ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

※ブログ下記移転しました(2015年7月以降)
http://ssk-journal.com/

『ベルばら』『のだめ』…漫画に見る恋愛観の変容を語る講演会に潜入!

2012年12月18日 | Weblog


 今や世界に冠たる日本の文化であるマンガ――。そのマンガについて、「少女マンガを読み解く ロマンティックラブからボーイズラブまで」と題し、恋愛観やジェンダー、セクシュアリティについて学ぶコンセプトの連続講座の第1回目が10月10日、東京都豊島区内の勤労福祉会館であった。講師は武蔵大学社会学部教授の千田有紀氏。千田氏の専門はジェンダー、セクシャリティ、家族、現代社会学など。主催は豊島区。千田氏は一体何を語るのか。現地へ向かった。

 会場は約30人が参加。そのうち9割が30代後半以降の女性だった。

 講座の冒頭、「中学時代からマンガ漬けになって、ありとあらゆる少女マンガを読んできた」という千田氏は、講座のねらいをこう語る。「1970年代からはじまった少女向けマンガメディアにみられるロマンティックラブイデオロギーの変化について論じ、ロマンティックラブイデオロギーは何をもたらしてきたのか。少女たちは何をそこに読んだのか、考えていきたい」

 ちなみにロマンティックラブイデオロギーとは、「恋愛などでボーイフレンドができて、『ああ、この人は私の運命の相手』と思った人と、結婚して、子どもができる。一生に一度の人と出会って、愛があって結婚して、それから性交渉をすること」(千田氏)という。

 全4回の講座の概要は、1回目が1970年代の古典的少女マンガ。2回目が1970年代から85年にかけての「少年愛」。3回目が80年代末から90年代にかけてのやおい(女性読者向けの、ホモセクシャルなマンガ・小説)、ボーイズラブ。4回目が2000年代のボーイズラブ。

 第1回目の今回、千田氏は古典的少女マンガ『ベルサイユのばら』(池田理代子/1972-73)について論じた。このマンガの主人公はオスカルという女性。オスカルはジョルジュ家という貴族の家に生まれたが、この家では女の子ばかりしか生まれなかった。末っ子のオスカルが生まれたとき、父親は、また女か、と嫌になって、オスカルを男の子として育てた。周りはオスカルのことを女だと知っているが、男として育った。その後、オスカルは

軍人になり、幼馴染のアンドレという平民の男と恋に落ちて、フランス革命で民衆の味方をして死んでいく、という物語である。

 「当時、少女たちにとってオスカルは新しい価値観でした。平民のアンドレを選ぶ生き方に、恋愛は素晴らしい、という価値観が生まれたのです」

 このマンガの名シーンの一つに、オスカルによる愛の告白がある。そのセリフは「だれかにすがりたい、ささえられたいと…そんな心のあまえをいつもじぶんにゆるしている人間だ。それでも愛しているか!? 愛してくれているか!? 生涯かけてわたしひとりか!? わたしだけを一生涯愛しぬくとちかうか!?」というものである。

 そしてバスチーユに出陣して命を落とす前の夜、2人はとうとう肉体的に結ばれる。「子供向けのマンガでのセックスシーンに、日本中の女の子たちが熱狂しました」(千田氏)という名シーンだ。そのときのオスカルのセリフは「この夜…ひと晩をおまえ…と…、おまえと……いっしょに…。アンドレ・グランディエの妻…に…」であり、ことが終わったのアンドレの「愛している…よ…」というセリフへの返答は「アンドレ、アンドレ…。わたしの夫……」である。

 そして、オスカルが死ぬときには、「ど…うかわたしをアンドレとおなじ場所に。わたしたちはね…夫婦になったのだ…から…」と同じ場所に埋葬されることを願う。

 これらのシーンについて、千田氏は「愛しているからセックスする。それは結婚と引き換えで、一生に一度のこと」と説明する。

 このような70年代前半の少女マンガに見られたロマンティックラブイデオロギーは、いまでは変容して「恋愛の比重は低下した」(千田氏)という。例えば、ドラマ化されて色々な世代、男性にも読まれている「のだめカンタービレ」(二ノ宮知子/2001年-2010)は、ピアニストを目指すのだめちゃんの物語。そのなかでこんなシーンがある。それは指揮者を目指す千秋先輩が、のだめちゃんのことを可愛いと思ってキスをするシーン。千田氏はこう語る。「普通は少女マンガのキスシーンはクライマックスですが、のだめちゃんはすごく怒って先輩を張り飛ばしてしまうんです。理由は、のだめちゃんはピアノを続けるか悩んでいるときで、『いま、のだめはそれどころではないんですよ!』とすごい怒るという、すごいシーンです。のだめちゃんにとって、重要なのはピアニストとして自立していくことで、キスどころではない。この恋愛の低下にすごく衝撃を受けました」。

 また、美大を舞台にしたマンガ「ハチミツとクローバー」(羽海野チカ/2000年-2006年)も、「恋愛の比重よりも、自分の才能を伸ばし、自分が自分であるための仕事を優先させる、という物語の構造で、少女漫画の定番はすごく変わっちゃったんだな、と思いました」と千田氏はしみじみと述べた。

 第1回目の講座の概要は以上だった。上記千田氏の話によれば、昔は純愛でセックス=結婚という価値観が主流で、少女たちの願望は結婚だったということになる。そして今は、少女たちの夢は自己実現がメインで、恋愛、結婚は第一義ではないということになる。

 この少女マンガの変化をみる限り、日本は現在、女性の社会進出がまだまだ低い、といわれているが、実は地殻変動が起きていて、今後はどんどん女性が進出していくかもしれない。(佐々木奎一)

 

 2012年11月11日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号

「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「『ベルばら』『のだめ』…漫画に見る恋愛観の変容を語る講演会に潜入!」
 
を企画、取材、執筆しました。
 
 
 
写真は、『ベルサイユのばら』のクライマックスシーンの一つ。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。