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映像作品とクラシック音楽 第36回 『時計じかけのオレンジ』

2021-10-01 09:23:39 | 映像作品とクラシック音楽
お疲れ様です。クラシック音楽が印象的な映像作品について語るシリーズです。前回の『アイズ・ワイド・シャット』に引き続いてまたキューブリック作品でお届けいたします。ベートーベン第九や泥棒かささぎ序曲やウィリアムテル序曲にのって暴力が荒れ狂う映画、1971年作品『時計じかけのオレンジ』です。

キューブリックが亡くなった年のアカデミー賞授賞式でスピルバーグが追悼スピーチでこんなことを言いました「世界中が彼を真似た。でも彼は誰の真似もしなかった」
スピルバーグは好きな映画のイメージを時にひっそりと、時にあからさまに自作品の中に差し込んでくる人です。確かにキューブリック映画に誰かの真似やパロディやオマージュを感じることはありません。
彼は作るたびに映画界をアップデートさせてきました。とはいえ周囲の影響をまったく受けていないかと言うとそんなことはなく、『時計じかけのオレンジ』は1971年公開ですから、1967年ごろから始まったアメリカンニューシネマにより、ハリウッドメジャーで暴力表現が「解禁」され、多くのバイオレンス映画の傑作が生まれたころです。1971年を前後して『ワイルド・バンチ』『ダーティ・ハリー』『フレンチ・コネクション』『ゴッド・ファーザー』なんかが作られています。
『時計じかけのオレンジ』がそうした暴力の潮流に乗っかって作られたのは間違いないと思います。それでもこの映画が他の暴力映画と一線を画するのは、独特すぎる演出です。
過剰な暴力に似合わない、ファッション雑誌の1ページみたいなオシャレで整然とした無菌状態のようなセットもそうですし、使われる優雅なクラシック音楽の数々もそうです。
ナチっぽい恰好の「ドルーグ」たちがさらってきた「デボチカ」と「インアウト」してるとこに乱入してくる主人公アレックスとその「ドルーグ」が繰り広げる「ホラーショー」な「トルチョック」の場面に(何言ってんの?って思う方は「時計じかけのオレンジ ナッドサット」で検索検索!)、延々かかるのがロッシーニの「泥棒かささぎ 序曲」です。
ウルトラバイオレンスと優雅なクラシック音楽は、映像と真逆の雰囲気の音楽を使うことで、映像表現をより際立たせるという、黒澤明もよく使った音と映像の対位法表現です。今でこそよく見かける演出な気もしますが、この当時の暴力映画群に、ニューシネマや戦争映画含めても、こうしたクラシック音楽の使い方はなかった気がします。

主人公アレックスはルードヴィヒをこよなく愛しており、中でも第九がお気に入りで、大暴れした日の締めくくりは第九を聞いて締めるのがお決まりなんだそうです。劇中で彼がマイクロカセットテープ(!)で聴く第九ですが、映像にちらっと写るカセットテープのケースでグラモフォンの録音でベルリンフィルの演奏であることはわかりました。エンドクレジットでは指揮者の表記はありません。71年だしカラヤンだろうなぁ…と思っていたのですが、カセットテープのケースが映る映像をスローにしてよーく見ると「Ferenc Fricsay」の表記があり、フリッチャイの指揮によるものだったことがわかりました。
で、わりと面白いのが、アレックスが自宅のオーディオで聴くのが第二楽章のスケルツォなんですね。
それを聞きながらこんなアレックスの心の声のナレーションが入ります

ああ、この陶酔 天にも昇る至福
ゴージャスの極に華麗な肉体がある
天上のメタルで編んだ鳥か
スペースシップに漂う白銀の美酒か
重力はあまりにむなしい
音のスルーシュにかぶる鮮烈な映像

私も第九聞きながら、こんなポエティックな表現で感動を表してみたいものですよ

しかし、この第九のスケルツォが、後に政府によるアレックスの洗脳に使われ、さらにアレックスを自殺未遂に追いやるのです。
政府の洗脳映像ではスケルツォとともにナチスの党大会の映像が重ねられ、アレックスは大好きなルードヴィヒをナチスと一緒にしないでくれ!と泣き叫ぶのです。
思えば実際ナチスにも利用されたベートーベンの音楽です。美しい音楽が洗脳や独裁に利用されてきた人類の歴史を、暴力シーンにクラシック音楽を重ねることで、アイロニカルに表現していたのかもしれません。

そして「時計じかけのオレンジ」の音楽といえば、クラシックの生演奏もさることながら、ウォルター・カーロスによる電子音アレンジされたクラシック曲の数々が印象的ですね
・メアリ女王のための葬送行進曲
・ウィリアム・テル序曲
・ベートーベン第九
などがガンガン流れてクラシック好きには「ガリバー」に「ホラーショー」な刺激炸裂で「グルーピー」になりそうですよ
そんなところで音楽映画としても「ホラーショー」なキューブリックの『時計じかけのオレンジ』でした!!

それではまた、素晴らしいクラシック音楽と映像作品でお会いしましょう!!
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