【毎日の記事で追う日中関係 2005年5月24日】- 中国: 呉儀副首相、モンゴルに到着
(2005年5月24日午後)
- 小泉首相: 話せば分かるのに 中国副首相の会談キャンセル
(2005年5月24日午後)
- 中国副首相帰国: 小泉首相の参拝継続表明で 外務省局長
(2005年5月24日21時33分)
- 中国副首相帰国: 関係抜本改善へ、中国側の「最後通告」
(2005年5月24日22時09分)
- 中国会談キャンセル: 「内政干渉」引き金に
(2005年5月24日23時37分)
- 《朝日》呉副首相会談キャンセル、海外メディアも注視
(2005年05月25日12時10分)
毎日新聞
中国: 呉儀副首相、モンゴルに到着
2005年5月24日 東京夕刊
【ウランバートル大谷麻由美】中国の呉儀副首相は24日正午すぎ(日本時間同)、モンゴル公式訪問のため、ウランバートル空港に特別機で到着した。モンゴル訪問は当初の予定どおり行うことが確認された。
毎日新聞
小泉首相: 話せば分かるのに 中国副首相の会談キャンセル
2005年5月24日 20時31分
小泉純一郎首相は24日夕、中国の呉儀副首相が首相との会談をキャンセルした問題で、中国側が中止の理由を首相の靖国神社参拝など歴史問題だとの見解を示したことについて、「会談すればいいのにね。話せば分かるじゃない」と記者団に語った。「原因は日本側にあるのか」との質問に対しては「私はお会いすると言っている。私がキャンセルしたわけではないですからね。キャンセルした方に聞いてください」と反発した。
一方、中国側の対応が靖国神社参拝に対する姿勢に与える影響については、首相は「私は適切に判断するつもりだ」と述べ、影響を受けることはないと強調した。
毎日新聞
中国副首相帰国: 小泉首相の参拝継続表明で 外務省局長
2005年5月24日 21時33分
【北京・飯田和郎】 中国外務省の孔泉報道局長は24日の定例会見で、呉儀副首相が23日に小泉純一郎首相との会談を中止し、帰国したことについて「緊急の公務」としていた説明を撤回し、小泉首相が靖国神社参拝継続の意向を表明したためだとの見解を初めて明確に示した。歴史問題を最優先にした対応ともいえ、今後、中国が小泉政権批判を強める可能性が高い。日本が目指す国連安全保障理事会の常任理事国入りや、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の再開にも影響を与えそうだ。
孔局長は呉副首相の帰国について「日本の指導者からA級戦犯をまつった靖国神社問題で誤った言論が相次いだ。会談に必要な雰囲気と条件がなくなったためだ」と述べ、会談のキャンセルが対抗措置であることを事実上、認めた。
呉副首相は愛知万博の中国関連行事出席などのため17日から8日間の予定で訪日した。孔局長は会見で「17日以降の日本の指導者の靖国神社問題の発言に関する報道を読めば、(会談キャンセルの理由が)理解できるはずだ」と語った。
小泉首相は16日の衆院予算委と20日の参院予算委で、自身の靖国神社参拝について「他国が干渉する問題ではない」「いつ行くかは適切に判断する」「大局的見地に立って参拝している」など参拝継続と受け取れる発言を繰り返した。中国側はこうした発言に強い不信感を抱き、呉副首相を帰国させる決断をしたとみられる。
孔局長はまた、「私自身は『緊急の公務』とは言っていない。23日夜の私の談話が(中国政府の)公式見解だ」と説明した。孔局長は同談話で「遺憾なことに呉副首相の訪日期間中、日本の指導者が靖国神社参拝問題について中日関係改善に不利益な言論を立て続けに表明した。中国側は極めて不満である」と語っていた。
中国からの靖国参拝中止要求に内政干渉との反発が出ていることについて、孔局長は「日本は戦後、平和の道を歩むと繰り返してきたのに、そのような意見が出ることには憤りを覚える」と反発、内政干渉に当たらないとの立場を示した。
さらに、孔局長は小泉内閣の閣僚らが呉副首相の帰国を「非礼だ」などと批判していることへの見解を聞かれたのに対し、「日本の指導者は侵略の被害に遭った中国人民の感情を無視した発言を繰り返している」と答え、責任の所在は日本にあるとの認識を強調した。
毎日新聞
中国副首相帰国: 関係抜本改善へ、中国側の「最後通告」
2005年5月24日 22時09分
