近年作られたメイド・イン・ジャパンの戦争映画のどれよりも、「ホテル・ルワンダ」は地獄に近い。
戦争はかっこよくない。美しくない。
恐ろしく、醜く、汚い
お国のため、名誉のため・・・ぬかせ
国益のため、領土拡張、発言力の増大、新しい秩序・・・
何もかもきれい事だ。
末端まで下がってみれば、暴徒化した集団が敵対組織を隷属はおろか根絶やしにしようと、一片の慈悲もなく殺戮を繰り広げる。
殺されそうになる側も、生き残るため嘘をつき騙し泥まみれ血まみれ、なりふりかまっちゃいられない。
この映画はルワンダ内戦で、1200人もの人々を虐殺から救った男を描いたものだ。フツ族とツチ族の内戦で実権を握ったフツ族はラジオで公然とツチ族をゴキブリと呼び、虐殺を奨励する。彼らは本気でツチ族の最後の一人を殺すまで殺戮を続けると言い、根絶やしは必ず成し遂げると信じている。
歴史が動くとき必ず“狂”の集団が現れる、みたいなことを司馬遼太郎が書いていたが、この時のルワンダもそんな感じだったのかもしれない。
(アフリカの黒人はバカだなあ、などと思ってはいけない。我れらがジャパンだって似たようなもんだ。異人と見るや問答無用で斬りまくり尊皇攘夷なんかよりただ殺人が好きなだけだった奴らが大勢いた)
フツ族である主人公は、ヨーロッパ人が経営するホテルで支配人を務めている。彼の妻はツチ族で政情の成り行きでは殺されかねない。
しかしフツ族民兵もホテルには手を出せない。そんなことをすれば白人社会を敵に回すことが判っているからだ。
国連の平和維持軍(発砲禁止、人数も数名、装備も大したことなく、重機はトラック程度)も、話の判る支配人のいるホテルを拠点の一つとし、ホテルを警備する(その実、ホテルに守られている)
支配人は妻と子供たちをホテルに匿い、あわせて多くのツチ族をホテルに隠す。
アフリカのシンドラーなどともどこかで書かれているが、映画の中では英雄的に描かれるわけではない。
彼も自分と家族を守るため必死だ。
フツ族はラジオで主人公を裏切り者と批判、欧米は静観を決め込み何もしようとしない(同じ頃のユーゴスラビア内戦には散々介入し、メディアもさかんに報じていたのに)。ヨーロッパの後ろ盾など幻にすぎないし、それでなくてもエスカレートした民衆がいつホテルに押し寄せるか判らない。
賄賂、脅し、泣きつき、嘘、慇懃無礼、地位も友情も利用、時には尻尾まいて逃げ時には度胸で乗り越える・・・生き残るためありとあらゆる手を使う
家族を守る、人々を救うという美談と平行して、土壇場に追い込まれた人間の汚さも見せる。
それは国連軍の大佐にも言える。100万対10くらいの100%勝ち目のないどころか生き残れば御の字の状況で、しかも発砲も許されない。やむを得ずの威嚇射撃、そして射殺。
内戦中の国に安全な場所などないのだ。
ゴキブリどもを殺せとわめき続ける公共ラジオと、霧の中浮かび上がってくる虐殺死体の山。この状況で俺ならどうする。命乞いも恥ではない地獄のような状況で
いろいろな意味で、去年のあるゆるーい映画の台詞が頭をよぎる
「良く見ろ日本人、これが戦争だ」
絶望的な状況の中のサバイバル、極限状態でふと垣間見せる人間の変わった一面(時にユーモア)などもよく描けていて、社会性だけでなく娯楽性の面でも一級品である。
監督のテリー・ジョージ。「父の祈りを」の脚本書いてる。こういうドラマが得意なのだろうか。IRAとの関係を疑われイギリスで逮捕されたこともあるとか、そんな話も武勇伝みたく聞こえ、不謹慎かもしれんが実際地獄をかいくぐってきた“本物”だからこれほどの映画が撮れたのかな・・・と思った。
