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映像作品とクラシック音楽 第20回 『ジョーズ』

2021-06-11 17:52:28 | 映像作品とクラシック音楽
お疲れ様です
週一で頑張って、クラシック音楽が印象的な映像作品紹介を書いてます、インディーズ映画監督の齋藤新です
本日は『ジョーズ』です!!
ってまたクラシック音楽じゃないやん!!って話ですけど、今色々ネタ仕込み中なので、今回は単に私が大好きすぎる映画で映画音楽としても史上ナンバー1じゃないかと思っている映画について無駄に熱く語ってみます。


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ジョン・ウィリアムズの二度目のオスカー受賞作。そしてスピルバーグとの信頼関係を不動のものにした彼のフィルモグラフィーでもトップクラスで重要な作品です。
私は作曲家ウィリアムズの活動を勝手に三期に分けるなら・・・
スター・ウォーズ以前を第一期、スター・ウォーズ以後シンドラーのリスト以前を第二期、シンドラー以後を第三期としたいと思っています
色々と模索しながらも着実に大物作曲家へと成長していった第一期。「スター・ウォーズ」でのロンドン交響楽団との出会いも影響して大物から超大物へと化け、SF、ファンタジーを中心として大活躍を見せた第二期。盟友スピルバーグのファンタジーからドラマへの方向転換に呼応してキャッチーなテーマよりクラシカルな響きを求め出した第三期。
そんな括りです。
「ジョーズ」は第一期の集大成と私は位置づけています。


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有名なジョーズのテーマは映画が始まるとすぐにかかります。
海の中を進むカメラ。鮫の目線ですね。それにのって、あのドゥードゥンってコントラバスの音が不気味にゆっくり奏でられます。ロバート・ショー、リチャード・ドレイファス、ロイ・シャイダーと見ただけでひゃっほうと叫びたくなる俳優の名前が一度にクレジットされますが、音楽は例の2音が次第にテンポアップしていってホルンが鳴って、バイオリンが被さって、高音の木管の音がクラッシュ音のように被さって、海草と小魚しか写っていない画面なのになんかおっそろしいことが起こってるっぽい雰囲気が高まりまくったところで、音楽はぴたっと止まって浜辺の場面に変わります。
そこでは性欲以外何も求めていないようなハイティーンの男女の一団がカメラの前でキスしたり酒を飲んだりしています。
まだ相手のいない一人の男の子が、同じく相手のいないクリシーという女の子をじっと見ています。クリシーは誘うような目つきです。そして彼女は駆け出します。男の子は追います。クリシーは走りながら服を脱いでいきます。ですがカメラがヘタクソなのか暗いわ逆光だわでクリシーの裸体はさっぱり視認できません(いや、狙いだってわかってますよ)
男も追いかけながら服を脱ごうとしますがべろべろに酔っぱらっていてクリシーには追いつけないしズボンも脱げません。
肝心な時に役に立たないバカな男をほっといてマッパになったクリシーは明け方の海で泳ぎはじめます。スピルバーグとカメラマンのビル・バトラーとその他スタッフ以外誰も見ていない海でクリシーはシンクロナイズドスイミングの選手のように、足をまっすぐ海面から突き出して潜水したりとかしています。
この間ジョン・ウィリアムズは沈黙を守っていますが、次のカット。
全裸のクリシーの下半身を海の底から見上げるカットです。こう書くとサービスショット以外の何ものでもないように感じますが、ウィリアムズの楽曲が不気味な息吹をはじめます。カメラは次第にクリシーの下半身に近づいていき、ウィリアムズによるコントラバスの獰猛な息づかいが早くなっていきます。そしてカットは海上にもどりクリシーが海に引っ張り込まれるところを映します。音楽は高音を効かせたクラッシュ音のようになり、さらにクリシーが海の底の見えない何者かにぶんぶんかき回されると低音の弦と高音の管がクリシーの恐怖とパニックを表現します。
するとカットが変わり青年が波打ち際で酔いつぶれているのが映ると音楽はホイッスルがピーーーッと鳴るような音だけを奏で、またカットがクリシーにもどると獰猛なメロディに戻ります。泳ぎに泳いでブイに掴まるクリシーですが再びウィリアムズの獰猛な調べの餌食となって海に引きづり込まれついに戻ってきません。音楽は襲撃の終了とともにぴたっと止み、後にはブイに備え付けられた鐘の音が静かな波のリズムに乗ってカン・・・カン・・・と鳴っています。
オープニングの音楽だけでこんなに盛り上がってしまいました。いいですね。ジョーズ。