中国が24日、呉儀副首相の帰国理由が靖国神社参拝をめぐる小泉純一郎首相の言動にあると明確にしたのは、小泉首相が靖国参拝への対応を変えない限り、日中関係の抜本的な改善はあり得ないという中国側の「最後通告」ともいえる。
中国の胡錦涛国家主席は昨年11月、チリで会談した小泉首相に05年が「反ファシスト勝利60周年、抗日戦争勝利60周年にあたる」と指摘し、「敏感な年に、日本が敏感な問題を妥当に処理し、日中関係の健全な発展を保つことを希望する」と述べた。
「敏感な問題の妥当な処理」とは、小泉首相が就任以来、継続してきた靖国神社参拝を見送ることにほかならない。今年4月のジャカルタでの首脳会談でも、それを念押ししていた。中国側によると、胡主席が歴史問題への反省を行動に移すことなどを求めた「五つの主張」に対し、小泉首相は賛同したとされる。
しかし、4月の反日デモの嵐を経てようやく実現した呉副首相の訪日期間前後に、小泉首相は靖国神社参拝への中国の批判を「内政干渉」と表明し、参拝継続の意向を明確にした。中国はメンツをつぶされただけではなく、約束を破られたと受け止めた。中国側の衝撃は日本の予想をはるかに超えていた。
呉副首相の帰国に対する小泉首相の発言にも中国側は怒りの交じった失望感を深めている。「会いたくなければ、会わなくてもいい」「野党の審議拒否が伝染したのかな」。いつもの“小泉語”は中国には「戦争被害国の痛み」(孔泉報道局長)に無神経な言葉としか映っていない。【北京・飯田和郎】
毎日新聞
中国会談キャンセル: 「内政干渉」引き金に
2005年5月24日 23時37分
小泉純一郎首相と呉儀・中国副首相との会談中止から一夜明けた24日、中国外務省が靖国参拝をめぐる小泉首相の発言が会談キャンセルの理由だと正式に表明し、修復に向かいかけた日中関係はまたもや袋小路に入り込んだ。首相の靖国参拝を歴史認識問題とみる中国に対し、首相が「内政干渉」と反発し、さらに中国が態度を硬化させる悪循環。政府・自民内では反日デモの対応に続く中国の「非礼」に反感が募り、4月23日の日中首脳会談で確認した「友好重視」の機運もかすみ始めた。【平田崇浩、北京・飯田和郎】
◇日本、悪循環を懸念
中国側を刺激したのは今月16日の衆院予算委員会での首相答弁だ。「戦没者に対する追悼の仕方に他国が干渉すべきではない。いつ行くかは適切に判断する」との発言は参拝継続への意欲表明であると同時に、中国の参拝批判を「内政干渉」と位置づけたものだった。翌17日に呉副首相が来日したが、首相は20日の参院予算委でも「大局的見地に立って参拝している」と強調した。
中国側は16日夜、武部勤・自民、冬柴鉄三・公明両党幹事長に先週末の訪中を招請。与党筋は「呉副首相が会談する前に首相発言の真意を聞く狙いでは」と受け止めた。しかし、政府筋によると、21日に中国共産党の王家瑞対外連絡部長と会談した武部氏は中国の靖国参拝批判を「内政干渉だ。信教の自由にも反する」と指摘、王氏が「こういうことを言う政治家は初めてだ」と激怒した。武部氏は24日、「相互内政不干渉という考え方もあると言った」と説明したが、中国側は「内政干渉」が政府・自民党の統一見解と受け止めたようだ。
中国側の強い反発を受け、これ以上の関係悪化を懸念する公明党からは「首相には大局観を持って行動してもらいたい」(神崎武法代表)と参拝中止を求める声も強まる。ただ、首相本人は24日夕、記者団から「靖国参拝にこだわることが国益か」と質問されても「中国側がこだわっていると思わない? 両方の言い分があるからね」と参拝継続の方針は変えない構えを示している。
靖国問題が泥沼化すれば「歴史認識問題を処理できない日本」への国際的な風当たりが強まる恐れもある。細田博之官房長官は24日の会見で「(双方が批判し合う)悪循環に入るようなことはすべきでない」と事態の沈静化を図る姿勢を強調。「内政干渉」についても「一国の主権を侵すような干渉が厳密な意味での内政干渉。(靖国参拝批判が)それに当たるとは思っていない」と否定した。
しかし、その後に中国側が「緊急の公務」としていた会談中止の理由を撤回。「外交儀礼」(外務省幹部)として「公務」の内容を問い合わせなかった日本政府も、ただちに中国側に真意を照会する手続きを取った。「中国は靖国問題を駆け引きに使っているだけ。日本の国連安保理常任理事国入りを阻止するための揺さぶりだ」(政府関係者)といった反感も募っている。
