現在、日本では、子猫の殺処分が、一日百六十匹ペースで執行されている。
猫はネズミ算で繁殖していくので、産まれる子猫の数を減らし、メガデスをなくしていこう、という考えのもと、全国各地で、猫の去勢、不妊手術が進められている。
考えてみれば、一昔前まで、人間社会にも、望まず生まれた赤ちゃんを殺す、という風習があった。
たとえば、戦国時代の宣教師・ルイス・フロイスの本には、当時の日本では、間引きのため、親が赤ちゃんを踏みつけて殺す習俗があった、という意味のことが記されている。
西洋でも、たとえばギリシャでは、新生児の殺害の慣行があり、かのアリストテレスが「奨励すべき事柄」と言及したり、プラトンでさえ、この慣行を否認する記述をまったく行っていなかった。(英吉利の思想家アダム・スミスの著書「道徳感情論」より)
つまり、人間は、去勢によらず、産み過ぎると、みずから殺処分していたことになる。
今、人間社会で赤子殺しの風習がなくなったのは、もとより避妊具によるところが大きい。
だが、猫には、避妊具はない。
産み過ぎて子猫殺しに陥るよりは、去勢手術を施していく方が遥かによい。はるかによいが、ひょっしたら、それは発展途上の段階の目標なのではないか。
もしも猫の避妊具ができれば、それをつくった人は、猫界では偉業として名を遺すかもしれない。