文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

いま太陽光パネルや電気自動車を大量導入すると、中国の産業、就中(なかんずく)、シリコンやレアアース等の重要鉱物産業への依存となる

2022年05月26日 12時09分05秒 | 全般

以下は、エネルギーは安全保障最優先に、と題して、今日の産経新聞「正論」に掲載された、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 杉山大志の論文からである。
本論文は日本国民のみならず世界中の人達が必読。
見出し以外の文中強調は私。
政府の「クリーンエネルギー戦略」中間整理が発表された。
ウクライナ戦争を受けて「脱炭素の前に脱ロシア」となったものの、結局は莫大(ばくだい)なコストをかけて政府主導の脱炭素投資をすることになっている。
激変する世界において、かかる戦略で大丈夫だろうか。
年15兆円のコスト負担 
元来この「クリーンエネルギー戦略」は、脱炭素の投資を進めるべく岸田文雄首相の肝いりで構想されたものだった。
ところがロシアのウクライナ侵攻で安全保障の重要性が増し、中間整理では1章がエネルギー安全保障となり、2章の脱炭素と2部構成になった。 
けれども安全保障と脱炭素の折り合いはついていない。
単に、木に竹をつないだだけだ。
エネルギー安全保障には、供給途絶の防止のみならず、安価なエネルギー供給が含まれる。
ならばコストのかかる脱炭素とは根源的なトレードオフ(両立できない関係性)があるが、その意識が希薄だ。 
同戦略は年間15兆円の投資を必要とする。
投資といえば聞こえがよいが、原資は国民が負担をしている。
いますでに再生可能エネルギー賦課金だけで国民は年間2.4兆円のコスト負担をしている。
クリーンエネルギー戦略では、更なる再生可能エネルギー導入に加え電気自動車や水素利用など既存技術に比べ莫大なコスト増になりそうな項目が目白押しだ。
国民負担はどこまで増えるのか。
これでは経済成長など望めないのではないか。 
ただし同戦略には蓄電池工場、半導体工場、データセンターヘの投資など、経済安全保障に寄与しつつ経済成長にもつながる項目も並んでいる。
いまは世界諸国で政府による産業誘致合戦が行われ、日本としてもやらざるを得ない。 
今後年末にかけて同戦略は具体化されてゆく予定だが、その内容については改めて精査をして、日本が高コスト体質になることを避け、経済成長に真に資するものに限定すべきだ。
その際、「脱ロシアの次に脱炭素」ではいかにも安全保障についての認識が甘い。
よく現状を分析して再構築すべきだ。
論点を2つ挙げよう。 
新冷戦で脱炭素は後退 
地球環境問題が国際的に注目されるようになったのは、1992年の「地球サミット」からだ。
このサミットで気候変動枠組み条約も合意された。
これが1991年のソ連崩壊による米ソ冷戦終結と同時期なのは偶然ではない。 
東西のイデオロギー対立が終了し、フランシス・フクヤマは民主主義の勝利による「歴史の終わり」を宣言した。
「世界全体が欧米型の民主主義に収斂(しゅうれん)して、平和が達成される」というユートピア的な高揚感のもと、地球規模で協力して解決すべき課題として、地球環境問題が大きく取り上げられるようになったのだ。 
ところがユートピアは実現しなかった。
経済成長した中国は、欧米が期待したように民主主義になるのではなく、ますます独裁色を強め、世界の覇権をうかがうようになった。
急激な民主化に失敗して混乱したロシアは、強権的な国家に戻った。
周辺域においてクリミア併合などの武力紛争を続け、欧米諸国ともぎくしゃくした関係を続けた。
そしてついにウクライナでの戦争となり、関係の悪化は決定的になった。 
いまや新しい冷戦の始まりは明らかとなり、温暖化問題を考える前提は根本から変わった。
もはや世界規模の協調による解決など望むべくもない。
そして欧州を筆頭に諸国は化石燃料の増産と調達に奔走している。
先進諸国は、まだ脱炭素の看板こそ下ろしていないが、その優先順位は大きく下がってゆくのは必定だ。 
脱ロシアの次は脱中国
目下の脱ロシアの次は何か。
米国共和党の重鎮、マルコ・ルビオ上院議員は警告する。
「私はウクライナで戦争が起きている今でも、中国に注目している。米国にとって本当の問題だ。中国の脅威は口シアに千倍する。経済規模は遥(はる)かに大きく軍事力も優れている。既に米国企業はビジネス優先のために多様な中国政府の立場を代弁すらロビイストになり下がった」 
トム・コットン上院議員は、脱ロシアと同時に脱中国を進めるべきだ、とする。
「中国がアメリカに対して経済的に優位に立っていると思い、台湾に実力行使することのないようにすべきだ。米国経済を中国経済と戦略的に切り離すべきだ。特に、半導体やレアアースなどの重要かつ戦略的な産業は、今すぐ始める必要がある」 
欧州がロシアのエネルギー、とくに天然ガスにどっぷりと依存していたことが脆弱(ぜいじゃく)性となり、ロシアを好戦的にしてしまった。
この代償はウクライナでの戦争という破滅的なものだった。 
翻って、いま太陽光パネルや電気自動車を大量導入すると、中国の産業、就中(なかんずく)、シリコンやレアアース等の重要鉱物産業への依存となる。
のみならず、脱炭素の巨額のコスト負担は、日本の製造業を痛めつけ、国力を毀損(きそん)する。 
脱炭素政策で日本に脆弱性をつくりだし、中国に付け入る隙を与えてはならない。
直ちに再考すべきだ。  

(すぎやま たいし) 
2022.5.26

 



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