目分量が得意、だ。
縫い代1.5㎝を物差し無しでとか、
グラニュー糖30gを測り無しでとか、
水150㎖を蛇口から鍋へとか、
チラシをこの集合ポストへ不明枚とか、
今何時何分とか、
けっこうな確率でぴったりやる。
※
[あらすじ] 飼い犬ジーロくん、8月24日15時過ぎに息を引き取る。
享年15歳と1ヶ月。
※
床が毛だらけなので、掃除をしたくない。
何を言っているのかと思われるかもしれない。
抜け毛も始末したくない、あの犬の名残りだから。
マットが臭いので、洗濯をしたくない。
犬の体臭が残っている。
気に入ってくれたマットに顔をうずめて鼻から深く息を吸う。
嗅覚はすぐに慣れてしまうので、最初によく楽しむ。
トイレシートで歩きにくいので、部屋を片付けたくない。
母が特養に入居してから、トイレシートを敷く範囲を広げた。
そのすみっこで、犬はよく箪笥にもたれて立っていた。
※
廊下との間の扉も、正面のアルミサッシも、勝手口の扉も、
開け放てば風通しが良い。
15年ぶりに、風通しの良い室内で過ごしている。
犬が脱走しないように、注意深く閉めてきた扉が多い。
※
日の出前に目が覚める。
犬よりちょっと先に起きて、いつでも外に出られるように準備してきたからだ。
朝起きて、何をすればいいのだろう。
毎朝7時前に、友人Mにメールして、犬が起きていれば点滴の手伝いに来てもらい、
寝付いていれば起きたら知らせると報告した。
この時間は何に使えばいいのだろう。
夕方、気温が下がってくる。
いや、今日は陽射しが有ったから、まだアスファルトは熱いだろう。
肉球を気遣う必要は、無いのだった。
※
空間も時間も、自分の都合で行動していい。
スーパーへ買い物に行って、ゆっくり献立を考えながら食材を選んでもいいのだ。
目を覚まして、ウンチの上に尻餅をついているんじゃないかと
急いで買い物を済ませて帰らなくても、いいのだ。
扉を開ける時に、扉の向こうで隙間に鼻を突っ込んでこちらの様子を嗅ぎ伺っているやつがいないか、
気を付けてやらなくても、いいのだ。
居間に戻るたびに、犬がどこでどんな状態になっているか、確かめるために隅々に目を配る癖も、
もう必要無いのだ。
どこでウンチをし始めてもすぐに対処できるように、部屋のあちこちどこからでも手の届くところに
トイレットペーパーを置いておく必要も、無いのだ。
※
地下室で楽器の録音作業をする。
納得いかない部分は録り直す。
急いで切り上げて、犬の様子を見に行かなくてもいい、
落ち着いてじっくり作業すれば良い。
涼しい地下室から居間に戻って、
やはりあの日の暑さがいけなかった、
少し涼しい日だったからクーラーをつけなかったのが良くなかった、
という思いが責める。
※
犬の飼い主というものは、どんなに尽くしても、
後悔する。
それは、自分の経験でも、他の人の様子を見ていても、知っている。
「ああすればよかった」は、言っても始まらない。
「病院へ行かずに家で看取れば良かった」と思うとしても、
病院へ行かずに家で看取っていたら、
「病院へ行って注射してもらっていたら助かったかもしれない」
と思うだろう。
ただ、あのさみしがりやの犬、老いて私を呼ぶ力も出なくなった犬、
あの犬の望みは、医療よりは私がそばにいることだっただろうと
どうしても思う。
※
この頃は、友人Mが来ても挨拶できなくなっていた。
朝、目が覚めて、私を見ても、嬉しそうな表情を出せなくなっていた。
表せないだけで、挨拶する気が無いわけではない、
犬のような生き物が、飼い主に挨拶できないほど体が苦しい
ということなのだろう。
※
庭に穴を掘る。
いつも抱き上げてやっているのだから、大きさは分かっている。
部屋のマットの上に横たえてある亡骸を測る必要は、無い。
庭のどこに埋めるか、考えた末、
家から近い位置にした。
居間から見える場所、墓からも室内が見える場所にした。
長方形の穴を掘る。
少し考えて、鼻先の分を少し、掘り足した。
鼻先がつっかえると、穴の中に遺体を下ろしたときに、
首が不自然に曲がってしまうからだ。
健康な頃には14㎏以上有った。
痩せて、10㎏を下回った。
しかし、寸法が小さくなるわけではない。
※
マットの上に寝かせていた遺体を、そのまま布でくるむ。
もう、見られない。触れない。
遺体が有ればいつまでも見たり触ったり嗅いだりしてしまうので、
午前中には埋める、と決めたのだ。
布にくるんだ遺体を穴に下ろす。
おっと。
ちょっと寸法が足りなかった部分が有る。
後肢の部分だ。
前肢は手首に相当する部分が少し曲がって硬直しているが、
後肢は伸びた形で硬直している、ということも有る。
ジーロは、脚の長い犬だった。
「スマートだねえ!足長いねえ!かっこいいねえ!」とよく言われた。
性格を知っているので、かっこいいというよりは
ひょろっと頼りない感じがしたものだ。
穴が少し狭くて、後肢が斜めに上がってしまう。
これじゃあ、雨が降ったら土から足が突き出るという恐怖な絵になってしまう。
後肢の下を、少し掘り足して、
土をかぶせて、
埋めた。
もう会えない。
縫い代1.5㎝を物差し無しでとか、
