ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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大学独自の奨学金の背景にある“過酷な取立て”

2013年10月23日 | Weblog

 平成二十五年十月四日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「朝刊ピックアップ」で記事 
 
「大学独自の奨学金の背景にある“過酷な取立て”」
 
を企画、取材、執筆しました。

 

 けさの読売新聞に「返済不要の大学奨学金増加」という記事がある。これによると、給付式の独自の奨学金制度を設けている大学が増えているという。例えば、早稲田大学では約1200人に年40万円を4年間支給。立教大や慶応大でも同様の制度がある。こうした奨学金は09年ごろから増えてきており、「首都圏以外の出身」「両親の収入が基準以下」といった条件を課し、入試前に応募し、高校の成績などの書類選考を経て候補者になった後、合格して入学すれば支給――といった流れが一般的という。

 ちなみに、大学側が独自の給付制度を設ける背景には、日本学生支援機構(旧日本育英会)の強行な借金取り立てがある。そもそも旧日本育英会の奨学金が大幅に増え始めたのは、「少子化で大学破綻が続出する」と言われ始めた1999年にさかのぼる。この年に国は、有利子奨学金の貸し出し枠を、一気に2倍に拡張した。その後も国は、貸出額の上限を月10万円から12万円に増額するなど、拡充を図ってきた。その結果どうなったかというと、奨学金の貸与(たいよ)金額は、98年度の2,661億円から12年度末時点で1兆円強にまで膨らみ、進学率は上がり続けた。貸与人数は12年度末で131万8,952人。

 要するに、「大学全入」の掛け声のウラには、「奨学金を湯水のように注ぐ」という国策があった。その結果、大学は、少子化による淘汰を免れた。それどころか大学は増え続けた(全国の大学数99年度622校→13年度783校)。

 だが、不況下で大卒が安定職に就くことが難しい時代になり、いまや、奨学金の返還を6か月以上滞っている人は18万1千人、延滞債権額は2,189億円という状況が現出している。(同機構平成24年度事業報告書より)

 延滞債権への取り立てについては、10月1日付ニュースサイト・マイニュースジャパンのジャーナリスト三宅勝久氏の記事「『奨学金』という名の悪質公的学生ローン」に詳しい。

 記事によると都内の男性J氏(27歳)は09年3月に大学卒業。奨学金を借りたのは4年間で月額5万円。有利子の第二種、金利は年1.58%。返還は09年10月から毎月1万3293円ずつ、168回にわけて払う計画だった。J氏は最初の1年あまりは支払っていたが、その後、滞納した。すると、12年12月に「一括請求」で211万円もの請求がきた。

 J氏は、裁判を起こし、同機構と和解し、訴訟中の延滞利息を加わえた計222万円を毎月1万円ずつ支払うことになった。その和解書には「2万円以上支払いが滞ると、延滞利息年10%を加えた金額を一気に支払う」という意味の一文もある。

 日本学生支援機構の「奨学金」は英語表記では「scholarship loan」という言葉を使っている。これはscholarship(奨学金)とstudent loan(学生ローン)を混ぜ合わせた言葉。その実態は学生ローンそのものというわけ。

 なお、機構によると、奨学金返還の振込がなかった場合、機構は振替不能通知と電話連絡をし、病気・失業など返還できない事情があれば、返還猶予の案内をしているという。他方、本人や連帯保証人、保証人への通知、架電によっても、返還や猶予の手続きがない延滞9か月以上の者に対しては、繰上げ一括請求を行っているという。

 大学に入るのはモラトリアム、将来を考える猶予期間、という安易な進学がまかり通ってきたが、当事者の学生のみならず、親、教育関係者、タックスペイヤーといった大人が、高等教育とは何をするところなのか、根本から問い直す必要があるのではないか?(佐々木奎一)


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