犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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今日も三波春夫でございます

2011年01月27日 | よみものみもの
永六輔さんの『永六輔の芸人と遊ぶ』がこれまたてんこ盛りの濃ゆい内容なんだが。

結びの一番、じゃない、「あとがきにかえて」として、「追悼・三波春夫」
という文が最後になっている。

永六輔さんが三波春夫さんを嫌いだった話は先日引いたが、ここにもある。



   長い間、僕は三波春夫という歌手が嫌いでした。いつも派手な着物を着て
  ニコニコ満面の微笑みをたたえる姿を、無粋だと思ったこともしばしばあり、
  それに駄目を押したのが「お客様は神様です」という、あの三波さんの発言
  でした。
   たしかに芸人の暮らしは、芸を観るお客さんがあってのことです。しかし、
  もしお客さんが神様なら、これほど冷たい神様もないものだと思っていたの
  です。神様にもなれば悪魔にもなるのがお客さんのはず。それをすべて神様
  だという三波春夫という歌手は、何てお客さんに媚びる歌手なんだろう。正直、
  僕はそう思っていたのです。
   こうした僕の思いが、初めて一緒に仕事をした時、まったくの誤解だったと
  わかったのです。その仕事は、全国の自治体にさきがけて高齢者社会でも
  医療費負担を抑えようと、奈良市が、音楽療法を取り入れたことがきっかけ
  でした。(略)人が集まれば歌い踊り、しかも長寿の方が多い沖縄の文化が
  参考にされました。
   そんな奈良市から依頼されたのは、老人ホームの方々が皆で歌う歌の作詞
  です。(略)で、その次に歌手の選定に入り、これはやはり老人ホームの方々
  が歌ってほしいと思っている歌手にしようということになり、アンケートの
  結果、他を大きく引き離して一位となったのが、三波さんでした。
   (略)
   そのうちに、どうしても聞かずにはいられなくなって訊ねました。
  「三波さん、お客様はやっぱり神様でしょうか」
   古代の神話や伝説にも詳しい三波さんがいったのだ、あの神様発言は僕が
  理解していたことより深い意味があるのではないか、そう思ったのでした。
   そして、僕の質問を受けて三波さんはこう答えました。
  「僕はね、すべての人をお客さんだと思っているわけではありませんよ。
  お金を払って観に来ている人だけがお客さんだと思っています。そうした
  方々は、やはり絶対者でしょう。ステージが〈天〉なら、客席は〈地〉。
  その中にいる唯一の絶対者。そういう存在を〈神様〉というのだと僕は
  教えられました」
   これを聞いて僕は、大きく膝を打ちました。お客さんは冷たくもある、
  神様とはいえない、そう思っていた頃、僕はテレビの向こうにいるお客さん
  のことも考えていたのでした。テレビを見ているお客さんは冷たいのです。
  飽きてしまうとすぐに芸人を見捨てますから。しかし、そんな人々は
  お客さんではないのだと、三波さんに気づかされました。(略)
   



なるほど~!!!
三波春夫さんの公式サイトを開くと、幕開けの言葉は
「お客様は神様です」。
それくらい看板となっている言葉だが、このような意味合いのものだったのだ。

私はステージを観に行ったことがない。
私が盆踊りでチャンチキおけさを踊り狂うようになる前に、
三波さんは他界なさってしまった。


そして、永さんの作った歌はどうなったか。↓


   さて、そんな出会いから始まった三波さんとの歌作りですが、僕が
  作った歌は、決して三波さん向きではありませんでした。高音を大きな声で
  歌い上げていくことをずっとやってきた歌手に、僕は優しく囁くように
  歌って、と注文を出したのです。
   それでも三波さんは挑戦するといい、録音が始まりました。しかし、
  やはり三波さんは歌い上げてしまい、囁くことができません。何度やっても
  そうなので、僕や録音スタッフは、次第に申し訳なく思い、ついには、
  「三波さん、もうやめましょう。三波さんは十分努力してくれました。
  僕たちはそれに感動しました。歌がものにならないのは残念だけど、もう
  一度この歌に合う歌手を探します」
   といって、録音をやめようとしたのです。
   すると、そこに奥様のひと声が飛んできました。奥様はもともと曲師
  (浪曲師の傍らで三味線を弾く人)で、三波さんと知り合ってからは浪曲から
  歌謡曲への転向を勧めたり、三波春夫という歌手を陰で育ててきた
  プロデューサーだったのでした。
  「このやろう、三波春夫ともあろうものが、こんな歌すら歌えないのか!
  私は三波春夫をそんな歌手に育てた覚えはないよ、ああ情けない。まったく
  情けないったらありゃしないよ」
   その時の奥様の剣幕たるや、あまりの迫力にスタジオ中が凍りつきました。
   そして三波さんは、奥様が話し終えると、少し微笑んで、僕らスタッフに
  こういったのです。
  「すみません。もう一回お願いします」
   僕はこの姿に強く胸を打たれました。そして、湧き上がってくる涙を
  抑えられませんでした。
   こうしてできあがったのが『明日咲くつぼみに』という歌です。(略)

   最終的に、例の「歌い上げ」が残るまま録音を終えました。それでも
  納得したのは、その歌い方が、この歌を予想以上に引き立てるのではないか、
  と思えたからでした。ようやく新境地を開きつつあったのに、この歌が
  三波さんが録音した、最後の曲になってしまったのが残念でなりません。



出たー!例の奥様ですね!
先日引いた部分では「おまえ」と呼んでいましたが、この度は「このやろう」ですよ!

叱りつけられてすぐに、微笑んで歌い直す、というところがまたスゴい。
私だったら萎縮して声が出ないだろうな。

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