数年前まで、定期的に上京していた。
何故か、26日が多かった。
日本国民のみならず世界中の人たちが必読の月刊誌HanadaとWillの発売日である。
おかげで、私は新幹線の2時間半が全く苦にならないどころか楽しみだった。
行きと帰りで、それぞれを読了できるからである。
以下は中国に生まれ育ち北京大学で学び神戸大学に留学、京都嵐山で日本に開眼。
日本人を妻として日本に帰化した石平さんは世界有数の中国通である。
本論文も、そのことを証明している。
中国は「第二の日本」にならない
最近、中国経済の沈没が確定的になるなかで、「それでも中国は"第二の日本"にはならない」という論調が中国人の間で出回り始めている。
要するに、中国経済はいくら落ち込んでも、バブル崩壊後の日本の惨状にはならないというものである。
たとえば今年3月、駐日大使の呉江浩氏が日本の経済誌『財界』のインタビューのなかで「中国は"第二の日本"になるまい」と述べ、日本を小馬鹿にしている。
「夜郎自大」という四字熟語を生み出した国の大使だから、愚かなことを言い散らかすのは分からないではないが、問題は日本の「識者」やマスコミがこの論調を鸚鵡返しすることである。
それによって日本の一般国民が惑わされないように、しっかりと反論しておかなければならない。
だが反論といっても、本欄の結論は前述の阿呆駐日大使の発言と同じで、「中国は"第二の日本"にはならない」というものである。
もちろん、中国には第二の日本になる資格などなく、そもそも「なりたくてもなれない」という意味でだが。
日本は1990年代初頭のバブル崩壊以降、長期的な経済の低迷に喘いできたが、中国と根本的に異なるのは、日本は世界最高の技術水準を誇り、基幹産業を築き上げたあとにバブル崩壊を経験したという点である。
たとえば、1980年に日本の自動車生産台数はアメリカを超えて世界第1位となり、半導体産業も1時期だが世界シェアの7割を占めた。
こうした盤石な産業基盤があったからこそ、バブル崩壊後の長い低迷期においても経済は破綻せず持ちこたえられた。
だが中国は、これといった基幹産業がないまま不動産バブルが発生した。
つい最近まで、不動産開発業が経済の3割を占めるほど「支柱産業」となっていることから見ても、産業立国の日本に対し、中国は「不動産立国」であると言える。
その中国で、いままさに不動産バブルの崩壊が起きているが、支柱産業が潰れたあとの中国にいったい何か残るというのか。
よく日本では「中国はいまEV自動車に力を入れて輸出の国際シェアを拡大している」といった報道が見られるが、これは高い技術力によるものでは決してなく、政府による法外な補助金給付で成り立っている虚業である。
案の定、米国とEUは、補助金給付を問題視し、中国からのEV車輸入規制の方向で動いている。
米国やEUの規制が発動された暁には、中国のEV車産業は破滅的な打撃を受けてたちまち沈没するだろう。
では、ここでもう一つ、一国の経済レベルと国民生活水準を計るのに最重要な「1人当たりの国内総生産(GDP)」で見てみよう。
日本では、バブル崩壊直後の1992年に1人当たりGDPは3万1千ドルを超え、世界でも有数の裕福な国となっていたことがわかる。
対して、2023年の中国の1人当たりGDPは12,541ドル、30年前の日本の4割以下である。
しかも中国の場合、非常に激しい貧富の格差が生じており、大半の国民は「1人当たりGDP」のレベルよりもはるかに困窮した生活を強いられている。
李克強前首相(故人)が2020年5月の記者会見で、「中国では6億人の月収が1千元(1万5干円)」との具体的数値を披露して世界を驚かせたが、それ以降の経済状況はさらに悪化の一途をたどっているため、現状はさらに悲惨だろう。
考えてもみてほしい。
総人口14億人中6億人が、日本円にして1万5千円程度の月収で生活しているような国が「第二の日本」になれるだろうか。
そのような問いは、はじめから答えが分かりきった馬鹿げた問いではないか。
はっきりと断言する。
不動産バブル崩壊後の中国は「第二の日本」にならない。
今後、中国は不動産バブルの崩壊に留まらず、経済全体が崩壊し、失業率はさらに拡大し、社会全体が絶望的な停滞期に突入するだろう。
その結果、社会的大動乱が起きる可能性が大いにある。
2023年に入ってから、中産階級を含めた多くの中国人が、ビザなしで入国できる南米諸国を経由してアメリカヘの密入国を企むケースが急増している。
彼らのなかには、南米の国々から何千キロも歩いてアメリカを目指す者もいる。
この凄(すさ)まじい行動の原動力となっているものは、まさに彼ら中国人たちの自国が迎える真っ暗な未来に対する絶望感であろう。
そんな国のいったいどこが、「第二の日本」になるというのか。
2024/3/27 in Tokyo