ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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過酷な労働現場と闘いの現実を探る映画上映会に潜入!

2012年09月07日 | Weblog

 フリーター、ハケン社員、ワーキングプア、長時間労働、過労死…格差の拡大で苦しむ労働者が後を絶たない。そうした雇用情勢のなか、「21世紀に甦る、リアル『蟹工船』。本当にあった過酷な労働、残酷な会社の仕打ち、そして闘い…」というサブタイトルの「ドキュメンタリー映画『フツーの仕事がしたい』上映会」が7日、東京都千代田区内で開催された。主催は「フツーの仕事がしたい」PARC上映会実行委員会。上映後は土屋トカチ監督のトークもあるという。過酷な労働現場の実態を知るため、現地へ向かった。会場には労働組員など中高年の男女29人が参加していた。

 この映画の発端は、06年に土屋トカチ監督が知人から「労組をつくって嫌がらせされている人がいる。証拠として残したいので撮ってほしい」と依頼されたことに始まる。嫌がらせをされているのは、この映画の主人公・皆倉(かいくら)信和氏(当時36歳)。実は土屋監督も7年前に赤字を理由に映像製作会社を解雇された経験があった。同い年の皆倉氏を取材するうちに、かつての自分の姿を重ねるようになり、いつしかこの闘いを映画にしようと決意するようになっていったという。こうして08年6月に映画は完成した。映画の概要は以下の通り。

 皆倉氏は、高校卒業後、運送業のトラック運転手をしており、約7年前からセメント運送の有限会社 東都運輸に正社員として勤めた。

 だが、この会社はブラック企業だった。例えば皆倉さんの05年3月の乗務日報によると、「3時40分発、2時46分着」「3時発、23時11分着」「23時25分発、5時着」「5時50分発、4時16分着」…こんな調子で13日間連続勤務が続くなどで、1か月の労働時間はなんと552時間34分に達していた。1か月744時間なので、月1日も休みなく働いたとしても、1日当たり約6時間しか休息時間はない。これでは寝る時間もまともに確保できないのは明か。しかも、給与は月30万円で残業代は一切なし、有給も社会保険もなし、という違法待遇だった。

 こんな生活を送るなか、皆倉氏は偶然、運転中に労組のビラを受け取った。それは「連帯ユニオン」という労組が作成したもので、「正社員、契約社員、派遣、パートといった雇用形態にとらわれず、だれでも、どんな職種の方でも、1人で加入できる労組です」「解雇や職場のいじめ、長時間労働や法律違反の労働条件、賃金不払いやサービス残業など、企業の理不尽な人権侵害に苦しむ仲間が1人でもいれば、組合員みんなの力を集めてたたかいます」といった趣旨のことが書いてある。これを見て、皆倉氏は初めて労組というものがあるのを知り、「本当に困った時はここに連絡しよう」と決め、運転席にいつも置いていた。

 その後、会社は不景気を理由に給与を3割カット。さらに「償却制」と称し、燃費などの諸経費を全て社員の自己負担制とした。これに堪りかねた皆倉氏は、ついに連帯ユニオンに連絡を取った。その後、労組側は会社に対し団体交渉を要求。ここで会社は皆倉氏が労組に入ったのを知り、「30万円渡すから労組の脱退届を書け」と迫り、皆倉氏は口約束でいったんは了承した。するとその2日後には「退職願を書け」と迫ってきた。

 皆倉氏は労組に相談し、会社の事務所で、話し合いの場がもたれた。土屋監督が撮影を始めたのは、この時からだった。

 この時、皆倉氏は今にも辞めそうな疲れ切った覇気のない様子で、顔は土色だった。社長は「バカ野郎!」と労組メンバーを怒鳴り散らして、証拠書類を引き裂き、組合員を椅子になぎ倒したりした。その後、皆倉さんは上司たちに囲まれながらも「組合も会社も辞めません」と小声で言うと、社長がしぶしぶ引き下がった。その時、社長と一緒に暴れていた工藤光雄氏という、社長の知人で、金ぶちメガネでヤクザ風の中年男性が、「俺は絶対に許さないからな!」と捨て台詞を吐いていた。

