読書の記録

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新世界より (上)(中)

2012年12月21日 | 小説・文芸

新世界より (上)(中)  ネタばれなし

貴志祐介

 複数巻もの小説は「船に乗れ!」以来だ。
 むかしは司馬遼太郎の歴史小説とか、村上春樹や山崎豊子とかの大作を読んできたものだが、年のせいか億劫になりつつある。もっとも、面白ければけっこう没頭してしまうのだから始末に悪い。

 年末にむけて仕事がかなり激しくなってきて、なんだか一日中仕事しかしてないような状況が続いた。
 こういうときは小説でも並行して読みながら激流を過ごす、という自分流のココロの安定術で久しぶりに複数巻もの(持ち運べるように文庫化されているもの)で、あまりアタマを使わなくてもよく、しかし飽きずにぐいぐいひっぱるだけのものということで、日本SF大賞受賞の本作を手にとったのだった。

 現在の自分のステイタスでいうと、上巻、中巻を読み終わって、下巻にかかったところである。
 あと、検索してみたらちょうどいまこれのTVアニメをやっているようで、どうやらコミックもあるらしいが、こちらは一切見たことがない。いまどの段階を放映されているのかも全く知らない。現状、本作品に関する自分の情報はこれだけである、ということで、最後まで読んだら、ネタばれありで感想を書こうと思うが、とりあえず上・中巻の段階で、ネタばれなし、正確に表現すると本の表紙や裏表紙にあるあらすじや目次だてくらいの情報レベルで思うことを書いてみる。

 

 1000年後の日本、というのが舞台である。

 

 超未来の話となると「風の谷のナウシカ」である。

 ナウシカでは2800年に「火の七日間戦争」という最終戦争が起きて人類文明は衰退し、腐海の脅威におびえる39世紀頃の人間たちが描かれる。さらに「原作」ナウシカでは、映画版のエピソードは序の口で、「本当の人類は・・・」というおそるべき事実が語られ、読んでウツになってしまう衝撃の結末が待つ(詳細は伏せますが)。

 それから「リアル鬼ごっこ」も1000年後である。リアル鬼ごっこは、王様が「佐藤」の姓を持つものを処刑する、というストーリーである。また、「猿の惑星」では文字通り、地球は猿が支配し、人間は家畜になっている。手塚治虫の最高傑作「火の鳥未来編」では、世界同時核戦争がおこって人類が滅びるのが3404年である。

 というわけでどうも1000年後の人類はなかなか希望がないようである。

 

 現在の地球の人口は70億である。僕が小学生の頃は45億人というのがスタンダードな回答だったから、凄まじい勢いで増えたことになる。シミュレーションでは、2030年には80億人、2100年は105億人と言われていて、これはどう考えてもヤバい。水不足、食料不足、エネルギー不足。どころかまず土地不足である。「ヨコハマ買い出し紀行」のようにゆっくり衰退していくならばともかく、「北斗の拳」のような一触即発な世界になってしまってはとんでもなく絶望的な未来である。

 というわけで、地球の人口制限は必至になるだろうと実は思っている。
 問題はそれがどういう手段でなされるか、である。なんとなく落ち着くのがもちろん一番いいに違いないのだが、現在の増加曲線からみるとそれは難しそうだ。なんらかの自然の力が働くのか、あるいは人間の力による抑制か、それとも神の見えざる手か。かつての人類史でペストやスペイン風邪が世界の人口を激減させたようにウィルスによるフィードバックだってありえる。とにかく何かが人口増加を抑えつけることは間違いないのだが、それがいったい何でなされるのかを想像するのはなかなかホラーである。

 日本そのものは現在すでに人口減少に転じていて、このままいくと3000年の日本の人口は30人足らずまで下がるそうだから、当然他の国、溢れかえるであろうアジアやアフリカ、南米の人々が日本列島に住みつくことになるであろう。そうなってくると、とうぜん今の政府や行政区なんて変容するに決まっているわけで、だいたい日本語さえ存在するのかどうかあやしい。
 「風の谷のナウシカ」なんて海外が舞台に一見みえるが、実はかつて日本だったところが舞台だったとしてもおかしくないのである。


 かように1000年後の世界、というのは今の常識や基準からは大きく逸脱していることは間違いなく、唯一変わらないのは宗教と物理法則だけかもしれない。

 

 この「新世界から」はそういう意味では、これでもかなり保守的(?)な1000年後で、ニッポンのキモチやカタチがだいぶ温存されているほうである。ただし、そのかわり宗教はより強力に、そして物理法則は変えられてしまった。
 だけど、AKIRAとか甲殻機動隊とか、はたまたエヴァンゲリオンとか思うと、この宗教の強化と物理法則の改変こそ、1000年後の未来まで思いをはせるときの東西かかわらず人類の見果てぬ「夢」なんだろうと思う。
 それが「悪夢」であろうとも、エデンの園このかた「神」に近付きたい人間の抗いがたい本能なのかもしれない。

 ・・というわけでネタばれ感想は次回。

 


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