今月末には東シナ海のガス田開発をめぐる日中実務者協議が北京で開かれる予定。政府はこれを中国の今後の対日スタンスを確かめる機会とみている。政府・与党内には「対中外交はこれからが本番」(外務省幹部)との意見がある一方、「小泉首相の任期中の解決は難しい」(自民党幹部)と日中関係の行き詰まりにあきらめムードも広がっている。
◇中国、強硬論に傾斜
「中国における抗日戦争の意味をご存じですか。8年間の戦争で死傷者3500万人、直接的な損失は1000億ドル、間接的な損失は6000億ドルに達した」
中国外務省の孔泉報道局長は24日の会見で「(小泉首相との会談取り消しで)日本に謝罪しないのか」との米国人記者の質問に、日中戦争の無残さを強調した。日本では否定的見解が多い数字だが、中国当局者が具体的に中国側の被害を語るのは異例だ。
「緊急公務のため」との帰国理由を覆すことは会談取り消しに続く外交上のルール違反だ。それでもあえて、日本と世界のメディアに日中関係悪化の原因が日中どちらにあるかを問いかけた。
「こうした歴史的背景がありながら自らの約束を破り、国際社会に表明した反省も顧みず、A級戦犯を祭った靖国神社問題で誤った発言を繰り返す日本の指導者がいる。どうして被害国の国民の気持ちが理解できないのか」。名指しはしないものの、小泉首相を非難する孔局長の言葉には怒気さえ含まれていた。
中国は反日デモを受けたジャカルタでの日中首脳会談以降、関係改善にかじを切った。日中外相会談、次官級政策協議で対話を積み重ね、呉儀副首相の訪日成功に結びつける段取りだった。
しかし、靖国参拝を内政問題とする小泉首相の一連の発言がその前提を崩した。A級戦犯を祭る神社への参拝は中国の国民感情を傷つけ、軍国主義者と一般の日本人を区別してきた中国の対日政策の基本方針を動揺させる。内政を超えた問題というのが中国の見解だ。
胡錦涛指導部があいまいな態度を取れば、軍や政権内の対日強硬派のみならず、一般市民からも激しい突き上げを受けるのは確実。呉副首相自身にも傷が付きかねない。指導部は、あくまで対日関係重視の姿勢を続けるか、会談キャンセルかの選択を迫られることになった。小泉首相との会談について、19日の時点でも孔局長が「重要な会談で、議題も相当に広い」と期待感を示していたのは、指導部の方針がまだ固まっていなかったことをうかがわせる。
その後も胡国家主席が自民党の武部幹事長らとの会談に応じた経緯から見ると、対立する意見の集約に時間をかけ、胡主席が最終的に強硬論に軍配を上げた構図が透けて見える。
■日中関係をめぐる最近の主な動き■
4月2日 中国・成都市で日本の国連安保理常任理事国入りに反対する若者ら数十人が日系スーパーを襲撃
9日 北京で大規模な反日デモ。日本大使館が投石被害
10日 町村信孝外相が反日デモで王毅駐日大使に抗議
16日 上海で大規模な反日デモ。日本総領事館が投石などの被害を受ける
17日 町村外相が北京で李肇星外相と会談
23日 小泉純一郎首相と胡錦涛国家主席がジャカルタで会談
27日 王毅大使が自民党外交調査会で講演。中曽根内閣時代に「首相、官房長官、外相は在任中に靖国神社を参拝しないという紳士協定があった」と発言
5月7日 町村外相が李外相と京都で会談。中国側は愛知万博出席のために来日する呉儀副首相を政府の賓客として迎えることと、小泉首相との会談を要請
13日 北京で日中外務次官級の総合政策対話を開催
16日 小泉首相が衆院予算委で靖国神社参拝について「戦没者に対する追悼の仕方に他国が干渉すべきではない」と発言、参拝継続への意欲を表明
17日 呉副首相が来日
20日 小泉首相が参院予算委で靖国神社参拝について「大局的見地に立って参拝している」と発言
21日 自民党の武部勤幹事長と公明党の冬柴鉄三幹事長が北京で中国共産党の王家瑞対外連絡部長と会談。武部氏の「内政発言」に対し王部長は「日中平和友好条約の新しい見解を示すのか」と反発。武部氏は後に発言の真意を説明
23日 呉副首相が緊急帰国
朝日新聞
呉副首相会談キャンセル、海外メディアも注視
2005年05月25日12時10分
中国の呉儀(ウー・イー)副首相が小泉首相との会談をキャンセルして帰国し、外交問題になっている事態について、各国のメディアは「中日、国際マナー舌戦」(韓国・東亜日報)、「中日関係は厚い氷結期に」(英
