読書の記録

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アースダイバー

2012年05月15日 | 東京論

アースダイバー

中沢新一

 

東京の地形がなんとなくブームということで、書店でも本書が改めて平積みされる例が多いようだ。縄文時代の海岸線の位置が本当にこの通りだったのかどうかは否定的意見も実は出ているらしいが、ただ東京の現在の地形をみる限りでも、あきらかに武蔵野台地の切れ目から下町にかけての境界部分に複雑な山あり谷ありの地形があり、このあたりまで海岸線が来ていたのだろうと実際に想像できる部分も多い。

本書は科学的アカデミズムの方法論で考古学をしているものではなく、あくまでファンタジー、あるいは古代の地勢を由来に精神土壌をさぐってみた東京論である――という前提で読めば、とてもとても面白い(科学的検証を立場とした貝塚爽平の「東京の自然史」という古典的名著があり、半世紀近く前の本であるにもかかわらず、いまだにゼネコンや不動産会社が東京という地形・地勢をしらべるときに参照するという)。

著者の想像力が、B級なスピリチュアル本や、オカルト本と一線を画すのは、しっかり足で稼ぎ、古来の伝説・神話を検討していることもあるが、やはり、かつての海岸線の位置に古代の東京人の精神土壌は由来する、という大胆な仮説の切れ味の良さ(現在の古墳遺跡や貝塚の後や寺社がそこにぴたりとあてはまるという傍証)と、巻末におさめられた地図であろう。正直いって僕はこの地図だけでも本書の価格のモトはとれるのではないかと思う。

 

もし、本書に僕がぜひとても付け加えてほしかった視点があるとすれば、東京湾に注ぐいくつもの河川をめぐる攻防と思い、である。高田馬場付近の谷の深さをみるに、古代の神田川はかなりの暴れ川だったに違いないし、現在は城東地区のゼロメートル地帯に流れる中川、そしてその名も荒川、もっというとかつては利根川だったわけで水系が全然違う。

また、今でも、東京都心には首都高の下などで静脈のように水路が張り目ぐされていており、なんとはなしに見下ろしていると、がらくたを積んだ船が静かに往来していたりする。今では黒く淀み、暗渠化した部分も多い東京の水の流れも、古来の東京人のココロに多く作用したに違いないと思うのである。

 

 

 


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