主人公のドン・チードルはアカデミー候補となったこと納得の熱演。一本の映画でこれだけ色んな面を見せてしまった「ドン・チードルを知りたきゃこれを観ろ映画」。国連軍大佐のニック・ノルティもいい。凶暴そうな感じがぴったり。シン・レッド・ラインの役とかぶるが
ともかく必見の傑作
見逃すと損するぜ
*******
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自主映画撮ってます。松本自主映画製作工房 スタジオゆんふぁのHP
戦争はかっこよくない。美しくない。
恐ろしく、醜く、汚い
お国のため、名誉のため・・・ぬかせ
国益のため、領土拡張、発言力の増大、新しい秩序・・・
何もかもきれい事だ。
末端まで下がってみれば、暴徒化した集団が敵対組織を隷属はおろか根絶やしにしようと、一片の慈悲もなく殺戮を繰り広げる。
殺されそうになる側も、生き残るため嘘をつき騙し泥まみれ血まみれ、なりふりかまっちゃいられない。
この映画はルワンダ内戦で、1200人もの人々を虐殺から救った男を描いたものだ。フツ族とツチ族の内戦で実権を握ったフツ族はラジオで公然とツチ族をゴキブリと呼び、虐殺を奨励する。彼らは本気でツチ族の最後の一人を殺すまで殺戮を続けると言い、根絶やしは必ず成し遂げると信じている。
歴史が動くとき必ず“狂”の集団が現れる、みたいなことを司馬遼太郎が書いていたが、この時のルワンダもそんな感じだったのかもしれない。
(アフリカの黒人はバカだなあ、などと思ってはいけない。我れらがジャパンだって似たようなもんだ。異人と見るや問答無用で斬りまくり尊皇攘夷なんかよりただ殺人が好きなだけだった奴らが大勢いた)
フツ族である主人公は、ヨーロッパ人が経営するホテルで支配人を務めている。彼の妻はツチ族で政情の成り行きでは殺されかねない。
しかしフツ族民兵もホテルには手を出せない。そんなことをすれば白人社会を敵に回すことが判っているからだ。
国連の平和維持軍(発砲禁止、人数も数名、装備も大したことなく、重機はトラック程度)も、話の判る支配人のいるホテルを拠点の一つとし、ホテルを警備する(その実、ホテルに守られている)
支配人は妻と子供たちをホテルに匿い、あわせて多くのツチ族をホテルに隠す。
アフリカのシンドラーなどともどこかで書かれているが、映画の中では英雄的に描かれるわけではない。
彼も自分と家族を守るため必死だ。
フツ族はラジオで主人公を裏切り者と批判、欧米は静観を決め込み何もしようとしない(同じ頃のユーゴスラビア内戦には散々介入し、メディアもさかんに報じていたのに)。ヨーロッパの後ろ盾など幻にすぎないし、それでなくてもエスカレートした民衆がいつホテルに押し寄せるか判らない。
賄賂、脅し、泣きつき、嘘、慇懃無礼、地位も友情も利用、時には尻尾まいて逃げ時には度胸で乗り越える・・・生き残るためありとあらゆる手を使う
家族を守る、人々を救うという美談と平行して、土壇場に追い込まれた人間の汚さも見せる。
それは国連軍の大佐にも言える。100万対10くらいの100%勝ち目のないどころか生き残れば御の字の状況で、しかも発砲も許されない。やむを得ずの威嚇射撃、そして射殺。
内戦中の国に安全な場所などないのだ。
ゴキブリどもを殺せとわめき続ける公共ラジオと、霧の中浮かび上がってくる虐殺死体の山。この状況で俺ならどうする。命乞いも恥ではない地獄のような状況で
いろいろな意味で、去年のあるゆるーい映画の台詞が頭をよぎる
「良く見ろ日本人、これが戦争だ」
絶望的な状況の中のサバイバル、極限状態でふと垣間見せる人間の変わった一面(時にユーモア)などもよく描けていて、社会性だけでなく娯楽性の面でも一級品である。