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ジョーズの音楽の付け方の基本方針は、海中ショットで音楽が鳴れば次のカットで誰か食われる。海中ショットで音楽が鳴らなければ次のカットで誰も食われない。要するに音楽が鳴れば何かが起こる・・・というとても単純なものです。
だから鮫に人が食われるショッキングシーンが苦手なお子さんには、「ほらほら食われるよ」とか「大丈夫、まだ誰も食われないよ」とか説明しやすくなっています。
心臓の音をヒントに作ったというコントラバスの鮫のテーマは、震え上がる怖さです。

しかしこの「心臓の音」ですが、考えてみると誰の心臓なのでしょう?
例のテーマは主にサメ目線の映像でかかるのです。食われる人間はサメが近づいていることを知らないから、心臓の鼓動は上がりません。サメにとっては毎日の食事に過ぎないのでこれも心臓が高鳴ったりはしないでしょう。
この心臓の音とは、そう、映画を観ている観客の心臓です。
つまりあのテーマは観客の心臓を強制的にギアチェンジさせる役割をもった、サメ以上に冷酷なマシーンのような音楽なのです!!


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ところでジョーズの音楽は鮫のテーマ以外の場面は、割と軽く楽しくコミカルなんですね。楽しい家族旅行や恋人とのハイキングのビデオのBGMとして使っても全然違和感の無い曲がけっこうあります。
個人的に鮫のテーマより好きなのは、クィント(ロバート・ショー)とフーパー博士(リチャード・ドレイファス)とブロディ署長(ロイ・シャイダー)を乗せたオルカ号が出港する場面の曲です。
木管がピッポコピッポコと楽しげで、これから始まる過酷で凄惨な戦いなど何も予感させない陽気さが大好きです。
ただし残念なことにサントラだと2~3分あるこの曲は本編では1分も使われません。ウィリアムズもお気に入りの曲だったらしく、スピルバーグ作品の音楽集アルバムでも再録音しております。

2020年にウィリアムズがウィーンフィルでタクトを振った「JOHN WILLIAMS LIVE IN VIENNA」においてもジョーズのテーマはやらずに、このオルカ号出発ののんきなテーマを演奏していたりしますから、よっぽどお気に入りなんでしょう。


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オルカ号出港後の三人の男たちを彩る音楽は後に確立するウィリアムズ節が垣間見えます。
鮫にブイを撃ち込んで、それを目印にオルカ号が鮫を追いかける場面。ジョーズのテーマで危機感を煽るのもそこそこに、景気のいいブラスの響き、心地よく躍動するストリングス、メロディを補完する楽しげな木管の音。スコアを書くウィリアムズも演奏するオーケストラもノリノリになっている様が目に浮かんできます。
まだまだジョーズとの戦いを楽しんでいる三人の男たち。いやブロディ署長だけはいっぱいいっぱいでしたね(海が嫌い、船が苦手、鮫のことよく知らない)。どこか鮫狩りを楽しんでいるクィントとフーパーに引っ張り回され戸惑っているブロディを滑稽に笑い者にしているようなユーモア溢れる演出を盛り上げるため危機感よりも大騒ぎ感を音楽面から表現しているんですね。


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けどそうはいっても相手は全長9mはあろうかという巨大な鮫です。ちっぽけなオルカ号は次第に鮫に追いつめられボロボロ。もう打つ手なし。無線も無い(クィントが壊したんだけど)、エンジンもおじゃん。あきらめムードの漂う船内。音楽も沈黙。そこでフーパーが鮫よけの檻を作って海に沈め、檻の中から毒薬を注射すれば鮫を殺せる、それも皮膚は硬いから口の中に注射する、などとあまりにも見込みのなさそうな作戦を提案します。無茶だと反対するブロディとクィントに「他に何か方法があるなら教えてくれ!」とキレるフーパー。檻の部品を押し付けられるブロディの仕方ないな・・・という表情から音楽がスタートです。
この檻を組み立てる曲はそれまでの明るくノリのいい曲とは明らかに異なります。
低音を効かせたストリングスとティンパニがリズミカルにしかし緊迫感を高めて黙々と檻を作る三人の作業を描きます。これはふざけるのも舐めるのもやめて本気になった海の男たちのテーマとでも言うべきでしょう。
音楽は勇ましくもどこか絶望的な響きも漂わせて大いに盛り上がりそして完成した檻の中にダイビングの装備をしたフーパーが入って海に沈められます。

