きみは毎日忙しく仕事に追われている。上司や同僚にはきちんと気を使い、職場ではほがらかな態度を崩さない。飲み会の誘いはあまり断ると角が立つので、半分くらいは参加する。
年に数回しか会えないが、今年もそろそろいつ帰ってくるのか、年末年始の予定をラインで聞いてみる。18で家を出て大学、社会人と1人暮らしも8年目か。
学生時代からの友人も両手では足りないほどいる。ガールフレンドはいたり、いなかったり。なにが不自由ということもないし、きっとそこそこ幸福な人生なのだときみは思っている。
自分の子供同様に、私の見るところ、多くの若い日本人はそんなふうに日々を過ごしている。それなのに、なぜかひとりぼっちだと感じる若者が多い。
たぶん、きみは周囲の人々や職場の慣習にあわせて、自分を窮屈に折りたたみ生きている。自分の色を消して、組織の中に溶け込もうとしているのだろう。
この国は平和で、あれこれと事件は起きても、欧米に比べれば治安は格段にいい。世界でも指折りの科学技術と豊かさをもっている。けれども、何故か、若者の多くは自分はひとりぼっちだと感じている。
立場は違うだろうけど、もし自分が相手のような状況になったらどんなふうに感じ、どう考えるか、そしてどんな行動にでるか。
他者に共感する力と想像する力、それらをそれなりに身に付ければ、かなりのところまで他人の気持ちだって、自分の気持ちだって理解し合えるのだ。また、そうでなければ、小説や映画など成り立つはずもない。
だから、私がきみに期待するのは、この共感と想像の力なのだ。誰にも理解されずにひとりぼっちだなんて思い込んでいないで、自分の方から勇気をもって他者を理解する気持ちをきいてみよう。
心を繋げるための力を育んでみよう。もちろん完全に理解することなどできないかも知れない。私たちは自分自身のことさえ、いつだってわからなかったりするのだから。ときには、驚くほど誰かと気持ちが通じることだってあるかも知れない。
最後にひとつ。きみはあまり無理しないで、人と同じようにしないほうがいい。きみらしく自分の速度でゆっくりと進めばいい。
親心からの心配事は尽きない。直接言葉で言えないもどかしさもあり、心配より安心や期待をするように自分に言い聞かせる。