ギリギリ探偵白書・168

 ギリギリ探偵白書
 「遺伝DV・第1話」



その日、私は早朝に出勤し、事務所の掃除をしていた。
仕事をする環境を綺麗にするのも、仕事の一つだ。
私は掃除を終え、コーヒーを飲み始めた。

(バタバタバタバタッ・・・)

事務所の扉が激しく開いた。

主任調査スタッフの田中が、息を切らして何かを言おうとしている。


阿部   「どうした?朝から」

田中   「あれっ、・・・ふぅ~・・・あのっ・・・」

阿部   「ちょっと落ち着けよ」

田中   「・・・代表、テレビの下って掃除しました?」

阿部   「あんっ?テレビの下は掃除機かけたぐらいだぜ」

田中   「ちょっと、いいですか・・・」

阿部   「おお、何かあるのか・・・」

田中   「おおおおぅ!!あった。ありましたよ」

(なんなんだ、コイツは・・・)

テレビの下には、私が以前、ガンバッた賞として田中にあげた図書券が
お年玉袋に入ったまま、テープで張り付けてあった。


阿部   「田中、ここにモノを隠すなよ」

田中   「・・・すみません。よく泊り込んでいたので・・・」

阿部   「ところで、お前が担当してたDVの件はどうなった?」

※DV・・・ドメスティックバイオレンス、夫婦間・恋人間暴力のこと。

田中   「導入段階ですね」

阿部   「そうか、あとで会議に出すから、資料をまとめとけよ」

田中   「オッス!!」


T.I.U.では、ほぼ毎日、調査会議を行い、調査方針や調査進度などを協議する。

この日もお昼に調査会議を行う予定になっていた。

会議は、代表の私と代表代理のサザビー、主任の田中、特務部から末○の
4人で行う事になっていた。

議題となるのは、夫婦間暴力に関する調査についてである。

お昼になって、カップラーメンを4つ買ってきた田中が、調査会議室に入ってきた。


田中  「え~と、代表はカレーで、サザビーさんはシーフードで・・・」

サザビー「今日はメシ食いながらやるの?」

阿部  「ああ、時間ないからなっ」

田中  「30分後には現地に向かいますから」


田中は家庭内という密室で起こる暴力を立証する難しさを語りながら、
調査機材を仕掛けた場所を部屋の見取り図を使って説明した。


田中  「というわけで、居間で暴力行為が行われているようなんですが」

サザビー「それで、この位置にT-9を仕掛けたのか?」

田中  「T-9?・・・ああ、そうです」

末○  「T-9?・・・避難先は確保しましたよ。
     身元の判明もできないでしょう」

阿部  「その前に、暴力をきちんと立証して、法手続きを取らないとな。
     その辺はどうなってるんだ?」

田中  「・・・その辺は・・・まだです・・」

サザビー「おいおい、頼むぜ、ちゃんとやれよ」

田中  「自分だって、その辺は他人任せじゃないですか!!」

サザビー「自分だって、その辺は他人任せじゃないですか!!(モノマネ)」

田中  「キィーーー!!」

阿部  「はいはい、その辺りは、弁護士さんに聞いとくけど、離婚するんだろ?」

田中  「そうみたいですね」

阿部  「それなら、離婚届ぐらい用意しておけよ。
     それじゃ、田中とサザビーは現地に向かって、調査をやってくれ。
     末○は、手配した避難先までの車両の確保と情報が漏れないか
     もう一度、確認してくれ」

末○  「了解です。では、早速」

田中  「自分は、この人と組むのは嫌ですよ!!」

サザビー「ほれっ、田中。行くぞ」

田中  「もう・・・(ブツブツブツブツ)」


その日、サザビーと田中は現地で張り込みを行い
暴力を奮っているという夫の身辺の調査を行った。

次の日、私が出勤すると、すでにサザビーが事務所に来ていた。
サザビーの様子から見て、とんでもないことが判明したようだった。

サザビー 「あべちゃん、今回のDVの依頼者さんは
旦那さんの事、なんて言ってた?」

阿部   「さぁ、この件の契約担当は、田中だぜ」

サザビー 「やっぱり、知らなかったんだ・・・」

阿部   「何かあるのか?」

サザビー 「旦那さんは、官○だよ。バリバリのエリート」

阿部   「だからどうしたの?」

サザビー 「マズクねぇーか?官○に喧嘩、売ることになるかもしれないぜ」


私にとって、相手が国家権力だろうが、ヤクザだろうが、関係はない。
しかし、以前、同様の案件で相当苦労した事があるから、多少ナイーブに
なってしまうのもわからなくはない。


阿部   「それより、どうなんだ?暴力はあるのか?」



        続く



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 ギリギリ探偵白書は、過去に行った調査を本人了承のもと掲載しています。
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