自主映画制作工房Stud!o Yunfat 改め ALIQOUI film 映評のページ

映画作りの糧とすべく劇場鑑賞作品中心にネタバレ徹底分析
映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

追悼・今敏監督

2010-08-25 23:55:40 | 映画人についての特集
ここのとこ、ブログもmixiも更新していなかったが、あまりに悲しい残念なニュースが入り、キーボードをたたかねばなるまい・・・と思った。
このままではブログは追悼文集になってしまう。なるべく早くに映評を再会しよう・・・

----
アニメ映画監督の今敏監督が亡くなられた。
大学時代の後輩Tからのメールで知った。彼とのメールといえば有名な監督や俳優の悲報ばかりだ。

私が今敏監督作品と邂逅を果たしたのは2003年だ。
そのときの私は、とにかく映画を沢山映画館に見に行こうとやっきになっていた。どんな映画か調べもせずに映画館に出かけたものだ。その年は、日本映画を年間30本は見るのだという目標を勝手に掲げていた。なんでもいいから見ようと思って映画館に行った。
映画館で初めて「アニメだったんだ」と思ったくらいだった。
その映画は「東京ゴッドファーザーズ」というタイトルだった。
監督の名前も知らなかった。「今敏」。
はずかしい話だが読めなかった。
「コントシ?」
おしかった。「コン サトシ」だった

ついでに言うと、そのころ、これはまた怒る方もいるかもしれないことだが、そのころ私はアニメを見下していた。
子供の頃楽しんだアニメは別として。
ジブリ作品は監督がビッグネームだし話題にもなるから見に行っていたが、他のアニメ作品はわざわざ金出して映画館でみなくてもよいだろうなどという、明らかに間違った考えを当時は持っていた。
だから、2001年の「クレヨンしんちゃんモーレツオトナ帝国の逆襲」も翌年の「クレヨンしんちゃんアッパレ戦国大合戦」もスルーしていた。もったいない事だ・・・

「東京ゴッドファーザーズ」を見始めた。
最初の30分のあまりにもあり得ないご都合主義の連続に戸惑った。こんなシナリオでいいのか。どこまで本気なのか?
しかし映画は60分を超えてもご都合主義は留まる事を知らぬどころか、90分をすぎクライマックスに向かうに従いご都合主義はヒートアップしていく。
そしてラストの偶然の再会に続いて、赤ん坊のにっこり笑う顔アップに、たしかに天使の姿を見て涙ぐんだ。
クリスマスから大晦日にかけてその赤ん坊の行くところにばらまかれていく奇跡の数々。
「ご都合主義」を徹底的に集めていけばそれは「奇跡」の物語になる。
こんな見事な脚本が、当時の私の基準における「アニメより一段上の実写映画」に果たしていくつあっただろうか。
その面白さにすっかり魅了され、さらに時間が経つにつれ、その年に見た数々の、見た直後は傑作だと思った実写映画は忘れても、この作品は忘れるどころかその輝きをぐんぐん増していった。

大傑作「東京ゴッドファーザーズ」だが、弱点もある。
アニメでソフトに表現されたホームレスは感情移入はしやすいが、現実のホームレスたちから目を背けているのではあるまいか・・・というモヤモヤはぬぐい去る事はできない。
かといって実写でリアリティを追求すればすれば、見た目の嫌悪感から同じストーリーであっても同じ感動は得られなかったであろうし、不潔さを感じさせないセットや衣装やメイクにすれば、それはそれで批判の対象となろう。
結局、アニメという表現方法を選択することで、臭く汚く気持ち悪いという設定を十分に認知させつつ感情移入対象のキャラクターとしても成立させる、ギリギリのバランスを成り立たせたのだ。
そんな議論を醸し出しそうな余地を残しているところがまた余計に、この作品への愛着を深めてしまうのだった。

----
「東京ゴッドファーザーズ」に感銘を受けて、アニメに対する評価が私の中でがらりと変わった。
考えてみれば、実写映画とくに日本の低予算映画によく見られるような「ほんとはこんな場所で撮りたくないし、こんな天気で撮りたくないんだけど、スケジュールがおしてるから仕方なく撮りました」的な画面は、少なくとも「東京ゴッドファーザーズ」には無かった。
「本当はこんなヘタクソな演技じゃ嫌なんだけど人気アイドルだからそのままOK出しました」的芝居も「東京ゴッドファーザーズ」には無かった。

