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水面のあかり [監督:渡辺シン]人間の善意が産んだ映画力と言いたい

2017-10-25 22:08:00 | 映評 2013~
2017年は日本映画3つしか観てない。
大学の後輩が照明で参加した「ホワイトリリー」、笹木さんの「マスタードチョコレート」、渡辺さんの「水面のあかり」
お友達の映画ばっかりじゃねーか!
オトモダチ贔屓のアベシンゾーか!

さておき、この映画「水面のあかり」は脚本のけっこう早い稿のころから渡辺さんに読ませていただいた。映画では津田寛治さんが演じた中年の男早川は、初期の脚本では中年女性だったりと、色々な変遷を経て形になっていった。
物語の隅から隅まで知ってる状態での鑑賞となるので、自然とどう映像化したのか、に興味をそそられる。
それでもクライマックスの時間を超えて本物の川と、時間の流れという川とが交錯する場面は、思わず引き込まれるほどの力強さがあった。
ヒロインあかり(加藤千果)の狂気とも言えない抗えない力が、実は自分の内から沸き起こっていた、そんな魂の奔流を感じたのである。
そういうのを私は「映画の力」と呼びたい。
正直、あそこまで地震や崖崩れを迫力込めて描けるとは思ってなかったので、そういう驚きも強かったけど

他に良かったところ
大山崎の街を見下ろす岡からの俯瞰のショット。秀吉と光秀の山崎の戦いが昔あったことが早川(津田寛治)からさらりと語られることで、説明的になりすぎない程度に時の流れを感じさせる

あちこちの水の存在感と、あかりという象徴的な名前
あかりとは光源であり、水は光を反射するから、水面に何かが写るわけである。光のヒロインが水に作用を与えるから、太古の昔から変わらずあり続けた水の記憶を開いたのだ。
何気ないシーンだけど、宿で一人お風呂に入るシーン。水と一体になっているかのような画が、この映画の場合意外とじわじわ力を持つ

そしてやはり「ウォーターボーイズ」「がんばっていきまっしょい」の撮影監督長田勇市さんの撮る水はどこまでも美しい、と感じた

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逆にどうかなー、と思ったところ

あかりの彼氏がこの映画で果たした役割は、あかりが物語の中で成長したことを示すための道具にすぎなかった
脚本ではもう少し別なそして重要な役割があったのだけど。
おそらくは監督も悩んだ末でのオミットだったとは思うけど、結果としてクライマックスで川に入っていくあかりを傍観する形になってしまい何か違和感ある人物になってしまった気もする。
男といえば津田寛治さん演じる早川は、ほぼ全てが素晴らしかったのだけど、つかの間早川とあかりが男女の一線を超えそうになるところは、そうじゃない感があった。でもこの異物感はむしろ監督の狙いなのかもしれない。
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それでもなんでも本作でなによりも心にくるのは、人間の善意を信じる監督の気持ちである。
震災の犠牲者の方々への鎮魂と、震災で愛する人を失った人たちへの思いやりが、本作の根幹をなしていることは明らか
楽しければそれでいいだけの日本映画が多い中で、「今」この映画を作る監督の使命感を感じる
そう、作家性の強い骨太な映画だ

「水面のあかり」
74点 [100点満点中]

監督・脚本: 渡辺シン
撮影: 長田勇市
出演: 加藤千果、津田寛治
2017/9/15 京都シネマにて鑑賞
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