言葉って面白い!

この日本語、英語でなんていうの?その奥に深い文化の違いが見えてきませんか。

日本語で尻取り。英語で尻取り。

2015年08月19日 | 言葉
 尻取りは懐かしい子供の遊び。でも意外にも認知症の予防にも良いのだとか。
本当かどうか真偽はともかく、ベルギー旅行の間に見聞きしたり使ったりしたモノ、というしばりで、尻取りをしてみました。
「ワッフル」「ルネ・マグリット」「トマトソース」「スマホ」…
当然のことながら、外国旅行で出会ったモノですから、日本語と外国語が混ざり、外来語の比率が高くなります。
そのうち、日本語の尻取りではあまり出会わないやりとりが増えてきました。
「トマト」「トルネアゴーシュ(左へ曲がれ)」「ん?次は、シュ?それともユ?」
「サーブ」「ブルーベリー」「ん?次は、リー?それともイ?」
外来語、あるいは完全な外国語が増えれば増えるほど、次の始めの音が何なのか、曖昧になりやすいのです。
これは、日本語と、英語を始めとする欧州言語の発音の成り立ちの違いに由来するものです。

 日本語は、ほとんどの音節が子音と母音一つずつのセットで成り立っています。
しかし、多くの欧州言語はそれとは異なります。英語で考えると、例えば、set、put、treat、などの語尾につくtは、子音だけで母音とセットにはなっていません。
これらの単語を無理やり日本語のカタカナで表記すると、セット、プット、トリート、と、いずれも「ト」という言葉で表されます。しかし日本語のトは英語で書けばtoで子音のtと母音のoを組み合わせた音です。英語のputに見られる子音のtのみの発音とは異なります。
もし英語で尻取りをすれば、setの次にtenderもありですし、tackleもOKのはずです。
しかしそれらをカタカナ表記すると、「セット」「テンダー」とか、「セット」「タックル」となり、日本語の尻取りとしては成り立ちません。

shで終わる単語などはもっとすごい。
日本語では例えば「ラッシュ」の次はシュから始まるのが普通の感覚ですが、ユからもありかもしれません。
「ラッシュ」「シュークリーム」。あるいは「ラッシュ」「湯飲み」といったところです。
 英語では全く異なります。Rushがshで終わると考えれば、sheもshockもありですし、hで終わると考えれば、he、husband、headなども可能かもしれません。
カタカナで書けば大混乱。
「ラッシュ」「シー」。
「ラッシュ」「ショック」。
「ラッシュ」「ヒー」。
「ラッシュ」「ハズバンド」。
「ラッシユ」「ヘッド」…。
まったく尻取りとしての体を成していません。

尻取りという言葉遊びの文化は、母音と子音がセットで発音され、かつスペルと音が常に一致している日本語でこそ、成り立つものなのかもしれません。
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左に曲がってください。

2015年08月16日 | 旅の話し
 夏休みを利用して、ベルギーを旅してきました。
ブリュッセルを起点にしましたが、一泊だけデュルビュイという小さな街を目指してレンタカーを走らせました。
私のベルギーの印象は、人口密度が高い国、というもので、日本の平地がそうであるように、どこを走っても家々が点在しているのだと思っていました。が、田舎道を走ると、意外にも北海道のような広い平原が続く場所も多くあり、のどかなドライブを楽しむことができました。

慣れない右側通行、左ハンドル、そして道路標識も正確には分からないので、不安です。そこでレンタカー店でナビゲーションシステムを借りることにしました。
さっそくデュルビュイや目的とする街・城を登録してスタート。
日本でよく見るナビゲーターと比べると小さくて頼りなげな機械。使い方も、出てくる表現もよく分かりません。
何より女性の声で出てくる指示がすべてフランス語なので、まったく理解不能。
結局、連れのiPhoneと携帯WiFiを使ったGPS機能に頼りながらのドライブになり、ナビゲーションシステムの能力の10%も活かしきれませんでした。
その割には、30秒に一度くらいのペースで、訳の分からないフランス語の指示を強制的に聞かされます。
でも完全に電源を切ってしまうと、せっかく払ったレンタル代がもったいないので、仕方なく謎のフランス女性の声を旅の伴としたのでした。

ところが半日くらい走ると、興味深いことが起こりました。
何となく、この女性の声の法則性に気づくのです。
似たような場面で、似たような表現が繰り返されています。
日本語にしてみると「トルネアゴーシュ」と聞こえます。
またちょっと異なる場面で似ているけど別の表現が繰り返されます。「トルネアドロト」と聞こえます。
どうやら、左や右にカーブを切る直前でこれらの表現が聞こえてくるようです。
もしかして、これは左に曲がってください、右に曲がってください、と言っているのではないか。
「トルネア」というところが共通点なので「~に曲がってください」の部分で、「ゴーシュ」が左、「ドロト」が右ではないか。

 一度その法則に気づくと、左に曲がる時に必ず「トルネアゴーシュ」と聞こえてくるのが、面白くなってきました。
 宿に着いてから調べてみると、どんぴしゃり。
左に曲がってください。tournez a gauche
右に曲がってください。tournez a droite
 結局、二日間のドライブで、学んだのはこの二つの表現だけでしたが、興味深い体験でした。

 私たちの多くは、ある程度物心ついて、母語を学んでから、英語や他の言語を学びます。学ぶ時には母語が頭の中にあるので、その母語を使って「翻訳」し「理解」しながら、単語や熟語の意味を覚えていきます。
 ところが、生まれて間もない子供が母語を身につける時には、「翻訳」できる言語を持っていません。
「こんなシチュエーションでお母さんが話しているあの言葉は、きっとこんな意味を持っているのだろう」と、自分の中で法則性を見つけながら、身体の中に染み込ませていくように学びます。
いわば「幼児メソッド」とでもいうべき、赤ちゃん独特の言葉の学び方です。
 大人になり母語を持てば、この学び方の必要がなくなり、また脳も固くなるのでしょう、幼児メソッドによる言語習得が極端に下手になります。
 今回の「トルネアゴーシュ」は、私にとっては幼児メソッドに近い形で表現を学んだ数少ない経験の一つでした。
でも2日かかって学んだ表現はわずか2つ。このペースで学ぶと、フランス語で日常会話を話せるようになるまでに、何十年もかかりそうです。
いかに赤ちゃんが「幼児メソッド」を使って驚異的な速さで言語を習得していくか。それが実感できた体験でした。
コメント (1)
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