作家の開高健は、色紙を頼まれると、「明日、世界が滅びるとしても、今日、あなたはリンゴの木を植える」と書いたという。座右の銘といってよいだろう。
これは、コンスタンチン・ビルゲル・ゲオルギウ『第二のチャンス』、登場人物としてのマルチン・ルターの言葉である。「どんな時でも人間のなさねばならないことは、たとえ世界の終末が明日であっても、自分は今日リンゴの木を植える‥‥」。1度聞いただけで心に残る。
アップル社の故スティーブ・ジョブズは、17歳の時「毎日を人生最後の日だと思って生きれば、いつか必ずひとかどの人物になれる」という言葉と出会い、それ以来、毎朝「もし今日が人生最後の日だとしたら、私は今日これからやろうとしていることを本当にやるか」と自問したという。
スタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチである。ジョブズはさらに、「いつか死ぬ日は訪れると記憶にとどめておけば、人生で重要な選択をする際に大きな助けになる。周りの期待、自分のプライド、失敗や恥をかくことへの恐れなど、そんなものはすべて死の前では意味を成さなくなり、真に重要なことだけが見えてくるからだ」と続けた。
私たちは、明日世界が滅び、今日が人生最後の日だとしても、実は、快楽に身を投げ出したり、まして怠惰に思考停止したりはしない。たとえば、鉛筆を持って描きつづけてきたキャンバスに向かうし、1週間後に予定されている試合の準備をするのである。
もちろん、外的環境がそれを許さないかもしれないけど‥‥。一歩踏み出すことに意味があるからだと思われる。機に臨む精神としては、成果や結果がすべてではない。
社会人になって何年目かの頃、成果や結果がすぐに出なくて悩み気が重い時期があった。そんなとき、精神科医で多くの著作を残した「小林司」の『生きがいとは何かー自己実現へのみち』(NHKブックス1989)に出会って救われたというか、重い雲を振りほどき心がスカッと晴れた気持ちにさせてくれた。
彼はその本の中で、「自己実現」を次のように定義している。(続く)