読書の記録

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船に乗れ! Ⅰ・Ⅱ

2010年02月09日 | クラシック音楽
船に乗れ! Ⅰ・Ⅱ

藤谷治

 とりあえず、全3巻のうち、上巻中巻にあたるⅠ・Ⅱを読んだので、いったんここで何か書いてみることにする。ネタばれなしである。

 ちなみに、本書のことは全く知らなかった。刊行は2008年で、実はけっこう話題になったのが2009年ということだが、めぐりあわせの悪い僕は今までまったく知らず、たまたま近所の本屋の平積みで知ったにすぎない。
 僕はクラシック音楽は好きだし、「のだめ」も十分に楽しんだタチなので、チャレンジする価値はあるに違いない。とはいえ、本書のことも、作者のことも知らなかった。しかも、ハードカバーで全3巻。5000円以上の出費である。僕は買おうか買うまいか、ずいぶん悩んだ。

 だいたい、僕はいわゆる「青春小説」というもの、決して明るくない。あまり読んでないといってよい。椎名誠の「哀愁の街に霧が降るのだ」、氷室冴子の「海がきこえる」、清水義範「学問のススメ」、、長嶋有「僕は落ちつきがない」それくらいだろうか。そういえば庄司薫の「赤ずきんちゃん気をつけて」や三田誠広の「僕って何?」といった名作の誉れ高いものをまさに高校生のときに読んでみたが、当時でもさすがに隔世の感があった。
そのくせ読み始めると、ハズカシイような気分で案外にも没入して、自分の青春時代(!)と比較してブルーになってしまうのである。
 というわけで、青春小説というものは食指がためらう。しかも決して興味がないわけではないのだから始末に負えない。
 ただ、こと「クラシック音楽もの青春小説」となるとやはり心動かされる。僕は指揮者の故・岩城宏之の芸大時代の回顧録「森のうた」にとにもかくにも夢中になり、これが大学受験勉強を進める上での最たるモチベーション原動力になった。

 書店で、本書をぱらぱらと立ち読みし、いまひとつしっくりこないものの、舞台は80年代、どうやら主人公が高校生でチェロを専攻していて音大付属の高校に入ったらしい、ヒロインはヴァイオリンを弾いている・・くらいまで把握し、ちょうど他に読みたい本もなかったので、ひとまずI巻1600円也を買ったのだった。

 で、読み始めたら慙愧に堪えないことに、なんだか夢中で読み進めてしまい、もちろんⅡ・Ⅲ巻もすぐに買い、そしていまⅡ巻が終わったところである。


 僕自身は、音楽専門ではなくて普通の高校に通っていたが、音楽部―弦楽部に出入りしていた。なぜか僕の高校はオーケストラというものがなく、弦楽部と吹奏楽部が歴然とわかれていたのである。とはいえ、僕の楽器はヴァイオリンでもチェロでもなく、ピアノだったので毎回は出番がなく、たまに借り出されるくらいだった。だから、正式な部員というわけでもない。
 それでも合奏というものが経験できたのはなかなか貴重で、あれは独奏とは神経の使い方がだいぶ違う。違う筋肉を使うといってもよい。独奏ではうまくいっても合奏ではめちゃめちゃになるということはかなり頻繁にあって、そこらへん本書でも扱われているが、だからそのぶん、合奏がうまくいったときのカタルシスは独特のものがある。
 転じて、多感な高校生であるから、この合奏体験がなんとなく気持ちの高揚を招き、いわゆる「文化祭カップル」と同じ効果を発揮して、誰と誰がどうのこうのという話は片思いも両方も含めて、実に多く繰り広げられたのであった。
 で、まったく遺憾なことに、この僕にはそういう事態がひとつもなかった。僕が出入りした弦楽部は女子生徒15人に対し、男子生徒が僕含めて4人という状況であったにもかかわらず、すべては僕の目の前でおこった他人同士の話であり、むしろその疎外感にざらついた思い出がある。どうもそこらへんがトラウマというか妙なコンプレックスになって、僕にして三十代後半のおっさんとなった今なお青春小説をつい遠ざけているようにも思う。

 それはともかく、Ⅰ・Ⅱ巻と読んで、なぜ自分はこのような高校生活を送れなかったのだろう、などという悔い(?)はひとまずおいといて、なんとなく思い至るのは「きっとあのときたくさんいた弦楽部の女子生徒の皆々は、後輩だった人も含めてずーっとオトナだったんだろうなあ」ということだ。それにくらべて当時の自分は彼女たちから見てすごくバカに見えてたんだろうなあなんて、遠い目をしてしまうのである。
 実際、僕はこの小説に出てくるヒロイン南枝里子の造型や性格に、当時その弦楽部にいたある後輩の女子生徒がついだぶってしまい、本書を読んでいるあいだ、南のビジュアルイメージはその彼女だった。本書を読むまで、すっかり忘却していたのに、である。(ちなみに南の親友である鮎川千佳は、なぜか会社の同僚に被った)。

 携帯もインターネットもなかった時代の話だから、今の高校生が果たしてこんななのかどうかはよくわからない。主人公のようにニーチェを読んで背伸びに浸る男子高校生なんて、僕のころには確かに存在したけれども、果たして今いるのかしら?

というわけで、まじめな感想は次のⅢ巻のところで書こうと思います。

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