海中で音楽は鳴らず、やや濁った海は静かにフーパーを包みます。そうすると、例のコントラバスの調べとともに巨大な鮫の影がゆっくりと泳ぐ姿が見えてきます。勿論身構えて緊迫するフーパー。彼の心拍と多分同じくらいのテンポで奏でられるコントラバス。ところが鮫は檻に見向きもせず泳ぎ去りコントラバスの音も鮫が遠のくのに従って弱く弱くなっていきます。
ふう、やれやれと気持ちを落ち着けるフーパーですが突如背後から鮫が檻に体当たり。海中で声の出ないフーパーにかわって音楽が高音を効かせて悲鳴のように奏でます。この台詞代わりの音楽の使い方のうまさ。


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檻を引き上げるブロディとクィントですが、ズタズタになった檻の残骸しかない。するとフーパーを食い損なって気が立ってる鮫がオルカ号にアタック。乗り上げて力まかせに船を傾けて沈めようとします。そしてクィントが。あの絶対死にそうにない感じのクィントが鮫に食われて見苦しいくらいの悲鳴を上げ、血を吹いて絶命します。ここはロバート・ショーの悲鳴だけで充分と判断したのかウィリアムズは沈黙。
さらに鮫はクィントだけじゃ食い足りないのか、あるいはよっぽど不味かったのか、半分沈んだオルカ号に残るブロディをも襲います。
ブロディはフーパーが持ち込んだ圧搾空気ボンベを鮫の口に突っ込みます。フーパーから衝撃を与えたら爆発するから気をつけて扱えと、説明的な説教を受けたあのボンベです。
いまやほとんど沈んでしまったオルカ号のマストによじ上り、ライフル銃を構えるブロディ。
それまで冷酷に無音でブロディの悪あがきを見守っていたウィリアムズですが、ついに音楽を鳴らします。前述の本作の音楽における基本方針。音楽が鳴れば何か起きる。ジョーズのテーマにかぶさって「本気になった海の男のテーマ」が同時に奏でられます。ジョーズ対ロイ・シャイダーの最終決戦にふさわしい音楽ですが、二つのテーマ同時鳴らしは、「キングコング対ゴジラ」のメインテーマでコングのテーマとゴジラのテーマを同時に重ねて鳴らしたのと同じ効果を狙ったのかもしれません。んなわけないけど。
ともかく、泳ぐ鮫→ライフルを撃つブロディ→泳ぐ鮫→口の中のボンベ→撃つブロディ→泳ぐ鮫というモンタージュにあわせて盛り上がる音楽。最高潮に盛り上がったところでブロディの決め台詞「Smile! Son of a・・・」(日本語吹き替えだと「くたばれ!化け物」)ズキューーン。そこで音楽ストップして

ドッガァァァァン!!

音楽無しでブロディの雄叫び。
そして頭を吹き飛ばされた鮫が海に沈んでいくショットに被さって、ピアノかハープかチェレスタか何かよく判りませんがキラキラした幻想的な音楽がかかるのが良いです。壮大なファンファーレではなく静かな幕引き。

そして何故か食われずに生き残ったフーパーがひょっこり現れて、ブロディとオルカ号の破片の板きれにつかまってバタ足で島に戻るラストシーンと、平和な島の海岸に被せたエンドクレジットにつける曲も、オルカ号のテーマをフルートで奏でる静かな、安らぎの曲。
戦い終わって疲れ果てて早く妻と子どもたちの待つ家に帰ってぐっすり眠りたいぜ、などと思っていそうなブロディ署長へのジョン・ウィリアムズからのプレゼントのような安らぎの曲。緊張しっぱなしだった観客も心のクールダウンができて、いい気分で映画を見終わることができます。


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ちなみにウィリアムズが音楽担当した「ジョーズ2」(ヤノット・シュワルツ監督)では鮫が電線かじって感電死したラストで高らかにファンファーレが奏でられ、ちょっと騒々しく映画は幕を閉じました(それはそれでスカッとはしたんですがね)。監督変わると演出も変わり音楽のアプローチも変わるのですね。そして3作目、4作目ではウィリアムズは音楽を務めませんでした。

ともかく「ジョーズ」は演出をよく理解した音楽作りでした。スピルバーグは、この人となら凄い映画いっぱい作れそうだって思ったに違いありません。
そして一度聞いたら絶対忘れない(なんせ2音だから忘れようも無いのだけど)旋律で鮫の姿と音楽がセットになって記憶に蘇るという映画音楽として完璧な機能を果たしました。当然のオスカー受賞でウィリアムズは名実共にハリウッドを代表する作曲家に押し上げたのです。
制作から45年たった今でも、物語も演出も映像もそして音楽もまったく色あせること無い奇跡のような傑作「ジョーズ」。音楽をこうして思い出すだけで色んなシーンが愛とともに思い出されます。


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それではまた、素敵な映画と素敵なクラシック音楽で会いましょう

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