文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

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2011/7/3…「働かないアリに意義がある」長谷川英祐〈著〉…朝日新聞7/3 13面より

2011年07月03日 13時31分02秒 | 日記

効率追求の社会に刺さる論     
佐々木俊尚(ジャーナリスト)

「パレートの法則」というのがある。
商品の売上げの8割は、上位2割のベストセラーによって生み出されている。
そういう法則だ。
会社の利益の8割は、優秀な上位2割の社員が生み出している。

下位2割の社員は、ほとんど仕事をしない。
この法則が、実はアリの社会にも存在しているという。
その理由を実に明快でわかりやすく解説したのが本書。
働きアリの7割は休んでいるし、2割にいたってはずっと働かない。
怠慢な2割を取り除いても、今まで働いていた残りのアリのまた2割が働かなくなる。

なぜか。
本書によれば、交替要員のためなのだという。
皆がいっせいに働いていると、同時に全員が疲れてしまう。
誰も働けなくなる時間が生じてしまって、巣に致命的なダメージが生じてしまう。
巣を維持するようにしている合理的なシステムなのだという。
なるほど!
本書のキモは、アリの興味深い生態を描くことではない。
アリの世界の話をグローバリゼーション経済の問題に結びつけてしまったのが、著者の巧みなところである。
この戦術が、地味な生物学の本をベストセラーへと押し上げてしまった。
本書は書く。
「みんな働く意欲は持っており、状況が整えば立派に働く。それでもなお、全員がいっせいに働いてしまうことのないシステムを用意する」 
企業は能力の高い人間を求めて効率を追求し、グローバリズムがその傾向に拍車をかけていると説く。
しかし「余裕を失った組織がどのような結末に至るのかは自明」と結論づけるのだ。
先進国から富が失われ、格差が進行する世界の現状。
生きづらさを感じている多くの人たちに、この論は深々と突き刺さったのだろう。
アリとグローバリゼーションという、実に見事なマーケティングの勝利である。


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