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サマリア [置いてきぼりの少女・・・哀しく美しい映画。好きな台詞は?]

2005-04-20 03:26:59 | 映評 2003~2005
2005/4/20
観てから二週間もたった。
この映画を語るにふさわしい言葉を模索してきたが、思いつかない。
ボキャブラリイが足りない

一つはっきりしてるのは、これはまぎれもなく「最高の映画」なのだ。
感想は小出しにして、時間をかけて完成させようと思う

とりあえず印象的だった台詞
「セックスの時、男は子供になるのよ」
はいそうです。
そして女はセックスの時、母親になる。(こんなこと書いたらマザコンと思われそう(笑))
しかし出番こそ少ないがチェヨンを演じたハン・ヨルムは慈愛の女神そのものだった

美しい映画に出会うことが稀にある。
カメラが凄いとか、ライティングが絶妙とか、美術や衣装が凝ってるとか、CGがかっこいいとか、そういうのも美しさを構成する要素ではあるけれど、それらに一つも該当しないのに、映画そのものがただひたすら美しい。

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2005/4/21
この映画は、女子高校生の繊細でデリケートでふわふわしててどこに向かうか分からない心を描いたものなのか?
子供の倫理が理解できない大人の苦しみを描いたものなのか?

塩田明彦の「カナリア」と感じは似ている(タイトルも似ている)。子供には子供なりの倫理・道徳・ルールがあり、大人から観れば「わかってねえガキどもだな!!」と思う部分もあるのだが、大人の作った良識という雛形に無理矢理子供を押し込めようとすると、子供は独自の価値観によって抵抗する。
その大人と子供の衝突は時に悲劇となる。普通は子供がキレて悲劇になる。「カナリア」はその悲劇の一歩手前で、子供が自分自身を見つけ出すことによって回避される。いわば子供が大人に、少年が男になることによって、希望に繋がった。

サマリア」はもっと深刻だ。子供の価値観を理解できない大人が狂ってしまう。悲劇は回避どころか、次第にエスカレートして最悪の形になる。子供なら大人に変化する余地があるため、そこに救いを見い出せるのだが、大人というやつは変化は困難で成長の余地もあまりない。行き場を失い溜まった負のエネルギーにじわじわ浸食され磨耗していき、やがて崩壊する。
そして子供は・・・置いてきぼりにされる。
「大人」が先に壊れたため子供は(「カナリア」の主人公のように)成長することができない。

置いてきぼりにされる少女の物語。

ヨジン(クァク・チミン)はまず親友チェヨンに置いてきぼりにされる。
そして父ヨンギ(イ・オル)にも置いてきぼりにされる。
ラスト近くの砂に埋められたヨジンのイメージショット。あまりに美しいく哀しい。が、あれがむしろ最後の希望であった。考えようによっては「道連れ」の方が、「置いてかれる」より救いがあった。

自分を置いていった父をヨタヨタ運転で必死に追いかけるヨジン。
これほど胸を打つシーンを今まで観たことがあっただろうか!!


結果として孤独となり、結果として喪失感を抱え込んだ「トニー滝谷」よりも、現在進行系で今まさに喪失し孤独になっている真っ最中を描いてしまった「サマリア」の方がやはり遥かに胸に響く。必死で孤独になることに抵抗し、しかし抗しきれない。
少年が自分を見つけ成長した「カナリア」の感動より、セックスと車の運転を覚えて形だけ大人になったところで真の成長を断たれた少女を描いた「サマリア」の切なさの方が遥かに深い
塩田明彦市川準も日本最高レベルの映画作家だと思っているし「トニー滝谷」も「カナリア」も今年のベストのかなり上位にくる映画だと信じて疑わないが・・・悔しいけど韓国のキム・ギドクには遠く及ばないのだ。

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2005/4/22
この映画を支えているのは映像だろうと思う。4/20に書いたように、映像美に凝りまくっているわけではない。低予算もろわかりの安い映像なのだが、でもふんだんに金をかけたハリウッド映画よりずっと美しい。一枚一枚の絵の構図にセンスがみなぎっているからだ。
それだけではない。虚飾を全て取っ払った二人の女の子と一人の父親。韓国には一度遊びに行っただけで向こうの文化もライフスタイルも丸で知らないのに、異様なほどリアルな質感を持ってスクリーンに存在している。
常に微笑を浮かべるチェヨン。微笑みながら、半裸で危険を顧みず二階からダイブする姿。目に焼き付いて離れない。食べる時も、お風呂でも、描かれてないけど多分セックスの最中も、そして死んだ後も
「笑わないで。何がそんなに可笑しいの?もう笑わないで」
といって泣き崩れるヨジンの姿も痛烈に心に残る。

ヨジンも微笑む。が、その微笑みにはどこかウソ寒い感じがある。笑いきれない少女。
そして娘に必死に笑って見せるヨンギ

笑う。もっとも初歩的コミュニケーション。それがうまく機能しない。でも現実社会で自分の周りの人たちも、みんな笑うのが下手だ。無理に笑ったり、気のない笑いをしたり。
この映画をリアルと感じるのは、ヨジンとヨンギの「下手な笑い」があるからかもしれない。
この映画を美しいと感じるのは、チェヨンの「自然な笑い」があるからかもしれない。