監督のテリー・ジョージ。「父の祈りを」の脚本書いてる。こういうドラマが得意なのだろうか。IRAとの関係を疑われイギリスで逮捕されたこともあるとか、そんな話も武勇伝みたく聞こえ、不謹慎かもしれんが実際地獄をかいくぐってきた“本物”だからこれほどの映画が撮れたのかな・・・と思った。
主人公のドン・チードルはアカデミー候補となったこと納得の熱演。一本の映画でこれだけ色んな面を見せてしまった「ドン・チードルを知りたきゃこれを観ろ映画」。国連軍大佐のニック・ノルティもいい。凶暴そうな感じがぴったり。シン・レッド・ラインの役とかぶるが
ともかく必見の傑作
見逃すと損するぜ
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ドン・チードルのすばらしい演技は、まさに神がかり的でした。それを観るだけでも値打ちのある秀作。さらに、今日の世界に問題を突きつけている重さもある。必見ですね。
いままでドン・チードルは風貌が印象的で、脇で光る人なのかと思っていましたが、なんのなんの堂々主役で魅せてくれました。
「クラッシュ」も同時期に見たのですがこれまた別タイプの人物でよかったです。
自分達の家族さえ無事なら、という状態から、ただ目の前にあることを自分のもてる全てを駆使して乗り越えて変わっていく様が、普通の人としての共感を呼びます。
映画が見られるように動いてくださった方にひたすら感謝です。
この映画を見て、現代日本人がどう感じるのか?非常に興味深いところもあります。
「大変だね」と言いながら食事を続ける人間には、なりたくないと思いました・・・
事実を伝えながらエンターテイメント性を失わない、見事な映画でした。主役の人はオーシャンズの人と同一人物とは気付きませんでした(笑)
上映のために署名活動をしてくれた方たちに感謝です。
見た目は地味なドン・チードルだけに最初で最後のオスカー(主演賞)チャンスだったのかもしれないんですが
>ミチさま
そんなわけでクラッシュではさくっと脇で光る人物に戻ってしまい
>charlotteさま
そういう意味できわめて普通の人でした。だから良かったのですが
>カオリさま
で、チードルがいくら熱演しようとも、日本人は大変だねと言って食事を続け
>座敷童さま
それでも上映のため署名集める人たちだっているところがかすかな希望です
>冨田弘嗣さま
そんなこんなで、並の文才なんですけど
誤字の多さとボキャブラリイの薄っぺらさで有料公開したら「ゴキブリめ」と言われナタで殺されそうです
にらさんとか、マダムクニコさんとか、丞相さんとかネットの世界には天才たちが多いので、日々肩身の狭い思いをしております。
でもめずらしく褒められたのでぶっちゃけちょっといい気分です。ありがとうございました。
しんさんの評論を読んでから、ずっと見たいなぁと思い続けていた
ホテルルワンダですが、ようやく見に行くことが出来ました。
「見逃すと損する」の言葉の意味が、わかりました。
人生で1度は、見て欲しい映画の1つ。
大学合格おめでとうです。そして早々に見たのがホテル・ルワンダとは幸運です。
人生で一度は観てほしい映画!!そうですね。そういう映画は2~300本はあったりするんですが、すくなくともこの映画は2006年を代表する一本にはちがいないでしょう。
貴方の大学生活に幸あらんことを
私も大学生にもどりたいーん
これ、観てよかった。
ほんと「見逃すと損するぜ」でした。
娯楽性ということではないですけど、
とても分かりやすく当時の実情を教えてくれたなという印象です。
(一方の側からだけなのでしょうが)
ドン・チードルの見事なハマリ役に唸っちゃいました。
TBがNGワードに引っ掛かってしまったようなので、
このコメントにて失礼いたします。