言葉って面白い!

この日本語、英語でなんていうの?その奥に深い文化の違いが見えてきませんか。

兄弟とbrother

2010年08月17日 | 日本人
面接の場などでこんなやりとりがありますね。
「あなたには兄弟は何人いますか?」
「兄が一人、妹が一人います。三人兄弟です。」

ごく一般的な会話で、日本人であれば特に違和感を持ちません。
でもよくよく考えてみると、「姉妹」という言葉もあるはずです。
なぜその言葉を使わずに、妹も含めて「三人兄弟」と言って違和感がないのでしょうか。
あるいは、そもそも質問の時に、「あなたには、兄弟や姉妹が何人いますか?」となぜ聞かないのでしょうか。

実は「姉妹」も「兄弟」と同じく、古く中国から伝わった言葉です。
万葉集にもすでにその用例が見られます。
ところが、日本語では古来、男女の区別をあまり強く意識していなかったようで、やがて男にも女にも「兄弟」という言葉を使うようになりました。
そのため、「兄弟」だけでは男か女か分からず、男兄弟、女兄弟などとあえて区別しなくてはならない場面もあるほどです。

それでは英語ではどうでしょうか。
Do you have any brothers?
No, I don’t. I have two sisters.
この会話は、日本語に直訳するとちょっと変になります。
「あなたには兄弟はいますか?」
「いません。妹が二人います」
え?兄弟はいないって言ったのに…!?
これは、日本語の「兄弟」が男女の区別があいまいなのに対して、英語でははっきりと区別するために起こった現象です。
一般に英語などヨーロッパ言語の多くが「男」と「女」の区別をはっきりさせるのに対し、日本語ではあいまいなことが多くあります。
英語ではox〔雄牛〕とcow〔牝牛〕のように、オスメスで単語が異なるものもあります。フランス語やドイツ語などでは、男性名詞、女性名詞などの概念も残っています。
一方、日本語では、例えば「彼」という言葉は、英語の概念が入ってくるまで男も女も指す三人称の代名詞でした。
英語がheとsheを区別しているのにならって、「彼女」という新しい言葉を創ったわけです。
「兄弟」とbrother、sisterの違いも、こうした言葉の文化的背景の違いの一例といえるでしょう。

面白いのは、英語では男女の違いを明確にする一方で、年齢の違いをあまり気にしないことです。
先ほどの I have two sisters.では、実は女兄弟が二人いることは明確ですが、姉なのか妹なのかは分かりません。
そもそも日本語のように「兄」と「弟」、「姉」と「妹」をそれぞれ区別した単語がないからです。
区別するなら、elder sister、big brotherなどと形容詞をつけなくてはなりません。

儒教の教えが浸透していたからでしょうか、日本には韓国などと似たような「長幼の序」の概念が強く歴史に刻み込まれています。
年長者は敬うべきだ、というわけです。
先輩、後輩などという言葉が英語にしにくいと言われますが、それもこうした文化的差異の表れでしょう。
一方で、西洋に比べると日本では「男女の差」にそれほど意識を払わなかったのかもしれません。
江戸時代まで、日本で浴場といえば男女混浴が当たり前だったと言います。
「性の差」が強く意識された文化・哲学を発達させてきた西洋では、あり得ないことです。
こんな文化の差が、言葉の世界にも反映されているのかもしれません。
コメント
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