・・・・色々書こうとするとダラダラ長くなっていかんなぁ
ともかく映画ファンやってて良かった。
おかげでこんな素晴らしい映画に出会えた。
「映画の神」がいるなら感謝したい。
そして「映画の神」にかなり近い存在がキム・ギドクなのかもしれない。
(小津もベルイマンも候孝賢も、香港時代のジョン・ウーも(笑))

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15 コメント

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大変! (manamizw)
2005-04-22 00:24:46
やっぱりいいですか、サマリア。

すごく観たくて観たくてたまらない映画だったんですが、

うちにいただいたコメントとこれを読んで

ますます「読まなきゃ!」って気になりました。



語るにふさわしい言葉を探しても思いつかない、

ってすごくよくわかります。

なのでわたしのとこの映画エントリは

気に入った映画であればあるほど

アゲるのが遅いです。

小出しの感想、楽しみにしてます!
返信する
>manamizw様 (しん)
2005-04-22 04:25:12
小出しにするなんつって、イッキに大出ししちゃいました。



>気に入った映画であればあるほど

>アゲるのが遅いです



つまんない映画ならささっと書いて終らしたいけど、いい映画はじっくり余韻に浸りながら書きたいです。



けれどあんまゆっくりだと、細部を忘れるし、旬を過ぎるとアクセスも減って寂しいんですよね。



まあ、とにもかくにもトニー滝谷が好きなMANAMIZW様には是非観て欲しい映画っす。
返信する
TB・コメントありがとうございました (ilovemovie-K)
2005-04-22 19:47:57
 サマリアに「虚無感」を感じたとのことですが、私もそれに近いものを感じました。特にラスト付近の親子山間旅行で、父が自分の明確な目標を定められずただぼんやりとたたずむ部分で。



 個人的な意見ですが…やはり一人の人間の、小さいが確かな一歩の前進をド本気で描いた「カナリア」が2005年ベスト1かな、と思います…。
返信する
ありがとうございました (kanon)
2005-04-22 23:41:39
はじめまして、TBありがとうございました!



キム・ギドク監督の映画は大好きなんで、「サマリア」も楽しみにしていました。

以前のキム・ギドク監督とは少し路線が変わってきたようですが。。。



でも、「愛の重み」を描くことは天下一品ですね!

「男と女」の愛の形はこちらで、充分なくらい述べられているので。。。

父と娘、これはいいですね。。。

最後に「運転を教えて。。。」でも 車が水の中。。

再生なんでしょうか?
返信する
TBandコメントありがとうございます (文化遺産)
2005-04-29 18:59:25
この作品を観る前に私もカナリアを観ておりまして

描き方は違えど、似たようなテーマだと思っていました。

どちらの映画も超越した存在、もしくはその瞬間に

映画の強さというのがよく現れていてと思います。

でも、カナリアのほうが力強いかな。



そんなわけで失礼しました。
返信する
お返事 (しん)
2005-05-03 09:07:57
>ilovemovie-K様、文化遺産さま

私の好みとして、ハッピーエンドのカナリアより、哀しいサマリアの方が好きなんですね。

暗いの、負けるの、好きなんだ。



>kanon様

実はキム・ギドクの他の映画観てなくって

観なくちゃ!!
返信する
トラックバック (現象)
2005-05-12 01:50:54
以前、僕の拙ブログにTBをいただいたのですが、そちらのgooさんとうちのアメブロは相性が悪いらしくて、こちらからTBを貼ることができません。先ほど「エレニの旅」でもTBをいただきましてこちらはお返しできたのですが、ちょっと僕にもTB可能不可能の理由が分からず誠に申し訳ないです。キム・ギドクは画家というファンデーションが、映像に如何なく発揮されていると思います。リアルタイムで彼の映画が見れて本当によかったです。
返信する
>現象さま (しん)
2005-05-12 02:09:56
gooは問題だらけなんで、申し訳ないっす。



今年は「エレニの旅」と「サマリア」の1・2フィニッシュ確定的だと思ってます。あとはイーストウッドが控えてるけど・・・



ギドクの映像は、アンゲロプロスみたいな完璧な美しさはないんだけど、低予算も丸出しだし、しかし、それにもかかわらず、徹底的に美しいですよね。

単に絵がきれいとか構図が上手いとか、そういう問題でなく、被写体である人間のむき出しの性が、フィルムに焼き付いているというか・・・
返信する
こんばんは (朱雀門)
2005-05-19 20:55:40
2日前にサマリアを観てきました。



コミュニケーションが機能しない、ってのはツボを突いてますねえ。たしかに父娘とも純粋だけど生き方が不器用っていうか・・・孤独なんだろうな。



私も記事を書きました。トラックバックしようとしたのですがうまくいきません・・・



よろしかったら、おいで下さい。
返信する
TB&コメント有り難うございます (海音)
2005-06-01 14:28:18
 3人とも愛しすぎて言葉が出てこないという。悲しい姿を描いていましたね。だから、ラストシーンは、主人公の言葉がない分余計に悲しかったです。

 書かれているとおり、置いてきぼりだし、悲しい、寂しい映画でした。

返信する

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