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グリーンブック 【ファレリーさんの成熟?日和?】

2019-04-24 12:31:19 | 映評 2013~
映画としての新しさとか個性はあまり感じられない
割とスタンダードな映画
丁寧に丁寧に、脚本を大事にして、主人公二人のキャラを丹念に描いていくのだが・・・



ハリウッド式予定調和が妙に目立つ
例えば冒頭で、トニーが家に工事に来た黒人の配管工が水を飲んだコップを捨てるくだり
序盤でこのような描写を見せるということは、終盤では黒人を差別しなくなって、主人公の成長を見せるんだろーなー、とそんな読みが働いてしまう。
で、実際その通りであって
ほろっと感動させるいい話のテンプレートに乗っかっているだけのような印象を持つ
そう、何か、物語やキャラクターへの情熱から作った映画というより、プロフェッショナルの仕事、ビジネスのにおいがなんか漂ってくるようで

だから「ROMA」や「ブラック・クランズマン」のような金儲けよりも、俺はこの映画を作りたい、作らねばならない的な執念を感じる映画をさしおいて「グリーン・ブック」がアカデミー賞をとってしまうところに、アカデミー賞って所詮は芸術性より商業性が重視されるのかなと勘ぐってしまう
作品賞集計のみんなが1番にあげなくても、満遍なく2番や3番の評価を集める映画が受賞しやすいシステムにうまくはまったのかもしれない

監督のピーター・ファレリーは、ファレリー兄弟名義でお下劣ポリコレスレスレコメディをとってきた人で、「メリーに首ったけ」とか「ジム・キャリーはミスター・ダマー」とかあの頃のほうが好きだ。
今作ではあの頃感はほぼなく、とても上品にまとめている。これを映画作家的成長とみるか、アカデミー賞ほしくて日和ったとみるか
そう思うとスパイク・リーが「ブラック・クランズマン」で見せたデビューから一貫してのブレなさ加減の方が私としてはリスペクトできる。


とは言いつつも、そこはさすがにプロの技というか、作劇はうまい
差別心を持っていた男が、旅を続ける中で、異人種を見掛けでなく、その内面で好きになっていき、同じ人間であると思うようになっていく。さらに白人とはいえイタリア系である自分もまた白人社会の中では差別対象であることも、もともと知ってはいたけどやっぱり思い知らされ、ドクター・シャーリーにシンパシーを感じていく。彼のビアノの腕に魅せられ、美しい文章に魅せられ、作文能力はあがっていく。
きちんとエピソードを積み重ねることで、トニーの人種についての意識の変化と、シャーリーへの友情の深まりが説得力をもって語られる。

中盤のロバート・ケネディ経由の釈放劇は水戸黄門かよ!!ってちょいウケたけど

しかしながら個人的に一番ぐっと来たのは、人種差別のことや、友情のことではなく、ラストのトニーの妻の台詞だった。
女はロマンチックな言葉にぽーっとするだけのアホじゃない。なにもかもお見通しだ。世界は女で回っている。異人種の男性ペアの旅を描いた映画の果てにやっぱり女にはかなわないとした最後の瞬間は、けっこうやられた。


ただ一方でストーリーを追いかけることに終始している印象もないではない
いつも王のように悠然としているシャーリーが、初めて感情的になってトニーに当たるシーンは、ただの台詞処理であって、マハーシャラ・アリの演技をもってしてももっと映画的に何とかできなかったのかと思ってしまう

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と、色々書いてはみたものの、なんだかんだで本作に非凡な感じを与えているのは主演男優の二人である。
特にマハーシャラ・アリは、全身全霊でこの映画の魂であり核となっていた。
しかし、なぜ「助演」男優賞だったのだろう?

この映画の彼は間違いなく「主演」だ。

例えば「ショーシャンクの空に」のモーガン・フリーマンはオスカーで「主演男優賞」にノミネートされた
「テルマ&ルイーズ」のジーナ・デイビスとスーザン・サランドンは二人とも主演女優賞候補になった
マハーシャラが助演扱いされるのは納得いかない

ただもし主演男優賞ノミネートだった場合、対抗はヴィゴだけでなく、あのフレディ・マーキュリーだったわけで、受賞は難しかっただろう。オスカー受賞数を増やすという戦略の上では助演としたのは正しかったのかもしれないが、あれだけ映画の魂そのものだった彼が「助演」扱いとされたことには、どこかしら釈然としないものが残る。

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追記

やや話はそれるが、エンドタイトルバックの音楽はドクター・シャーリー本人の演奏するピアノのライブ音源にしてほしかったな。ピーター・ファレリーほんとはクラシック音楽嫌いなんだろうな。
こういうところにもビジネス感動映画感が見え隠れしている気がするんだよなー

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グリーンブック
監督 ピーター・ファレリー
脚本 ニック・ヴァレロンガ、ブライアン・カーリー、ピーター・ファレリー
撮影 ショーン・ポーター
出演 ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
2019年4月 池袋ヒューマックスシネマにて鑑賞
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