イアン ブレマー(アメリカ 政治学者)
ユバル ノア ハラリ(イスラエル 歴史学者)
ジャック アタリ(フランス 経済学者)
NHKのEテレビの特集「パンデミックが変える世界」から3人の学者の主張を
紹介する。
イアン ブレマー(アメリカ 政治学者);
2020年のコロナウイルスによる感染拡大は歴史的転換点になる。2008年のリーマンショック時は、
アメリカを指導者として、世界中がG20などにより、一丸となって金融市場のリスク回避に取組んだ。
いま経済大国のアメリカと二位の中国は分断している。アメリカはリーダーシップを放棄して自国第一
主義になっている。製造業のサプライチェーン、サービス産業やテクノロジー等のグローバリゼーション
が分裂し世界経済は大きなリスクに直面している。そのアメリカはそもそも格差社会で今後も格差が
どんどん広がる。コロナウイルスの感染拡大への取組には、経済的に余裕のあるアメリカや欧州や日本は
なんとかやっていけるが、インドなどでは街中の社会的距離などをとる余裕もなく、コロナウイルスの
感染が拡大し、ロックダウンがはじまり、重大局面を迎える。この新たなコロナウイルスという重大な
地球の規模の脅威に対して、世界はこのままでは指導者がいないまま破滅に向けて漂流し始める。
個人的には、アパートに一人でいることはコロナウイルス感染防止には有効だが、例えば犬を飼って
世話をすることで人間性を失ってはいけない。
地球はこの歴史的危機の解決に人間性のある指導者を求めている。
ユバル ノア ハラリ(イスラエル 歴史学者);
今回のパンデミックは民主主義への挑戦で、今後2~3か月で世界を根本的に変える壮大な社会的・
政治的実験をおこなうことになる。このような緊急事態には政府はこれまでにないほどの権力を手に
入れることができる。全体主義的な体制が台頭する危険がある。ハンガリーのオルバン首相はこの機に
独裁的な権限を手に入れた。民主主義は平時には崩壊しない。崩壊するのは決まって緊急事態の時だ。
またイスラエルではネタニヤフ首相が国会を閉会しようとしたが失敗したが、このような動きは、
「ウイルスの流行と闘う」という口実を使った政治的クーデターだ。大きな権力を手に入れた政府には
市民の監視が必要だ。独裁国家にあっては監視が一方通行であり政府が市民を監視して政府の決定は
市民から隠す。民主主義に大切なのは政府が間違いを犯したときに市民がそれを正すこと。
そして政府が間違いを正そうとしない時には政府を抑制する力を持つ別の権力が存在することだ。
そのためにも民主主義国家では、政府の監視だけでなく、市民の監視が不可欠だ。
それと今回のような緊急事態では、科学と研究機関への信頼が重要だ。幸いにもほとんどの国の人々、
政治家さえ科学が最も信頼できるよりどころだと感じている。このような緊急事態では人々は、
信ずべき情報を慎重に吟味し科学に基づいた情報を信頼しその情報に従って行動すべきである。
次に重要なのは、この瞬間に極めて重要な政治決定が行われており、その決定に参加し、政治家たち
の行動を監視することがとても重要だ。
今回のパンデミックが人類にもたらす結果がどのようになるかは私たち次第だ。もし自国優先の
孤立主義や独裁者を選び科学を信じず、陰謀論を信じるようになれば、その結果は歴史的な大惨事となり、
多数の人がなくなり経済は危機に瀕し政治は大混乱になる。一方でグローバルな連帯や民主的で責任ある
態度を選び科学を信じる道を選択すれば、たとえ死者や苦しむ人が出たとしても、あとになって振り返れば
人類にとって悪くない時期だったと思えるはずだ。人類はウイルスだけでなく自分たちの内面に潜む悪魔を
打ち破ったのだ。憎悪や幻想を克服した時期として、真実を信頼した時期として、以前よりずっと強く
団結した種(しゅ)になれた時期として位置づけられるはずである。
ジャック アタリ(フランス 経済学者)
アタリは、2009年には市場のグローバル化や自由な経済により今後10年で破滅的なパンデミックが発生する
可能性があると予告していた。今回発生したコロナウイルスをコントロールできなければ、市場と民主主義
という2つのメカニズムが崩壊してしまう。経済への影響は、1929年の大恐慌や2008年の金融危機より大きく、
世界経済の損失はGDP20%に及ぶだろう。1918年にヨーロッパで起こったスペイン風邪では第一波のあとの
第二波でより多くの犠牲者がでた。今回のコロナ後の最悪のシナリオは、世界的な恐慌、失業、インフレ、
ポピュリスト政府の誕生、そして長期不況による暗黒時代の到来である。さらに新しいテクノロジーをつかって
国民の管理を強める独裁主義が増加する。例えばハンガリーではパンデミックを口実に独裁主義が実現した。
緊急事態が民主主義に与えるインパクトは、「安全」か「自由」を選択する場合、「安全」を選んでしまう。
このためには強い政府が必要だが、この場合でも強い政府と民主主義とは両立するものだ。そのいい例が
第二次大戦時のイギリスだ。
今回のパンデミックの中で、差別や分断が以前より目立っており、利己主義による経済的な孤立主義が
高まっている。この孤立主義に陥らないためには、バランスの取れた連携が必要であり、人間の本質に
立ち返り「他人のために生きる」という「利他主義」への転換が必要だ。「協力は競争よりも価値があり
人類は一つである」ことを理解すべきである。このパンデミックへの対応としての「利他主義」とは、
自らが感染の脅威にさらされないためには、他人の感染を確実にふさぐこと(利他)が必要であり、
このように利他的であることは、ひいては自分の利益となる「合理的利己主義」のことである。例えば
日本の場合、世界の国々が栄えていれば市場が拡大し長期的にみれば日本の国益(貿易黒字)につながる。
他者の利益のために全てを犠牲にすることではなく他者を守ることこそが我が身を守ることであり
「利他主義」は最も合理的で自己中心的な行動である。
人類は今回のパンデミックはおそらく克服できるが、今後も繰り返し発生するパンデミックに対応する
には、人類の生命への脅威をなくすため、今後の経済活動を、生きていくために必要な「食料、医療、
教育、文化、情報、研究、イノベーション、デジタル」を含む「命の産業」に重点を置く、全く新しい
方向に設定しなおす必要がある。人類が今回のパンデミックが終了してもまた再び元の生活の戻らないこと
を願っている。以上3人のインタビューを通じて、通底していたのは、今、人類は未来を左右する重要な選択
を迫られているということだと確信した(司会者NHKワールドTVキャスター道傳愛子)。
3人の考えをまとめると、
このパンデミックの解決に、合理的な利己主義である「利他主義」に基づき、グローバルな連帯や民主的で
責任ある態度を選び科学を信じる道を選択すれば、たとえ死者や苦しむ人が出たとしても、あとになって振り
返れば人類にとって悪くない時期だったと思えるはずだ。人類はウイルスだけでなく自分たちの内面に潜む
悪魔を打ち破ったのだ。憎悪や幻想を克服した時期として、真実を信頼した時期として、以前よりずっと強く
団結した種(しゅ)になれた時期として位置づけられるはずである。