グラニュー糖30gを測り無しでとか、
水150㎖を蛇口から鍋へとか、
チラシをこの集合ポストへ不明枚とか、
今何時何分とか、
けっこうな確率でぴったりやる。
※
[あらすじ] 飼い犬ジーロくん、8月24日15時過ぎに息を引き取る。
享年15歳と1ヶ月。
※
床が毛だらけなので、掃除をしたくない。
何を言っているのかと思われるかもしれない。
抜け毛も始末したくない、あの犬の名残りだから。
マットが臭いので、洗濯をしたくない。
犬の体臭が残っている。
気に入ってくれたマットに顔をうずめて鼻から深く息を吸う。
嗅覚はすぐに慣れてしまうので、最初によく楽しむ。
トイレシートで歩きにくいので、部屋を片付けたくない。
母が特養に入居してから、トイレシートを敷く範囲を広げた。
そのすみっこで、犬はよく箪笥にもたれて立っていた。
※
廊下との間の扉も、正面のアルミサッシも、勝手口の扉も、
開け放てば風通しが良い。
15年ぶりに、風通しの良い室内で過ごしている。
犬が脱走しないように、注意深く閉めてきた扉が多い。
※
日の出前に目が覚める。
犬よりちょっと先に起きて、いつでも外に出られるように準備してきたからだ。
朝起きて、何をすればいいのだろう。
毎朝7時前に、友人Mにメールして、犬が起きていれば点滴の手伝いに来てもらい、
寝付いていれば起きたら知らせると報告した。
この時間は何に使えばいいのだろう。
夕方、気温が下がってくる。
いや、今日は陽射しが有ったから、まだアスファルトは熱いだろう。
肉球を気遣う必要は、無いのだった。
※
空間も時間も、自分の都合で行動していい。
スーパーへ買い物に行って、ゆっくり献立を考えながら食材を選んでもいいのだ。
目を覚まして、ウンチの上に尻餅をついているんじゃないかと
急いで買い物を済ませて帰らなくても、いいのだ。
扉を開ける時に、扉の向こうで隙間に鼻を突っ込んでこちらの様子を嗅ぎ伺っているやつがいないか、
気を付けてやらなくても、いいのだ。
居間に戻るたびに、犬がどこでどんな状態になっているか、確かめるために隅々に目を配る癖も、
もう必要無いのだ。
どこでウンチをし始めてもすぐに対処できるように、部屋のあちこちどこからでも手の届くところに
トイレットペーパーを置いておく必要も、無いのだ。
※
地下室で楽器の録音作業をする。
納得いかない部分は録り直す。
急いで切り上げて、犬の様子を見に行かなくてもいい、
落ち着いてじっくり作業すれば良い。
涼しい地下室から居間に戻って、
やはりあの日の暑さがいけなかった、
少し涼しい日だったからクーラーをつけなかったのが良くなかった、
という思いが責める。
※
犬の飼い主というものは、どんなに尽くしても、
後悔する。
それは、自分の経験でも、他の人の様子を見ていても、知っている。
「ああすればよかった」は、言っても始まらない。
「病院へ行かずに家で看取れば良かった」と思うとしても、
病院へ行かずに家で看取っていたら、
「病院へ行って注射してもらっていたら助かったかもしれない」
と思うだろう。
ただ、あのさみしがりやの犬、老いて私を呼ぶ力も出なくなった犬、
あの犬の望みは、医療よりは私がそばにいることだっただろうと
どうしても思う。
※
この頃は、友人Mが来ても挨拶できなくなっていた。
朝、目が覚めて、私を見ても、嬉しそうな表情を出せなくなっていた。
表せないだけで、挨拶する気が無いわけではない、
犬のような生き物が、飼い主に挨拶できないほど体が苦しい
ということなのだろう。
※
庭に穴を掘る。
いつも抱き上げてやっているのだから、大きさは分かっている。
部屋のマットの上に横たえてある亡骸を測る必要は、無い。
庭のどこに埋めるか、考えた末、
家から近い位置にした。
居間から見える場所、墓からも室内が見える場所にした。
長方形の穴を掘る。
少し考えて、鼻先の分を少し、掘り足した。
鼻先がつっかえると、穴の中に遺体を下ろしたときに、
首が不自然に曲がってしまうからだ。
健康な頃には14㎏以上有った。
痩せて、10㎏を下回った。
しかし、寸法が小さくなるわけではない。
※
マットの上に寝かせていた遺体を、そのまま布でくるむ。
もう、見られない。触れない。
遺体が有ればいつまでも見たり触ったり嗅いだりしてしまうので、
午前中には埋める、と決めたのだ。
布にくるんだ遺体を穴に下ろす。
おっと。
ちょっと寸法が足りなかった部分が有る。
後肢の部分だ。
前肢は手首に相当する部分が少し曲がって硬直しているが、
後肢は伸びた形で硬直している、ということも有る。
ジーロは、脚の長い犬だった。
「スマートだねえ!足長いねえ!かっこいいねえ!」とよく言われた。
性格を知っているので、かっこいいというよりは
ひょろっと頼りない感じがしたものだ。
穴が少し狭くて、後肢が斜めに上がってしまう。
これじゃあ、雨が降ったら土から足が突き出るという恐怖な絵になってしまう。
後肢の下を、少し掘り足して、
土をかぶせて、
埋めた。
もう会えない。
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