Takahiko Shirai Blog

記録「白井喬彦」

連戦・胡錦涛会談、台湾はどう見るか

2005-05-02 00:40:27 | 国際
中華人民共和国の略称は「中国」であるが、台湾も正式名称は「中華民国」だから、略称は「中国」ということになる。「一つの中国」という言い方は、「中国」という共通の略称で成立しているわけだ。

1992年の香港会談において合意された、いわゆる「92共識(92-Consensus)」により、中国側は「一箇中国(一つの中国)」という考え方が双方で合意に達したと見なした。一方、台湾側はそういう意味の合意ではなかったとしている。そのため、このコンセンサスはその土台においてコンセンサスとはならず、ずっと棚上げにされたままだった。

しかしながら、中国との経済関係をとみに深める台湾としては、協商関係の基盤としての双方間のコンセンサスを確立する必要性に迫られている。そのため、しばしばこのコンセンサスに言及する機会があるが、そのときは同時に必ず、「中華民国が存在している事実、台湾における自由と民主政治の成果、中国が台湾に向けて配備しているミサイルの撤去などに加えて、このほど成立した「反国家分裂法」への反対表明なども言い添えることになっているらしい。(もちろん、これは与党民進党の立場ではあろうが)

ところが、連戦はそういったことには一切触れず、「92共識」に関する胡錦涛発言を受けて更に踏み込んで述べたのであった。もちろん、連戦は「92共識」という言葉は使わなかった。彼は「一中各表(一箇中国 各自表達)」という言葉を使った。「一箇中国」ではあっても「各自表達」と繋がると「一つの中国」とは解釈されないということか? 中国語は難しい。

この連戦発言を行政院大陸委員会の呉燮主任委員が非難したのはこの点にあった。つまり、中華民国という「国家」が存在している現実に触れず、ミサイル撤去、「反国家分裂法」反対などを表明しなかったら、このコンセンサスについても中国側の解釈通りでよいと見做されてしまうではないかというものである。

しかしながら、ミサイル撤去、「反国家分裂法」反対などに言及したら、このコンセンサスはこれまで通り埋もれたままに留まってしまうだろう。そういうことには言及せず、野党の立場とはいえ、5項目の合意に達したのは、現時点ではかなり評価できることかもしれない。なにしろ、経済関係は待っておれないほど急進展しているからである。

いずれにせよ、台湾からの対中投資は奔流のように大陸に流れ込み、現在のままでは、台湾経済はいずれは中国に飲み込まれてしまいかねない。陳水扁総統にしても、土壇場に近い状況にあると認識していることは間違いない。しかしながら、陳総統は、第3項に言及されている「両岸共同市場」という構想に関連して、「経済貿易関係緊密化協定」の締結には反対であるとし、台湾が第二の香港・マカオになる意思のないことを表明した。


Radio Taiwan International
60年ぶりの国共トップ会談、台湾はどう見るか

台湾の最大野党・中国国民党の連戦・主席と中国共産党の胡錦涛・総書記との会談が、(2005年4月)29日午後、北京の人民大会堂で行われた。中国国民党と中国共産党の党首による会談は60年ぶりで、国民政府が1949年、台湾に移って以来初であるため、世界的に注目を集めている。

会談終了後の午後5時半に記者会見が開かれ、国民党の張栄恭・スポークスマンは、連戦氏と胡錦涛氏が会談で得たコンセンサスを発表した。

コンセンサスでは、1992年に台湾側を代表する海峡交流基金会と中国大陸側の海峡両岸関係協会が香港で会談を行った際に得た合意事項を基礎として、国民党と共産党が、台湾と中国大陸との対話の早期再開を含む五項目の交流策を進めていくことが示された。

連戦氏の中国大陸訪問は世界的には注目を集めているものの、台湾では大きな反発を呼んでいる。対中国大陸事務担当の中華民国の政府機関、行政院大陸委員会の呉燮主任委員は、台湾時間29日夜8時過ぎに記者会見を開き、連戦氏と胡錦涛氏の会談結果は政府の期待とは大きな差があり、しかも、各界の意見が一致していない、いわゆる「92年の香港合意」を基礎に両岸交流を推進することで合意したため、中華民国政府としては非常に失望したとすると共に、国民党が記者会見を開き、胡錦涛氏との会談内容を発表したことは違法の疑いがあると指摘している。

