菅原貴与志の書庫

A Lawyer's Library

損害賠償の範囲(予見可能性)

2011-08-03 00:00:00 | 債権法改正
第4 損害賠償の範囲
3.<予見可能性>

・ 企業の契約実務では、事前に損害発生の可能性を予見し、これをできる限り契約文言に反映させるように努め、リスクの軽減を図っています。
・ しかし、契約に取り込まれた損害発生の可能性は、損害賠償請求の要件事実では「債務不履行の事実」として発現するのであって(総説①)、416条2項の予見可能性の問題(同④)とは次元を異にするものでしょう。
・ また、従前の損害賠償実務からすれば、前記(総説)のとおり、予見可能性は、特別損害の場合に問題となるものと考えます。すなわち、特別損害を検討するに際し、債権者にその予見可能性(=債務者が予見し又は予見しうべきであったこと)の主張・立証が要求されるのではないでしょうか(債権者側に立証責任)。
・ この場合、予見の主体は、債務不履行の主体(=債務者)と解するのが自然です。また、予見の時期も、帰責性(④)に関するものと考えれば、行為責任の考え方からも、それは債務履行時または債務不履行時であって、契約締結時ではないと思います。
・ また、予見の対象を損害(ないし、それを含む事情)とすれば、損害の発生と数額(総説②)は債務者のみが知りうるところですから、その点からも、予見の主体=債務者となるはずです。
・ 企業実務においては、契約締結時に予見可能な事実があれば、契約の中に取り込むのが一般的だと思います。仮に書面による合意がなかったとしても、当事者双方で予見可能性を確認できるのであれば(あるいは、当事者の合理的意思解釈にて)、そこに契約の拘束力を認めてもよいように感じます。しかし、かかる事由の発生は、契約時の予見可能性を問うような帰責性の問題ではなく(④)、債務不履行の事実の発生と考えれば足りるのではないでしょうか(①)。

 以上は、経産省「債権法改正検討WG」委員として意見具申した概要を連載しています(6/08参照)。