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ショスタコーヴィチ 交響曲第8番

2017-11-22 00:04:12 | クラシック音楽
激渋の第8番

結構この8番をショスタコの最高傑作に上げる人も多い。が、しかし、5番や7番のような華はない。暗く渋い。
いやしかし思う。
5番7番のピカピカした感じに比べ(いや、そんなところも含めて好きなんだけど)8番ははるかに作曲者の深い深い感情や気持ちが渦巻いている。

5番7番ってのは寿司屋のネタで言えばトロやウニだ。みんなそれが目当てだ。美味い。嬉しい。
けれど、トロやウニは美味くて当然。どんな寿司屋にも職人の腕が光る地味だが絶品な、コハダみたいな玄人好みのネタがあるものだ。
ショスタコ寿司に来たならトロやウニはもちろんいいけど、コハダ頼みなよ!ってのが8番だ。

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ショスタコによると第8番は、第7番から始まる戦争交響曲の第2部だという
7番はドイツに蹂躙されている危機感と切迫感のある時期だっただけに、高揚させる曲になった。イケイケタタカエヤッツケロな曲。
8番を書いたころ、1943年はドイツが敗走し始めたころだ。にも拘わらず、この陰惨な曲はどうしたことだろう。むしろ勝ちに乗った軍に対して、チョットマテイイノカソレデと言ってるように思える。
これは戦争という人間の愚かな行為に対して、ソ連国民としてではなく、一人の人間として嘆いた曲ではあるまいか。
ソ連は戦争に勝ったとはいえ、戦死者も民間人の犠牲者も圧倒的に多い
国土は焦土と化し、すべての人民を戦争に駆り立て、みな死んでいった
軍の戦術、戦略のミスもあったし、スターリンの独裁による弊害もあった
ソ連政府としては勝利に向けて邁進する我が軍、我が国民を讃えるような曲を求めていただろうに、これは面白くなかっただろう。
この8番くらいからショスタコーヴィチの生き様としての本領が発揮される
 
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第一楽章、なんか5番の一楽章と似た始まりで、全体的に5番の1一楽章の亜流のような、それでいて5番より圧倒的に負の感情が強く感じる。スネアの音も戦争の恐怖を掻き立てる
第二楽章、陰惨な8番で唯一、どこか楽しげなテンポの速い曲。この一楽章と二楽章の構成も5番と似ている。ここまでは5番でものにした自分なりの方法論をなぞっている。
第三楽章、ここがやばい。映画音楽ならともかく、交響曲でこんなの聞いたことない。
これは戦争、というか戦闘の曲だが、勇壮さはない。戦場へ行け、早く行けと急かすような、ストリングスのリズム。色んな楽器が断続的に挿入されるが、切迫感ばかりがつのる。トランペットが行進曲ふうに威勢よく鳴らされるが空しく響くだけ。俺たちなんのために戦っているんだ?何のために進軍してんだ?そんな兵士の疑問がつのっていく
三楽章とアタッカでつなげられた、四楽章で突如としてオーケストラが何かとんでもないことに気付いたのごとく不安げにしかし大音量でヒステリックにわめく
第五楽章、終楽章で、ショスタコの4番5番7番や、というか普通の交響曲のようなアレグロからのフィナーレにはしない。
どんよりと薄暗い、なにか焼け跡と死体ばかりが延々と続く荒野を、我が家に向かって銃を捨てトボトボと帰る兵士の姿が目に浮かぶ。

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CDは迷うことなくムラビンスキー指揮レニングラードフィルを購入。1982年版。
なにしろこの曲はショスタコーヴィッチが大好きなムラビンスキーに献呈した作品なのだ。もちろん初演もムラビンスキー。
こんな暗い曲をもらったら、あいつ俺のことを何だと思ってるんだ?!とか思われそう
いや、8番にこめた苦悩、憤り、哀しみ諸々、これを表現できるのは世界広しと言えどムラさん、あなただけですよ!というショスタコーヴィッチの思い、ムラビンスキーへの信頼がヒシヒシと感じられる
ムラさんも完璧にショスタコの期待に応えている。
7番なんかを割と早い時期にレパートリーから外したムラさんも、この8番は生涯演奏し続けた。36回も演奏したって!
ムッツリしたムラさんにもぴったりなこの曲。あるいはショスタコーヴィッチが描きたかったのは戦争がどうこうとかじゃなく、ムラビンスキーが一番カッコよくなることだったのかもしれない
(後年になってムラビンスキーを批判したりもしたらしいが)

「わたしの交響曲の大多数は墓標である。あまりにも多くの人々が何処とも知れぬ場所で死に、誰ひとり、その縁者ですら、彼らがどこに埋められたかを知らない。」
CDの解説より
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