月、割れる

２年前に初めて廣島リマさんのわきでウクレレを弾いたときは、２本のウクレレを使った。
曲数も多かったので、パイナップル型のレギュラーサイズのものと、
大きなパイナップルのバリトンウクレレを使い分けたのだ。

今回はバリトン１本で行こうと思った。
なぜなら、リマさんには「月、満ちる」というオリジナル曲がある。
このバリトンウクレレの表板には、満月が描いてあるのだ。
裏板は少しくって丸みを持たせてあるので、
たかだかウクレレだが、低音の響きがある楽器だ。
さすがハナムラ楽器。

ところが、表板が割れてしまった。
写真ではわからないが、コマのわきにひびが入っている。
限界まで薄い表板を使って、良い音をしていたが、それがあだになった。
さすがハナムラ楽器。
これは、張り替えてもらいに行こう。
そして、また別の満月を描こう。

側板には、先日も触れた宋の三大書家のひとり蘇軾の詩が書いてある。
写真の左下にちらりと見える。
「中秋の月」三首のうちの二だ。

六年逢此月　五年照離別
歌君別時曲　満坐為凄咽
留都信繁麗　此会豈軽擲
鎔銀百頃湖　挂鏡千尋闕
三更歌吹罷　人影乱清樾
帰来北堂下　寒光翻露葉
喚酒與婦飲　念我向児説
豈知衰病後　空盞対梨栗
但見古河東　蕎麦如鋪雪
欲和去年曲　復恐心断絶

この中秋の名月は６年も見てるけれど、５年の間は離れ離れで照らされていた
君が別れの時に作った曲を歌うと、そこにいる人みんながむせび泣く
東京はにぎわってはなやかだけど、月をめでるこの宴を軽んじられようか
湖面は銀を溶かしたかのように白く輝き、摩天楼には丸い鏡を掛けたようだ
夜更けにいたって歌や笛の音もやみ、人影はすずしい木陰に散ってゆく
北の堂に帰って来ると、つめたい月の光が露をおいた葉にひるがえっている
君は奥さんと一緒に酒を飲み、私のことを思って子供たちに話して聞かせているだろう
ところが私は病み上がりというわけで、盃は空っぽで梨や栗を食べている
河の東を見れば、蕎麦の花が咲いて雪が散り敷いたようだ
去年の君の曲に合わせようと思うが、つらくてなかなか気持ちが保てない


しめっぽいなー、蘇軾。

中秋とは旧暦の８月15日。
ライブは９月17日で、旧暦だと８月17日。
月齢15.7、文句なしの満月の夜だ。
そして酒呑みベロンベロンミュージシャン。
ぴったりの楽器だったのだがなあ！

差し入れは梨や栗もうれしいけど、やっぱ酒でお願いします。
あ、手ぶらでいいから、来てね。