もちろんアニメだって、予算や日程の都合で、納得いかない画のまま不本意ながら公開してしまうケースも多いのだろう。
けれどアニメは実写と違い、舞台も芝居も基本的には作家のコントロール下にある。作家が欲しいと思った画は究極的には紙と鉛筆があれば作り出す事ができる。
アニメならホームレスの狭い段ボールハウスの中でも自由なアングルで撮影できるし、女の子をデブらせたり汚くさせたり可愛くさせたりも自由自在だ。
ああ、俺も画の練習でもしてアニメ作家を目指していれば良かったなどと、「東京ゴッドファーザーズ」を今更のように悔しがった。

-----
「東京GF」に魅せられた私が「パプリカ」に魅せられるのに何の障害も無かった。
デブの天才科学者にしてメカオタクの声がアムロの古谷徹だったことがオールドアニメオタク心をくすぐりもしたが、それだけではなかった。
実写ドラマのような映像が主体だった「東京GF」のうっぷんをはらすかのごとく、夢の世界の魑魅魍魎や不思議世界の映像美、夢の中を縦横無尽に飛び回るヒロイン・パプリカの躍動感。どこをとってもアニメアニメしたアニメだった。
すごく面白かった・・・が、後になって筒井康隆の原作を読んだら、もっともっと面白くて度肝を抜かされたのだが・・・それでもアニメ版パプリカの方が勝っていた部分もある。
若い頃は映画監督志望だったという粉川刑事のキャラはアニメの方がはるかに面白い。「ローマの休日」や「ターザン」のワンシーンの中をその登場人物になりきって飛び回りながらパプリカを悪人から救い出す粉川刑事。そのかっこよさは抜群であり、同時に実写映画への愛が感じられた。
実写映画の知識と技巧でアニメを作る監督なのかもしれない・・と勝手に今敏監督をそのようなキャラに認定した。

ビデオで「千年女優」「パーフェクトブルー」も見た。「東京GF」や「パプリカ」ほどの衝撃はなかったが、どれも佳作だ。

そして、ひょっとすると「東京GF」や「パプリカ」よりも今敏監督の「代表作」と呼ぶに相応しい作品がある。
映画ではなくWOWOW制作の連続アニメだが「妄想代理人」という作品だ。
テレビ作品なので作画のクォリティは映画作品より低いが、予想のつかない展開がとにかく面白く、続きを早く見たくなる。「パプリカ」を連続12回のドラマにしたような複雑で入り組んでいて難解で不思議な話ゆえ、こんな話ですとかいつまんで説明する事ができないのだが・・・と単に何年か前に見ただけなので忘れているだけかもしれないことの言い訳をするが、面白さは保証する。
ぜひとも見ていただきたい。

-----
そんな今敏監督も今は無い。
ジブリアニメの質が下り坂になったゼロ年代に入れ替わるように台頭してきた三人のアニメ作家。原恵一、細田守、そして今敏。この三人が2010年代のアニメとそして日本映画を面白くするに違いない・・・と睨んでいたのだが、その大切な一角を失ってしまった。
あとせめて10年作品を作り続ければ、アニメ史にも映画史にも残る伝説の作家となったに違いないアーティストだ。
「東京GF」「パプリカ」「妄想代理人」の三作を見れば私のその思いは判っていただけると思う。

ご冥福をお祈りいたします。

----
追記
先月突然妻が「パプリカ」を見たいと言い出し、見た。何かの予兆だったのか。
悲報を聞いた今日は「東京GF」を見て、監督を悼んだのだった。

*******
ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン
↑この度、「ブロガーによる00年代(2000~2009)の映画ベストテン」を選出しました。映画好きブロガーを中心とした37名による選出になります。どうぞ00年代の名作・傑作・人気作・問題作の数々を振り返っていってください

ちなみに「東京ゴッドファーザーズ」を私はゼロ年代日本映画ベストテンの8位にしております。

********
↓面白かったらクリックしてね
にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへにほんブログ村

人気blogランキング

自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 富士登山記 | トップ | 特攻野郎Aチーム [監督:ジョ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画人についての特集」カテゴリの最新記事