ゆらゆら荘にて

このごろ読んだ面白い本

かってにBest10 ①

2017-12-29 | 読書日記
2017年に読んだ本の中から
勝手に
Best10を選びました。
(順位はありません)

1冊目は「万次郎茶屋」(中島たい子 2017年4月刊)



何度見てもいいこの表紙。
(表紙絵はイラストレーターの福田利之)
表紙の右上ではイノシシがコーヒーいれている。
イノシシ?
「万次郎茶屋」という時代がかったタイトルといい
ついつい引き寄せられる。

読めば
このタイトルを決めたのも万次郎だという。

万次郎は動物園に住んでいるイノシシだ。
でもキリンやライオンと違ってさっぱり人気がない
ので暇だ。
(動物園に暇でない動物がいるかどうかは疑問だけど)

ただ一人エリという女の子だけがたびたび訪ねてくれる。
エリは小学校低学年のときに
クリボウだった万次郎の絵を描いて賞を貰ってから
画家(イラストレーター?)を志すようになった。
万次郎は思う
「大いなる勘違いだ」

ボーイフレンドができると
万次郎の柵の前に連れて来て
「可愛いでしょう?」と聞き
賛成してくれない相手とはすぐに別れる
ということを繰り返していた。
万次郎は思う
「大いなる勘違いだ」

エリは売れっ子になってお金が貯まったら
万次郎を買い取って
万次郎がいるカフェを開きたいと思っている。
万次郎は思う
「カフェに憧れているって、どうして分かったんだろう」

やがてエリは万次郎のアドバイスのもとに小説を書いて
(エリと万次郎は意思の疎通が出来るようになっていた
イエスはブヒッブヒッ ノーはキーッ)
小説はベストセラーになった。
・・・

プロデュース能力のあるイノシシの万次郎と
万次郎を好きなエリ
人からは理解されない世界に住むふたりの
あたたかい物語です。
でも、甘さは控え目
甘いものが苦手な方にも読んでいただけます。


2冊目はかわきものから
「平安京はいらなかった」(桃崎有一郎 2016年12月刊)




千年の都(実際には1200年)・京都の人が聞いたらぎょっとするような題名
だけど
筆者は大真面目に語る。

そもそも平安京は住むためというよりは
「ちゃんとした国だ」ということを示すための外交上の舞台装置として造られたのだ。
舞台装置だから
幅82mのメインストリート(朱雀大路)
その両側の高さ4mの築地塀
外国の使節をもてなすための鴻臚館×2
があって
その装置の中を
使節はまっすぐに進んで一番奥にある大内裏に到達する。

でも
この仕掛けはすぐに不要になった
肝心の
唐使も新羅使も高麗使も来なかったからだ。

大き過ぎる舞台装置(平安京)は
端からぼろぼろと崩れていき
都らしい賑わいがあったのは東北部分の四分の一くらいのものだった。

人々は広すぎる大路を畑にしたりするようになった。
あの藤原道長などは
新しい寺の建設のためにあの羅生門の礎石を使ったしたくらいだ。

その後も平安京のリサイクルは進む。
それは天皇のすまいにも及ぶ。
広すぎる大内裏は持て余され
度々の火事からの再建はなされなくなり
天皇は貴族や皇族の屋敷を内裏にするようになる
間借りする天皇たち・・・

そうしているうちに
大内裏はすっかり野原になって
内野と呼ばれるようになり
武士たちの馬場にされ
ついには戦場(足利義満と山名氏の明徳の乱)にまでなった。
・・・・

今ある京都御所は
ある間借りが固定化した(土御門内裏)もので
もともとの大内裏とはまったく違う場所にある。
(びっくり)

筆者は思う
平安京は四分の一で十分だった。

平安京が四分の一サイズで造られていたら
歴史はどうなっていただろう・・・・

「 知らなかった」の分量の多さで一票。


3冊目は「リラとわたし ナポリの物語1」(フェッランテ 2017年7月刊)




濃厚な一冊だった
と思い出して
どうして濃厚だと思ったのだろう?
と考えてみたら
登場人物たちの「想い」のエネルギーが強いのだった
どのひとも。

タイトルに「1」とあるように
この作品はシリーズもので(2以降はまだ出版されていない)
この巻では
幼い子どもだった主人公たちは
ティーンエイジャーになり
まさに結婚式が挙げられようとする
ところまでが描かれている。
(これから壮年になり、老年になるところまでで全4巻)

物語はエレナの視点で語られる

貧しい人々の住む団地に暮らすエレナとリラ
リラは手のつけられないほどのいたずらっ子だったが
みんながようやくABCを学んでいるころ
もういくつもの単語を読み書きすることができた。
エレナはいつもリラの次、2番手だった。
だからエレナは思った。
「あの子について行こう」

ところが担任の先生のすすめに従って中学校に進学できたのは
エレナだけだった。
エレナの父親が市役所勤めでいくらか余裕があったのに対し
リラの父親は靴職人で
(靴の修理が仕事だった)
余裕がなかったからかもしれない。

進学しなかったリラは
兄とともに父親の靴工房を手伝うようになる。

でもリラは諦めなかった。
エレナと競うように独学を続けた。
エレナがラテン語を学べばラテン語を
ギリシャ語を学べばギリシャ語を。
リラの競争心は逆にエレナを助けた。
リラとともに学んだおかげで
エレナの成績はいつも上位だったのだ。
先生のすすめでエレナは高等学校にも進学する。

痩せっぽっちだったリラは
いつの間にか思春期の少女らしい丸みを帯び
美しくなって
団地じゅうの男の子から心を寄せられるようになった
ばかりでなく
身分違いの食料品店の息子からも
富裕な菓子店の息子からもプロポーズされる。

リラは夢を描いていた。
靴の修理屋でなく
新しい靴を作って売る「靴屋」になるのだ。
リラは学ぶことをやめて
靴のデザイン画を描くようになった。

リラの夢に浮かれていったのは兄の方だった。
・・・・

リラはもっと現実的だった。
今所属している集団から抜け出すのだ。

エレナもまた考えていた
今所属している集団から抜け出したい
と。
・・・・

目の前に立ちふさがる現実の「苦味」を
たっぷりと味わされる少女たち
(登場する少年も)
でも
進んでいく・・・・

「苦味」の描き方が絶妙です。





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