峠を越えてもまだ先がある

谷 和也 シニアの挑戦 ゆっくりマイペースで

プラムディヤの『ゲリラの家族』

2010年01月14日 | インドネシア語
 プラムディヤ・アナンタ・トゥール初期の作品群のひとつ。1950年に発表された(執筆は49年10月ブキット・ドゥリ刑務所)。この作品は「序」でも明らかにしているが、戦争・民族革命闘争が生んだ物語であり、戦争で破壊された1家族の姿である。後の超大作“ブル島4部作”の発表のずっと前になる。

  ◆『ゲリラの家族』Keluarga Gerilya
(Pramoedya Ananta Toer著、押川典昭訳。初版印刷1983年5月、発行めこん株式会社。332頁 )

 [あらすじ] 独立宣言をしたインドネシア。しかし、オランダが再植民地化を図り、ゲリラを含む対決が続く。舞台はそんなゲリラ家族の“3日3晩”を描く。気がふれてきて怒鳴り散らす母親、3人の男兄弟は家に戻らない。戦闘に明け暮れているからだ。残された4人の子供たち(うち1人男子)は、貧しい生活を余儀なくされながら、互いに安否を気遣う。二男は戦死。家族から尊敬されている長兄が、実は自宅からそう離れていない刑務所に捕えられていることが分かる。長兄は家族にあてた長い手紙を託し、処刑される。自宅の火災、狂乱の母、墓前の家族…。

 [設定] 戦死した二男は実の父親と敵・味方に分かれており、政府側に与していた父を殺害してしまうという設定。このあたりは、混乱期にありうる話だったのだろう。精神に異常をきたしながら、信じて帰りを待つ母。そんな母を大事にせよと残った家族に諭す兄。刑務所内と処刑の描写も真に迫っていて実に細かい。作者自らの投獄体験からか。
 かかわり合うオランダ人には、“だます詐欺師の男”と“ちょい悪”でも善良な混血を配している。暗い場面が多い中で、要所々々にほのぼのとした部分もちりばめている。後味が悪くないのは、こうしたところまで配慮した作者の腕なのだろう。

 [ひとこと] 彼女の立った姿は“点のない疑問符?”というのが3カ所も出てくる。主人公の1人、老母のこと。つまり、すでに溌剌さを失い、腰の曲がった歩く様を指している。よほど気に入った表現なのかもしれない。

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