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パッチギ! [熱いなあ・・・]

2005-11-17 01:02:30 | 映評 2003~2005
蓼科高原映画祭で鑑賞。東京での公開が1月か2月だったと記憶してるので、10ヶ月近く遅れて、それでも長野の地でこの傑作を見ることができて、映画祭に感謝であります。ゲストで来場していた井筒監督が上映後に司会のアナウンサーと対談をしまして、それもテレビ通りな感じで、とても楽しかったです。
ただそこで「パッチギ!2」の話をしてて、「のど自慢」のあとで「ハワイに唄えば」撮って、さんざん蛇足だなんだと言われたのに、大丈夫かなと不安。
まあまあ、まだ撮ってもいない「2」をけなすのは止めて、この映画の話にいきますです。

物語としては王道で単純明快。お話のベースはロミオとジュリエットで・・・とは言ったものの、考えてみると私、「ロミジュリ」の原作戯曲は読んだことなし、映画もデカプリ版を1回観ただけ
なので「ロミジュリ」と話の似通った「ウェストサイド物語」(以下WSS)を念頭に置くことにします。
「WSS」は恋人が、グループの対立のすえ悲劇に見舞われ、その犠牲と引き換えにしてやっとグループは対立から和解に向かう・・・そんな物語でした。
対して「パッチギ!」はカップルが幸せになる代わり、グループの対立は解決しない。障壁を乗り越えて幸せになったカップルの姿から、まずは一人一人が問題を乗り越えていかねば話にならない、ということを訴えていたのでしょうか。
「WSS」は3人の尊い犠牲が平和をもたらします。「パッチギ!」は明確に死んだのは一人だけ。と言っても、移住した先でばったり出会い歴史的な確執はそんなになかったプエルトリコ系と東ヨーロッパ系移民の対立を描いた「WSS」と、数十年にわたる戦争と植民地支配をバックグラウンドにする日本人と朝鮮人の対立を描いた「パッチギ!」とではやはり重さが違います。数人死んだくらいじゃ何も変わらない根の深さがあるからこそ、主人公たちを不幸にするのはやめて、幸せにさせようとしたんでしょうか
以上は推測です。

物語や主人公たちの苦悩は大変わかりやすい。それに、幸せになることに待ったをかける民族と民族、国家と国家の問題という個人レベルで乗り越えるにはあまりには大きな障壁を、要するに「ま、いいや」って感じでスルーして幸福つかむ姿がなんとも壮快です。
判りやすい物語を、映画は過剰とも言えるテンションの高さでくるみます。
熱気、怒りと鬱憤晴らし、時に暇つぶしだったりスリルを求めてたりする、知能指数低い系で物語は進みますが、分別も思慮もないそれは"若さ"が溢れています。そして若い彼らは、国や民族や歴史の問題に直面して、決断を迫られたり、勇気ある一歩を踏み出したりして成長していきます。少年から大人への移行期間が感動的に描かれます。

また、この映画は、1968年という時代設定の物語ですが、68年という時代を現代から批評しています。単にあの頃は良かったとか悪かったとかでなく、現代にとってあの時代は何だったのか・・・と考察しているように感じます。毛沢東語録を熱を込めて語る教師の滑稽さ。毛沢東の言葉も映画ではギャグとなっている。学生運動のいい加減さ。表現の自由も、それを規制する社会の風潮も笑い飛ばす豪快さ。今から思えばおもろい時代だったなあ・・・みんなが熱く生きていたけど、当時問題視されていたことは結局40年たっても特に改善されたわけでなく、あの時代の熱さはただ、拳を叩き付ける何かを求めていただけだったのかな・・なんて70年代生まれの私は考えてしまいました。
比較するのも何だけど去年の「69 Sixty Nine」という映画に感じた不満がすべて解消している気がしました。「69」は69年を現代の演出で現代風に描いているにすぎず時代の再現はもちろん時代の考察もなかった。「パッチギ!」は現代の思想、価値観で68年を再考し再構築する。若者たちがふざけているのは「69」も「パッチギ!」も同じだが、「69」の若者は現代風に本気になることはかっこわるいと考えているかのように振る舞い、「パッチギ!」はふざけながらも本気で全力であらねばならぬと信じるバカたちで、その姿を時に笑い飛ばし、時にやさしく抱きしめる。

「パッチギ」という言葉には「頭突き」という意味があり、また「乗り越える」という意味も込められているそうで、ガンガン当たって当たって砕けて砕けてそして乗り越えていく、そんな感じのこの映画に実にぴったりのタイトルです。

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
同感です。 (えい)
2005-11-17 09:43:31
こんにちは。



同感です。

この映画は私の『69 sixty-nine』への

不満を完全に解消してくれました。

この映画は2回、書きましたので

2ヶ所にTBさせていただきました。
返信する
沢尻エリカで1リットル泣いてみせる! (aq99)
2005-11-17 18:58:37
「パッチギ2」のキャスティングは前作をふまえたものになってるのでしょうか?

いずれにしても、オダギリジョーは、主人公が誰であっても近所の兄チャンとして出してほしい。



今やってるドラマ「1リットルの涙」は、沢尻嬢のランクを確実にあげてます!
返信する
コメントどうもです (しん)
2005-11-25 02:26:09
>えい様

ひょとして井筒監督も「69」見て色々考えたのかもしれないですね



>aq99さま

オダジョーは昔"超変身"とか言ってたころのキャラに近くなってて面白かったです
返信する

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