呉燮・主任委員は国民党の中国大陸訪問団に対して、帰国後、関係資料を提供するよう呼びかけると共に、国民党の党本部を訪ねるか、もしくは国民党の関係者を行政院大陸委員会に呼び、説明を求める可能性も排除しないとしている。

呉燮・主任委員は、連戦氏は胡錦涛氏との会談の中で、中華民国が存在する事実を強調せず、中共が台湾に向けて配備するミサイルの撤去も要求せず、台湾の主権の確保に尽力せず、中共が制定した台湾への武力行使の法的根拠「反国家分裂法」に対する台湾住民の反感も伝えず、台湾にある中華民国の自由、民主政治の成果を中国大陸側に伝えることもしなかったとし、連戦氏は台湾住民の声を対岸に伝えなかったと暗に批判した。

また、陳水扁総統は29日午前、日本民主党の「日本台湾友好議員懇談会」のメンバーと会見した際、中華民国と日本のFTA自由貿易協定締結への協力を要請するとともに、北京当局が台湾とCEPA(経済貿易関係緊密化協定)を締結する報道についても触れ、それは台湾を北京当局の特別行政区、第二の香港、第二のマカオとして矮小化するもので、断固受け入れることは出来ないと強調している。陳・総統は台湾も中国大陸もWTO世界貿易機関の一員であり、WTOの枠組みで、台湾と中国大陸はFTA自由貿易協定を締結すべきであり、結ぶべきものはCEPAではないと強調した。

陳・総統は、北京当局は台湾とFTAを締結することが出来なくても、米国、日本などの国家が台湾とFTAを締結することに反対しないよう希望すると語った。一部のメディアでは、北京当局は今回、連戦氏の中国大陸訪問に合わせ、台湾とCEPA(経済貿易関係緊密化協定)を結び、関税優遇措置の実施や貿易、投資の手続きの簡素化などを行う構想を示すと伝えた。中国大陸側は現在、香港及びマカオとCEPAを結んでいる。

一方、陳唐山外交部長も29日、連戦氏の中国大陸訪問について談話を発表、国際社会では中共が「反国家分裂法」を制定したことに反対する声が上がっているが、台湾における野党の連戦・国民党主席と宋楚瑜・親民党主席が相次いで中国大陸を訪問することは(宋楚瑜・親民党主席は5月上旬にも中国大陸を訪問する予定)、国際社会に両岸が和解ムードに包まれているかのような錯覚を与え、台湾の外交をさらに困難にさせると述べ、相次ぐ野党党首の中国大陸訪問が台湾にもたらすマイナスの影響を指摘した。

なお、李登輝・前総統は5月1日に演説を発表して、相次ぐ野党党首の中国大陸訪問は台湾の主権と民主政治に危機をもたらすことと警戒を呼びかける予定。

それでは、連戦・国民党主席と胡錦濤・中共総書記との会談を見てみよう。

中国大陸北京を訪問している、台湾の最大野党・中国国民党の連戦・主席は29日午後、北京の人民大会堂で中国共産党の胡錦濤・総書記と会談。連戦氏は、今日の会談は中国国民党と中国共産党にとって60年来初めてで、両党の交流としても56年来最もハイレベルで意義深いものだとした上で、今回の中国大陸訪問の意義について語った。

連戦氏は、1992年に双方の努力により基本的なコンセンサスが出来、1993年には双方の代表である、海峡交流基金会(台湾)と海峡両岸関係協会(中国大陸)のトップ会談が実現し、両岸双方に希望を与えたが、ここ10年あまり、それぞれが共通の願いから遠ざかったことは遺憾だと述べた。

連戦氏は、平和はすべての人の願いだが、その実現には対話が必要と指摘、対話にはその枠組みが必要で、国民党としては、1992年にまとめた、「一つの中国、それぞれの立場表明」とのコンセンサス(1992年香港会談での合意)を枠組みの基礎とする考えを示した。会談は台北時間午後3時半から5時10分まで、1時間半余にわたって行われた。

会談終了後、午後5時半に国民党訪問団は記者会見を開き、会談の結果を報告、連戦氏と胡錦濤氏が会談を通じてまとめた、「両岸の平和的発展に向けての共通の願い」を発表した。