フィナンシャル・タイムズ)などと報じ、強い関心を示している。しかし、英国では4月に起きた中国の反日デモ報道に比べ扱いは小さく、米国やアジア諸国では悪化する日中関係の流れに位置づけ、日中の主張をほぼ等距離で伝える報道が目立つなど、冷静な分析が主流なようだ。
米
ワシントン・ポスト紙は、靖国問題を巡る両国の感情的な対立が東アジアにおける「戦略的なライバル関係の拡大意識」によって激化していると指摘。
ニューヨーク・タイムズ紙は、中国側の対応は日本側には「明らかな侮辱」としたうえで、「
中国側の行動は恐らく裏目に出て、反中強硬派の安倍晋三幹事長代理の小泉後継を手助けするだろう」とするロビン・リム南山大教授の分析を引用した。
韓国の
東亜日報は、「日中間には、歴史だけでなく、台湾、釣魚島(日本名・尖閣諸島の魚釣島)問題、日本の安保理常任理事国入りなど地域の主導権を争う問題が多く、しばらく冷却状態が続くだろう」と、状況の改善に悲観的な論者の見解を紹介した。
朝鮮日報も日中の「冷たい政治関係が熱い経済関係まで悪化させることはないだろう」としながら、「軍事・経済の覇権をめぐる競争が激しくなり簡単には解消されない」という専門家の見方を伝えている。
戦後60年で歴史認識を巡る日本と周辺諸国の摩擦に注目が集まるドイツでは、多くのメディアがこの問題を取り上げた。
フランクフルター・ルントシャウ紙は、中国は「
キャンセルする以上、理由をはっきりと示さなければならない」と中国政府の外交手法を批判した。
ロシアの主要各紙も一斉にこの問題を報道。「
日本の首相は中国の怒りを恐れていない」(
新イズベスチヤ)などと、日中間の険悪な空気を伝えている。
日中双方の立場を等距離で伝える論調が目立つ中、中国に批判的な意見が目立つのがマレーシア。「マレーシアでは補償もすんだ話とみなされており、問題視されない」(地元大手紙幹部)。
台湾では、呉副首相の突然の帰国は中国の「外交失態」(
自由時報)と位置づける見方が目立っているが、
中国時報は「
副首相訪日に込められた『関係改善の手がかりに』という北京のメッセージが分からない小泉外交の愚かしさ」と書いている。
【参考】
中国情報局
日中首脳会談:中国メディア「5つの主張」伝える
発信:2005/04/24(日) 11:43:06
日本の小泉純一郎・首相と中国の胡錦涛・国家主席による日中首脳会談がインドネシアのジャカルタにて、現地時間23日夜行われた。対話促進で一致した今回の首脳会談について、中国新聞社では、「胡・主席が日中関係の困難な局面を極力速く好転させるための
五つの主張を提示」という角度で報じた。
その五つの主張は、
- 第一に、「日中共同声明」、「日中平和友好条約」、「日中共同宣言」の三つの文献を遵守し、実際の行動をもって、21世紀の日中友好協力関係の発展を目指すこと。
- 第二に、「歴史を鑑(かがみ)として、未来に向かう」という考え方を堅持すること。日中間の近代史上において、「日本の軍国主義が発動した侵略戦争が、中国人民に大きな災厄を与えたこと、また日本人民もその害を深く受けたこと」とし、正確に歴史を認識し、相対すことは、あの侵略戦争に対して示す反省を実際の行動に移さなければならず、決して、中国とアジア諸国の人民の感情を傷つけてはならない、とした。
- 第三に、台湾問題を正確に処理すること。「台湾問題は中国のコアの利益であり、13億の中国人民の民族的感情に関連する。日本政府は、『一つの中国』政策の堅持と『台湾独立』への不支持を何度も標榜してきており、日本側が実際の行動をもって、その承諾を表現することを希望する」とした。
- 第四に、対話を通じて、対等に協議を重ね、日中間の溝を妥当に処理、溝を解決するための方法を積極的に模索し、日中友好の大局が新たな障害や衝撃を受けることないよう回避すること。
- 第五に、相互理解を増進し、共同の利益を拡大、日中関係の健全かつ安定的な前向きの発展を促すため、双方が広範囲の領域における交流と協力をさらに拡大し、民間の友好的交流を強化すること。
この文面から読み取れるように、22日に小泉・首相が行った「村山談話」を踏襲した演説について、直接的に触れられておらず、むしろ「実際の行動」を強調している。特に第二項目では、小泉・首相の靖国神社参拝を、第三項目では、日台間の要人往来などを、それぞれけん制した形だ。(編集担当:鈴木義純)