犬と瀧と勇気

問い詰められて流す汗を見ていたら、こんな加齢臭がしそうなんじゃなくて
清冽な瀧が見たくなって、奥多摩へ行った。
お供はオス犬、ジーロ君。

３日前の雪はすでにほぼ解けて無くなっていた。
が、人気のある山で連休最終日だからか、
日陰では雪は踏み固められ、凍りかけて滑りやすくなっていた。

こういう時のために軽い４本爪アイゼンを買おうと思っていたのに忘れていたことに
気付いた時は遅いのよね。
ステッキも車に置いてきてしまった。

犬は四ツ足でスイスイと先へ行く。
そりゃそうさ、自前の４本爪アイゼンを４本足に履いてるんだもんね。
ずっと先へ行って、「まだなの？」とでも言うように振り返る。
かわいいが、悔しい。

犬というのは、隙間のある面に立つのを嫌う。
道路の側溝の蓋なども、乗りたがらない。
木の橋は隙間だらけで、とてもいやがる。
初めて山に連れて行った時など、私が渡って先に行ってしまい
取り残されるツラさから決死の覚悟といった様子で腰をぺしゃんと落として渡ったものだ。
そんな頃もあったのに。

沢沿いの道は、しばしば此岸から彼岸へ変わる。
けっこう勢いのある流れに、しっかりとした橋がかけてある。
幅は・・・３尺あるのか無いのか。

橋に積もった雪は、よく踏み固められ、凍っている。
木の面の見えている所を選んで、一歩一歩進む。

私は滑るのが苦手だ。
落ちるのだって苦手だ。
水も苦手だ。
痛いのも冷たいのもいやだ。

そういう恐怖心が、よけいに身体をこわばらせ、動作が悪くなり、滑りやすくなる。
分かっていても、身を硬くする。

そんな橋を先に渡って、犬が振り返る。
「まだなの？どうしたの？なにやってんの？」
くっそー。
何度も帰りたくなったが、犬に負けては権威が失墜する。
進む。

それに、滑る橋の上で、この先に進みたくない！と思っても、
そこでクルリと方向転換なんて、できやしない。

そうやって何本もの橋を渡り、次第に沢の奥へと進んだ。
時間が経ち、もうそろそろ瀧も近いだろう、と思うところで、
また行く手に２本の橋が見えた。
しかも、今までよりも雪が透明だ。凍っている。

犬ジーロも、少したじろいでいる。
しかし、渡りはじめた。えらいなー。
ところが、２ｍほど行ったところでちょっと滑った。
滑ったら止まって、そこから進めなくなった。
怖くなったのか。
うまいことそこで回れ右して、這うようにして戻ってきた。

渡れなかったかー！
ちょっと安心。
私も無理はすまい。
帰ろう帰ろう。

というわけで、清い瀧をまだ見ていない。

（写真に犬ジーロも写っています。）