文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

しない場合より中国は有利に立てた。とすれば彼らはそうするだろう。沖縄であれどこであれ、誰も望まない戦争の場に日本がなるのである。 

2023年01月20日 11時28分12秒 | 全般

以下は昨日発売された週刊新潮の掉尾を飾る櫻井よしこさんの連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。

米中戦争で日本も戦場になる

米国の有力ジンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)がこの1月、「次の戦争の最初の戦いー中国の台湾侵略机上作戦演習」を発表した。
2年間かけて行った24回の机上作戦演習の総まとめだ。 
演習の特徴は同企画の全てを軍関係者が担ったことだ。
シビリアンである政治家の参加なしで、中国の台湾侵略に関して厳密に軍事的要素に基づいて予測した。
なぜこのような形を取ったのか。
米国防総省(DoD)の過去複数回にわたる米中戦争の机上演習では、いつも結果に曖昧さが残った。
肝心の軍事力の較量に関する情報は公表されなかった。
情報秘匿の理由は米国にとって好ましくない結果が出たからだと推測された。 
ランド研究所上席研究員のデイヴィッド・オチマネック氏は「米国対中露戦争では、我々はボロ負けだ」と語って憚らない。
元国防次官のミッシェル・フロノイ氏は「国防総省の机上演習を見れば現在の米国防力整備計画で将来、中国の侵略を防ぎ、彼らを敗北に追い込むことはできない」と語る。 
2021年3月には空軍中将のクリントン・ヒノテ氏が「米空軍の机上作戦演習は10年以上前から中国軍よりも米空軍の遠隔攻撃能力が弱体化してきたことを示していた。我々の敗北へのペースは加速している」と警告した。 
国防総省の演習はたとえば20年先の米中軍事力の較量など長期的展望を想定して行われがちだという。
不利な情報を公開せず、足下よりも長期展望に注目するだけでは適切な戦略は生まれない。
その意味でCSISが政治的要素を排除し、軍事的視点を基本に机上演習を行ったことの意味は大きい。 
演習は中国が2026年に台湾上陸を目指して攻勢に出るとのシナリオをもとにした。
基本的、悲観的、楽観的、非常に悲観的、絶望的の5つのパターンで演習を行った。
結論から言えばその全てで、中国は勝てなかった。 
勝てないとは「中国が台湾に上陸し、占拠することはできない」だ。

在日米軍基地を攻撃 
全シナリオで中国が実施した攻撃のパターンは同じだった。
まず爆撃により初動数時間で台湾の海・空軍に潰滅的打撃を与える。
強力なロケット軍に支援された中国軍が台湾を包囲し、万単位の中国兵が軍艦、民間の船舶を総動員して台湾海峡を渡る。
中国空軍は海岸の上陸拠点を守る台湾軍を空から攻撃する。
ここまでは中国が優勢だ。
しかし、すぐに崩れる。
台湾陸軍の烈しい反撃で中国軍の上陸は阻止され、中国兵は台湾内陸部に侵攻できない。
米軍の潜水艦、爆撃機、戦闘機、攻撃機が日本の自衛隊の補給、支援を得て素早く展開し、短時間に中国陸海空軍を無力化する。
中国軍は在日米軍基地及び自衛隊基地、さらに米軍水上艦を攻撃するが、優位に立てず、台湾の自治権は守られる。 
日米台の勝利には3つの重要な条件があるとされた。
①台湾がもちこたえること、
②米国が在日米軍基地を戦闘作戦に使用すること、
③米国が中国防衛圈の外側から中国艦隊を迅速かつ大量に攻撃できること、だ。 
①について。
中国の台湾封鎖は海空双方で非常に堅固で、米軍はこれを突破できない。
24通りの演習で米軍は封鎖された台湾に支援部隊も装備も弾薬も送り届けることができなかった。
つまり、台湾は侵略された時点で白分たちが保有している武器装備だけで戦わなければならないのだ。
ウクライナと異なり地上ルートで他国からの支援は受けられない。
真の意味で自力の強化が必要だ。 
台湾の砲弾備蓄は戦闘開始から2か月で不足し始め、攻撃力は半減する。
3か月で砲弾は尽き、砲兵部隊は歩兵部隊にならざるを得ない。
日本にとって他山の石である。 
②については日本の覚悟が問われる。
今月12日からワシントンで外務・防衛の両大臣による日米「2+2」の会談が、続いて13日には岸田文雄首相とバイデン大統領の首脳会談が行われた。
12日の「ウォールーストリート・ジャーナル」紙は社説で日米首脳会談を「今年、最重要の外交イベント」と書いた。
「日本の国防の目醒め」を歓迎し、「日本は要(かなめ)」だとした。 
日本の防衛費増額は歓迎され、日本が新たに保有する反撃能力に関して、「効果的な運用に向けて日米間の協力を深化させる」ことになった。
日本への期待は大きく、その分、日本自身が何か国益かを考えなければならない。 
中国は台湾侵攻の過程で確実に在日米軍基地を攻撃する。
侵攻開始から少し時間をおいて、日米の戦闘機が台湾支援で集合した頃合いでの攻拏になるだろう。
そのときの中国軍は日米両空軍に陸上で大損害を与えることができる。
戦闘機の破壊は地上駐機のときが一番容易なのだ。

国土を破壊される日本 
中国軍の攻撃は日本を台湾有事に引き込み、日中の戦いとなる。
演習では、中国軍が米軍基地のみならず自衛隊の基地を爆撃した方が、しない場合より中国は有利に立てた。
とすれば彼らはそうするだろう。
沖縄であれどこであれ、誰も望まない戦争の場に日本がなるのである。 
この事態に対処する道はひとつである。
中国の習近平国家主席に攻撃を思いとどまらせるに十分な、強い反撃力を日米の協力体制の中で顕示していくことだ。
彼らに侵攻を諦めさせるに十分な強い軍事力と、戦う意思が必要なのである。 
③は台湾のみならず、日本を含めた自由陣営の要望だが、肝心の米バイデン政権の考え方はどうか。 
CSISの演習はこちら惻の勝利だとの結論になったがその実態は読むだに心が痛む。
日米は艦船数十隻、航空機数百機、軍人数千人を失う。
米国は世界最強国としての地位を長年にわたって失い、台湾は国土を破壊され、経済再生に苦労する。
国土を破壊される日本も同様だろう。 
他方中国海軍は崩壊し、水陸両用部隊は壊滅、数万人の兵士が捕虜となる。
中国共産党の存続にも影響が出るだろう。 
それでも米中双方は自国を戦場にした大国同士の核戦争に発展するのを避けようとするはずだ。
その一方で日本と台湾は確実に戦場となる。
戦争回避が重要なゆえんだ。 
だからこそ、再度強調する。
中国の考え方、習近平氏の考え方を変えるだけの強い力、即ち抑止力を持たなければならない。
CSISの報告は台湾有事では必ず中国は日本をも攻撃することになっている。
CSISでなくとも、それは殆どの専門家の見方だ。
ならば、日本は最も賢く軍事費を使い、力を強化することだ。
鍵のひとつが潜水艦である。
静粛性に優れた世界トップ水準の潜水艦を中国は最も嫌がる。
軍事費の使い方、経済、国の在り方の全てを戦争を前提に考えなければならない局面に私たちは立ち至っている。
そうした状況の厳しさを日本全体で共有したい。

 



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