白樺小舎便り(しらかばごやだより)

北信濃の田舎暮らしの日々

母さん、僕のあの帽子

2018年05月05日 20時35分18秒 | 登山

 

 

 

少し心も体も疲れていた。

そんな時、いつでも山に登った。

そうすることで回復し立ち直って来た。

 

当面の目標である信州百名山の旅も終盤を迎えた。

81座目に選んだのは上州との国境にある鼻曲山。

幾つかの登山路があるが、温泉の魅力に勝るものはない。

霧積温泉からのコースに決定。

森村誠一の『人間の証明』で有名になったが、もとは西條八十の『帽子』。

その帽子が飛ばされたのが霧積の深い峪。

文学愛好家にはぜひ訪ねて欲しい場所だ。

霧積温泉郷であった頃は、四十数件の集落があったそうだが、現在は金湯館という山の中の鄙びた温泉宿が一軒あるだけだ。

温泉はあとの楽しみとして、金湯館まで300メートルという看板を横目で見ながら鼻曲山へのルートを進む。

 

新緑が何とも言えずうれしい。

今年で80歳になる義姉も花を見つけては歓声を上げる。

出来るだけ山に連れて行ってあげようと思っている。

毎朝1時間近く歩いているので、体力は心配していない。

むしろかみさんの方が心配だ。

変形性膝関節症と診断されている。

まさに鼻の形の山頂が見え、右のほうには秀麗な浅間隠山。

足元にはエンレイソウ。

心地よい風が吹きすぎる。

この森の中で僕は再生する。

 

山頂に立ち、あれが浅間、これが八ヶ岳、あれは白根山?としばし遠い山並みを楽しむ。

はるか遠くに、上信、上越国境の雪を頂いた山々がうららかな光の中で輝いていた。

 

川にかけられた赤い橋を渡ると風情のある温泉宿、金湯館があった。

少しぬるめの温泉にゆったりと浸かりながら、

『母さん、僕のあの帽子どうしたのでしょうね?』

とことさらゆっくりとつぶやいてみる。

そして、なくなってもう8年が過ぎる母親のことをしみじみと思う。


『一母さん、ほんとにあの帽子どうなったでしょう?』

 

長いこと空家になっていて、どうしたものかと頭を悩ませていた実家の解体が終わって父母のお墓に報告に行った。

片付いてほっとした気持ちとともに、果てしない寂寥感が全身に広がった。

母さん、あの家は取り壊しました。

更地になり、時期に人手に渡ります。

 

様々な思いの中で信州百名山81座目、鼻曲山は終わった。

さて、次はどこへ行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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