毎日、波乱万丈。忘れないうちに読んだ本の感想を書こう。
貫井徳郎著「慟哭」(創元社推理文庫)を読んだ。
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慟哭 (創元推理文庫) |
貫井 徳郎 | |
東京創元社 |
小説は二つの物語が代わる代わる描かれる形で進行する。
少女が行方不明になり、死体で発見された。複数起こる同様の事件は同じ犯人の可能性がある。ひとつはその事件を解決する警察の視点から進行。
もうひとつはある新興宗教に入信していく男性の視点。
小説としては、かなり最初のほうでなんとなくの展開が予想できた。そうじゃなきゃいいなとおもいつつ読んだのだけれど、残念な結果だった。
読み終わった当初は、早い段階で犯人がわかってしまうのは小説として残念とおもっていたのだけれど、ついさっきもしや、これは狙いだったのかなとおもった。
読んでいる人は、物語の登場人物に感情移入するもの。この人が犯人じゃなきゃいいなと読みながら読むと、登場人物の心の動きを理解しようと思いながら読むから。
切ない話だった。どんな人のなかにも闇は潜むんだなとおもった。
父親の視点で娘について書かれた小説。母親の視点はよくある気がするけれど父親の視点は読みなれてない。あたし自身が比較的早く父を亡くしており、ひょっとしたらそんなふうに考えてくれたこともあったのかなと、思いながら読んだ。
宗教や儀式が絡んでくる。この「慟哭」が第4回鮎川哲也賞候補になったのが1993年とのことだから、地下鉄サリン事件が起こった1995年よりも時代的に早い。
地下鉄サリン事件の影響で、宗教がらみの犯罪は組織的というイメージがあった。
けれども、この小説は個人でも宗教がらみの事件は起こりうるということを示している。
日本はサリン事件の圧倒的な衝撃で、宗教絡みの事件と言えば組織の印象があるけれど、よく考えれば個人でも起こるんだなとあらためておもった。
貫井さんの小説を読むのは「私に似た人」に次いで2冊目。
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私に似た人 (朝日文庫) |
貫井徳郎 | |
朝日新聞出版 |
「私に似た人」があまりに衝撃で、すばらしかった。複数の方から「『慟哭』がよかった」とおすすめいただいたこともあり、気になって、今回読んだ。
「私に似た人」はテロ事件の話なのだけれど、ネットで知り合ったお互いに面識のない個々人が、おのおのテロ事件を起こす。これも個人の小説。
「慟哭」が出版されたころは、ほとんどの方がインターネットを使っていない時代だったにも関わらず、(結果的に、個人ではなく宗教を予見する小説になってしまったけれど)これからの時代を予見していたんだろうなとおもった。
貫井さんのほかの小説も折をみて読むつもり。
ではまた
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