犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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いがらしみきお『今日を歩く』

2016年02月28日 | よみものみもの
『ぼのぼの』の漫画家だが、他の作品はあまり知られていないようだ。

成人誌で連載した『ネ暗トピア』(1979-1985)は衝撃だった。
たしか二十歳前後の頃に古本で買って読んだ。
4コマのギャグマンガなのだが、他に類を見ないとはこういうものだ。
思いがけない展開や、4コマの中の空間や、間(ま)に感じ入った。

子ども向けでは『忍ペンまん丸』がある。
腰砕けになるようなゆるいギャグで大笑いした。

漫画家として一定の評価を得たおかげだろうか、
深く重たいテーマの作品も発表されるようになった。
通貨経済について書いた『かむろば村より』や
私というものの境界について書いた『I(アイ)』については、
あらためて感想文を書きたいと思っている。



漫画家が、毎朝、散歩する。
自宅の周辺の3kmほどのコースを毎日歩く。
同じ道を毎回辿る。
「動く定点観察」である。

「雨の日とか寒い日などはいやにならないかと聞かれるが
一番いやなのは今来た道を戻ることである。」
ある日、散歩しようと玄関を出ると、今にも降り出しそうな空だった。
歩き出したらすぐに降り出した。
しかし、
「もう家から7mぐらい離れてしまっている。」と、
傘を取りに戻らない。

「散歩はなにも起きないのが望ましい。
いつもと同じなのが一番である。」
そう言って、日々日常を描く漫画が淡々とつづく。
そうは言っても、何か事件は起こるものだ。
しかし、散歩の中で起こる事件とは、些細なことだ。
そうして安心して読む進む。

ところが、地震が起こる。
東日本大震災だ。
いがらしは宮城県に住んでいる。
町も人も、猫も、それまでの日常を失う。

しかし、月日が経つとまた日常が帰ってくる。
そうやってずっと続くかと思う。

雪の少し積もった日、散歩から戻ると、鍵が無い。
探しに歩くが、見つからず、結局2周しただけになる。
この日はいつもの靴ではなく、雪かき用の長靴を履いていたせいで、
かかとが痛くなってきている。
しかし、もう1周探す。

結局、この日以来かかとを痛めて、散歩ができなくなってしまうのだ。

そこまで、毎回を読みながら一緒に散歩を楽しんでいた読者としては、
なんともさみしい気持ちになる。

こういうリアリティが、いがらしみきおの漫画の魅力だと
私は思っている。



さて、ブログも書き終わったし、
私も犬の散歩に行ってこよう。

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