「願い」では、台湾海峡両岸関係は現在、歴史的なカギとなる時期にあるとした上で、平和で安定した発展への道を共同で探り、互いが信頼し、助け合うことで双方に利益がある局面を作り出さねばならないとしている。

また、「1992年香港会談での合意」を堅持し、台湾独立に反対すると共に、両岸関係の発展を促し、両岸同胞の利益を確保することが両党共通の主張だとした。そして、この基礎に基づいて、両党が今後、行うこととして以下の五項目を挙げた。
  1. 「1992年香港会談での合意」を基礎に、両岸双方の対話の早期再開を促すこと。

  2. 敵対状態の終結、平和協定の締結を促すこと。互いの軍部が信頼し合えるシステムの確立も含まれる。

  3. 両岸間における経済面の全面的交流と経済協力システムの確立を促すこと。両岸間における直接通航、通商、通信のいわゆる「両岸三通」の実現、投資と貿易の保障、台湾の農産品の中国大陸における販売問題の解決を含む。対話再開後は両岸共同市場について優先的に討論する。

  4. 台湾住民が関心を示す、国際組織の活動への参与の問題に関する協議を促すこと。対話再開後、WHO世界保健機関の活動への台湾住民の参与などについて共同で討議する。

  5. 国民党と共産党の定期的な対話システムを作る。


※「1992年香港会談での合意」とは、1992年、中華民国政府の代表である海峡交流基金会と北京当局の代表である海峡両岸関係協会が香港で協議して、「一つの中国」問題について得たコンセンサス。

台湾では、「『一つの中国』の定義について両岸双方がそれぞれの立場を表明する(独自解釈する)」ことで合意したとしているが、北京当局では、「両岸双方は一つの中国に属する」、すなわち、「一つの中国原則」で一致したとしており、29日の会談で胡錦涛氏が連戦氏の主張を受け入れたかどうかが注目される。

胡錦涛氏は今年1月、「一つの中国、新三段論」を発表、台湾と中国大陸との関係について、「1949年以来、両岸は統一されていないが、中国大陸と台湾が一つの中国に属する事実は変わっていない。これが現状だ」と発言しており、これは中共が、1949年以来、両岸が別々に統治されている事実を認めたものと受け止められている。

今回の連戦・国民党主席と胡錦涛・中共総書記との会談での合意内容により、「1992年香港会談での合意」の解釈の違いを理由に対話再開を拒んできた中共が新たな動きを見せるか、そして、この合意内容を台湾住民が受け入れるかが注目される。

なお、陳水扁・総統は1992年の香港会談では、双方は合意に達していないと主張している。


台湾週報
連戦・胡錦涛会談に対する政府のプレスリリース
行政院大陸委員会 2005年4月29日

 連戦・国民党主席と胡錦涛との会談結果に対し、行政院大陸委員会は以下のプレスリリースを発表した。
  1.  国民党と共産党の指導者が4月29日に行った会談の結果について、中国は両岸関係を改善する誠意のないことを再度明確に表明した。これに対し、わが政府は深い遺憾の意を表明する。

  2.  中国が台湾に対し引き続き軍備を強化し、台湾国民の生命と財産、および台湾海峡の平和と安定を脅かし、国際社会においてわれわれを圧迫するなどの横暴なやり方を変えようとせず、さらには法的根拠をつくり非平和的手段で台湾海峡問題を処理しようとしていることは、みな既成の事実である。今日これらに加え、中国は台湾の野党を積極的に抱き込み、しかも両岸関係への立場を変えようとせず、依然として「92年のコンセンサス」を両岸対話再開の条件として堅持しており、政治的障害となっている。今回の国共両党による会談は世の人びとに、中国が両岸関係を改善する誠意のないことを改めて認識させるものとなった。

  3.  中国の指導者との会談において、連戦・国民党主席が中国に対し、中華民国が存在する事実を正視するよう説かなかったこと、台湾に対するミサイル配備の脅威と台湾に対する敵意の緩和を促さなかったこと、台湾が国際社会で尊厳を持って活動できるよう働きかけなかったこと、台湾国民が「反国家分裂法」の非平和的手段に訴えるやり方に強く反発していること、および台湾の民主主義と自由の価値の尊さを正確に認識させなかったことに、われわれは失望を表明する。