が明らかになり、被害者の救済が図られるはずです。

あなたは、これをどのように読みますでしょうか?

私には、あえてイーホームズに聴きたいことがあります。

瑕疵があると判断したときに、あなた方は「確認検査結果の取り消し」を明確に行いましたか?

ライブドアのケース


次にライブドアの事件です。これもいまいち「何が問題か」ということがよくわかりません。

まず、直接の嫌疑となったM&Aに絡む開示の取り扱いの点ですが、当時の開示情報を見る限り、100%株主として投資組合がきちんと明示されており、一応「形式的には」整っているように見えます。今回の“投資組合”がライブドアが実質支配していたとしても、このような事実は「調べればわかる」範囲な気がします。

また、47thさんのふぉーりん・あとにーの憂鬱でも御指摘の通り、もし投資組合がライブドア配下であることを開示しないという不作為が「不適正な開示」ということに該当するのであれば、
少なくとも証券取引法上は、流通市場において開示すべき内容というのは、有価証券報告書と臨時報告書の提出義務の中にとりこまれていて、これに関する不実記載やmaterial omission(重要事項の不記載)を罰する

というのが本筋なるのではないかと思うわけです。
(ただ、この場合はこの“実質支配”が重要事項に該当するかどうかが争点になりますが・・・)

さらに、今日になって「ライブドア本体の粉飾決算」という話も出てきています。これもいまいち「報道姿勢」の影で本質が見えにくくなってしまっている気がするのですが、どうやら連結企業内での利益調整という色彩が強そうな印象があります。そうすると、「連結決算」への影響はきわめて限定的(単純に言えば0)となりますので、果たしてどこまで「株価を上げる目的」というところがいえるのかどうかというのが微妙になってきます。(もちろん、本当に行われていたとすれば望ましいとは言いがたいのですが・・・)
(1.19追記:この点については「野球参入」との話題も絡んできていますね。また、どうやら「連結対象になる前の買収先企業から架空の(?)売り上げを立てた」という話も出てきているようですので、話は変わってくるかもしれません。)

そもそも、この「粉飾決算疑惑」が“本丸としての狙い”だったとしたら、17日の「ライブドアマーケティング社の開示内容に関する証券取引法違反容疑」での捜索令状で資料を押収した資料を「粉飾決算疑惑」の操作のために使っていいものかどうかという点が、「訴訟手続きの適法性(いわゆる「別件捜査」が認められていいのか?)」という部分で大変気になります。

大きな事件になるほどこのような捜査事例を見るのですが、国家が義務を強制することになる捜査・訴訟手続きだけに、果たして「法律(憲法)的に」許され得る行為なのかどうかということに疑問を感じてしまいます。(巨悪の解明のためには「別件捜査」も同義的に許される・・・ということですむ話ではないと個人的には思います。)

(ちなみに、個人情報保護法では「特定の利用目的を示して受け取った個人情報は、知っているからといって黙って勝手に別の利用目的で使ってはいけません!」ということになっています。民間はだめで国家なら良い・・・・・ってことはないですよね?)

この2つの事案は大きく取り上げられているがゆえに、ともすれば「こいつが悪い!」「悪いやつは全部悪い!」となってしまいがちです。だからこそ、「本当のところって、どうなの?」という姿勢で、事実として何が起こっており、それが“法律に照らし合わせて”どう適合していないのかという視点から常に見据えていかなければならないのだろうと考えます。

大変長くなりましたが今日はこれにて。

(1.19一部追記修正しました。)


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