美しき旋律 麗しき雑音

忘れるための記憶/覚えておかないための記録

悲しいこと

2005-09-16 17:21:37 | 詩・散文・ショートストーリー
「悲しいことがあったの」
「何があったの?」
「とても悲しいこと」
「どんな悲しいこと?」
「言葉では表せないほど悲しいこと」
「失恋したの?」
「失恋はしてない」
「大事な人をなくしたの?」
「そんなことはない」
「仕事が上手くいかないの?」
「絶好調とまでは言えないけど、それほど悪くもない」
「友達と喧嘩でもした?」
「しない。それに友達はいない」
「それが悲しいの?」
「今までも、これからも"そう"だから悲しくはない」
「その悲しみはいつまで続くの?」
「永遠に続くかもしれないし、一瞬で終わるかもしれない」
「悲しさを抱いて生きていく気分はどう?」
「悲しみを抱いて生きていく気分。ただそれだけ」
「悲しみを持て余すことはない?」
「悲しみは悲しみであって悲しみでしかない」
「その悲しさを歌にしてみることは出来る?」
「悲しみは歌にはならない」
「君は悲しみを"売り"にしていない?」
「私は私の悲しみと共に生きている。売り渡したりしない」
「僕の悲しみと君の悲しみを交換しない?」
「それは私があなたになるってこと。それは出来ない」
「君は僕になりたくない?」
「私は私であってあなたではない。そうなることもない」
「何か悲しいことがあったの?」
「最初っから言ってるじゃないの」