読書の記録

評論・小説・ビジネス書・教養・コミックなどなんでも。書評、感想、分析、ただの思い出話など。ネタバレありもネタバレなしも。

若い翼・赤い霧・陳という男・都すでに遠く

2008年07月19日 | 小説・文芸
若い翼・赤い霧・陳という男・都すでに遠く----広岡達三----小説

 べとつくようなけだるい空気に満たされ、これといって活気も特色も面白みもない昭和30年代の町。思春期の男子中学生と、大人の世界に背伸びする女学生。やさぐれてしまった若者と、ひとひらの幸せを探す水商売の女性。中国人の床屋の亭主と、その妻。町に流れ着いた元活動家の男。この澱みから這い出る者、濁りの中の安楽に身を溶かしていく者。互いに名も知らぬ彼らが、偶然か、はたまた見えざる運命の糸で束の間交錯し、そして、彼らさえ気づかないうちに、その後のそれぞれの運命を、

実は、ちっとも変えないじゃん。

 まあ、検索の世の中なので、ググってしまえばすぐに正体もわかってしまうけれど、正確にいうと、書籍のタイトルは「ホン!」で、著者はいしいひさいちである。「広岡達三」とは、いしいひさいちの作品のあちこちに出てくる純文学作家の名前であり、広岡達朗のパロディだ。
 が、「ホン!」の中に、本当に「広岡達三」の手による短編小説が4作掲載されている。
 それが、表題の4作で、連作形式をとってある。広岡達三曰く「作中人物たちの地と図を変換しつつ4編の連作」とのこと。これがいかにも「鎌倉に住む、売れていない、でもプライドは高い老齢の純文学作家が書きそうな」小説。

 いまや4コマの神さま的大御所までなった、いしいひさいちは、どこまでも作品を通じてギャグを伝えてきた人であり、そのギャグには多かれ少なかれ不条理やナンセンスがこめられている。
 だから、この小説もメタレベルで不条理なギャグをかましているのである。超多忙なスケジュールだと思うのだが、よくも周到にここまでやるものだと心底関心。

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