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風の影 by カルロス・ルイス・サフォン

2006-08-25 17:59:29 | SpyなBook
今年の夏の旅の友に選んだのは「風の影」という小説。
スペインのバルセロナ生まれの作家、カルロス・ルイス・サフォンの作品。

上下巻におよぶ大作だが、一気に読んでしまった。それほど面白い、引き込まれる作品。久しぶりに夢中になって読み、また読後の余韻に長く浸ることのできた小説。最近のベストセラー大作ではダビンチコードがあるが、個人的にはこちらの方が上をいく作品であったというのが正直な感想。

この小説との出会いは、確か7月初めの頃。通勤電車に揺られて座っていたとき、ふと目を上げると、目の前の人が熱心に読んでいたのが、この「風の影」のパイロット版(見本版。出版社の人だったのだろうか?)。
気になってAmazonで調べると、数週間後に発売される小説とのこと。早速予約購入し、この夏のバケーションの一冊に大事にとっておいたもの。

読み始めたらまたたくまにこの本の世界に引き込まれ、上下巻をあっという間に読みきってしまった。良作の例に漏れず、最後の数ページは読み終わるのが大変惜しく、ページをめくる指が骨董品にでも触れるかのように、ゆっくりと丁寧になってしまう、そんな作品だった。

この本の舞台は1945年のバルセロナからはじまる。無数の書物が眠る「忘れられた本の墓場」で10歳の少年ダニエルは、偶然一冊の本を手にする。この本との出会いによって、ダニエルは知らず知らずのうちにその本の謎の作家フリアン・カラックスをめぐる暗い過去の世界へと引きずり込まれていくことになる、というストーリー。

この本のジャンルは何か、と問われると答えるのが難しい。
ゴシック調の香り漂うような、19世紀文学のような、独特の世界で展開するミステリーが主体ではある。しかし、この小説が単にミステリーに終っていないのは、主人公ダニエルが少年から大人になっていく過程の10年間に複雑に絡み合いながら描かれる様々な人々の複雑な人生や傷や悲しみがあるから。この作品の素晴らしさは多彩な登場人物と彼らの一人一人の心を丁寧に描き出しているところであり、その意味でこの作品はミステリーと言うジャンルだけに押し込めてしまうにはあまりに惜しい。上巻ではさまざまな人物が登場し混迷を増す展開の中で、複雑で不穏な色に染め上がっていた一本一本の糸が、下巻では一気に、お互いがしっかりと重なり合い素晴らしい文様を描く一つの織物に仕上がっていく展開は圧巻。

「風の影」はスペインの現代小説では史上空前の超ロングベストセラーとなり、すでに37カ国で翻訳出版され500万部を突破、フランスでは2005年、最優秀外国文学賞を受賞したという。そして特筆すべきは、この小説が、広告や宣伝などでの特別なマーケティングなしに、ひたすら読者の口コミによって読まれていったものだということ。

バルセロナに行ったことがある人にとっては、いろんなシーンがより鮮明にイメージできるかもしれない、お勧めの作品。もちろん自分を含めてバルセロナにはまだ行ったことがない人でも、読んでいるうちにその空気の温度が伝わってきそうな作品。

そして、男性諸兄にとっては、初めて恋をした時のあの純粋な?少年の頃の思い出がよみがえるような作品でもある。その意味でもお勧めかも。

とにかく読むべし。

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