 その後、工藤氏は毎日、皆倉氏の自宅を押しかけたり、尾行をし始めたという。さらに、皆倉氏の母親が突然亡くなり、葬式を執り行った。その席に、工藤氏が部下を引き連れてやってきて、会社を辞めるよう迫り、拒否すると、いきなり式場で暴れ始めた。その一部始終は録画され、この映像を根拠に、工藤氏らは暴行、傷害の罪で神奈川県警に逮捕、起訴された。

 その後、皆倉氏は労組とともに、親会社である住友大阪セメントでストライキなどの運動をしたが、突然、小腸に穴があき、難病のクローン病も併発して、集中治療室に入り、意識不明のまま3週間が経過した。担当医は「9割方、助からない」と父親や土屋氏に語っていたという。そこから、命を取り留め、げっそりやせて、腸にチューブを入れた痛々しい姿で、皆倉氏は、しみじみとこう語った。「フツーの仕事がしたいですね」

 皆倉氏が病に倒れたのは、会社との闘いの心労によるものに違いない。組合員たちはそう確信した。こうして仲間たちの怒りは沸点に達し、大阪セメント本社前で抗議をして、土屋氏が撮影した工藤氏の暴行シーンなどの“生々しい映像”を大スクリーン、大音量で社員が観えるように流し、改善を訴えた。

 それから約半年後、親会社の大阪セメントは皆倉氏に謝罪し、下請けのフコックスと話し合い、東都運輸とは決別し、新たにクアトロ物流という会社を設立して、そこに東都運輸の社員たちを引き取った。その後、東都運輸は事実上の倒産。こうして07年4月、皆倉氏は無事退院して、新会社に就職して現在に至る。

 映画の概要は以上だった。その後、土屋トカチ監督のトークが始まった。監督は語る。「彼(皆倉氏)は今も会社を続けており、労組でも活動しています。セメント輸送のトラックは日本に5千台くらいしかないので、そんなに運転手はいません。この業界のなかでは、彼は“生きながらにして伝説のような男”になっています。そのため、彼に相談して労組をつくろうとする人も多い」

 また、「過労死などで殺されそうになってしまう人が絶えないのは、『NO』と言えない環境の職場がたくさんあるからだと思うんです。日本では、世界と比較しても、かなり労働組合を作りやすい法律があります。職場に2人いれば誰でも労組を作れますし、1人でも他の組合とつながればつくれます。それなのにあまり使われていないし、知られていない。これほど使いやすい権利を使わない手はない」と語った。

 そして、「この映画を観ている人の周りにも、ブラック企業で働く人は多いと思います。ではどうすればいいか。まず、誰かに相談するのが大事。命を守るために闘うことは恥ずかしくないということを覚えてほしい。今の子どもたちは、『喧嘩をするな』とか『いい子にしてなさい」という教育を受けているので、『労働組合で闘う』と聞くとゾッとするそうなんですよ。『なんで闘うんですか?』『争いごとはいけないんじゃないんですか?」と(会場から苦笑が漏れた)いや、本当にそう思っている人が多いんです。でも、自分の命を守るためには、時には闘わなければいけないんだよ、ということを知ってほしい」と土屋トカチ監督は訴えた。(佐々木奎一)

 

 


 
 2012年8月19日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「過酷な労働現場と闘いの現実を探る映画上映会に潜入!」
 
を企画、取材、執筆しました。
 

 
 
写真は土屋トカチ監督。


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1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
嫌がらせやめろ (関西汽船南港乗船券販売所・関汽交通社 )
2012-09-08 20:07:36
関西汽船南港乗船券販売所・関汽交通社

連合・サービス連合傘下の労働組合

関汽交通社社員さんへ

いじめ行為、嫌がらせ行為やめてください。

プライバシー等の人格権侵害行為もやめてください。

裁判所は、結論として、申立人らに対する面談強要の禁止、
申立人らの自宅前の道路の立入禁止、申立人らの監視の
禁止、申立人らのつきまといの禁止を命じた。

 その理由についてであるが、被申立人らの追尾行為、
それらが申立人らの生活の平穏、プライバシー等の
人格権侵害に該当することが明白であると述べ、
したがって、申立人らは、面談禁止、監視、付きまとい等
の禁止を求めることができるとした。

安心して、働きたいが労働者の要求です。

全国で有名になるまでがんばるぞ!

関西汽船南港乗船券販売所・関汽交通社
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