三酔人の独り言

ルポライター・星徹のブログです。歴史認識と国内政治に関わる問題を中心に。他のテーマについても。

水島治郎教授講演「ポピュリズムの世紀なのか」

2018-04-24 08:41:59 | 政治論
 当ブログで新規記事を長い間アップしませんでした。誠に申し訳ありません。細々と再開します。

 当ブログ2017.4.17「水島治郎『ポピュリズムとは何か』から考える」の続編とも言える記事を、以下に掲載する。

 社会民主党の機関紙「社会新報」2018.3.21号に水島治郎千葉大学教授の講演記事が掲載された。私(星徹)が取材・執筆に協力したものだ。同紙編集部の許可を得て、以下に転載する。
*無断転載禁止

ポピュリズムなぜ広がる? 水島治郎 千葉大学教授が講演

■水島治郎
みずしま・じろう。1967年生まれ。千葉大学法政経学部教授。専攻は、オランダ政治史・ヨーロッパ政治史・比較政治。著書に『ポピュリズムとは何か』(中公新書/2017年度「石橋湛山賞」)など。

【本文】
 2月28日、東京都の千代田区立日比谷図書文化館で、水島治郎千葉大学教授の講演「ポピュリズムの世紀なのか~現代政治の変容を読み解く~」が行なわれ、約100人の参加者が熱心に聞き入った。同文化館が主催・共催する日比谷カレッジの一環。

 世界の特に先進諸国で、ポピュリズム(メモ参照)が広がりつつある。水島教授は、ポピュリズムにおける重要な視点を「『上』と『下』の対立項であり、自分たちは『下』の運動だという立ち位置だ」と指摘する。

民主的な排外主義?
 米国の政治は長い間、「左・右」の対立という構図で動いたが、前回の大統領選挙の過程(2016年)で、新たな「上・下」の対立構図も生じた。トランプ氏が「右下」、サンダース氏が「左下」だ。両氏は「下」という部分で共通しており、既成政党の主流派・エスタブリッシュメントを厳しく批判したという。

 昨年のフランス大統領選挙でも、同様の対立構図が生じ、ポピュリズム旋風が吹き荒れた。最終的にマクロン氏が勝利したが、水島教授は「彼の勝利もポピュリズム的手法による」と言う。

 同教授は、ヨーロッパ諸国では「リベラルな立場(理屈)からの反イスラムの主張が一定の支持を得ている」と指摘する。イスラム社会の女性への差別・抑圧や政教一致の主張などが、「ヨーロッパ近代の価値観と相いれない」といった主張だ。そして、「自由な民主主義を守るためにこそ、排外主義は正当化される」という理屈がかなり普及しているという。

 日本ではどうか? 同教授は、「東京・大阪・名古屋など大都市圏を中心にポピュリズム的な政治が支持を得ている」と言う。戦後長く続いた自民党政権が地方を優遇してきたことから、大都市圏の人々が不満を募らせ、既成政治への反発を強めているのだ。

 こうした日本のポピュリズムの表れ方は、「置き去りにされた地方の人々」がポピュリズムを支える米国・英国・フランスなどとは異なるという。

 水島教授は、「世界的に見れば、ポピュリズムが最も進行しているのは民主主義の先進地域であり、格差が小さく福祉が充実している国々だ」と指摘する。こうした国々で近年格差が若干広がる中で、排外主義を伴うポピュリズムが拡大しつつあるのだ。

「中抜き」の直接政治
 ところで、デモクラシーの核心はもともと、「民衆の支配」ではなかったのか? 同教授は「古代ギリシャの民主制と近代デモクラシーの位相の違いを理解する必要がある」と言う。後者には、三権分立・立憲主義の原理、つまり「多数者支配」には還元できない別の原理も含まれるという。「三権分立なんかやめてしまえ」「(最終的には)国民投票で決めるべき」といったポピュリズム的な主張は、近代デモクラシーの一部分を過度に際立たせた主張だ、と同教授は指摘する。

 なぜ近年こうしたポピュリズム型の政治が日本でも伸長しているのか? 水島教授は「21世紀の政治や社会が一種の『中抜き』状態にあることが大きい」と指摘する。冷戦構造が終結し、「左・右」の対立構造が役割を終え、それぞれを代表する既成政党とそれを支える諸組織の求心力が弱体化した。「右」も「左」も足腰がガタガタになり、無党派層・無組織層が多数派になってきたという。

 ポピュリズム型政治の主導者らは、こうした「中抜き」の現実を踏まえ、既存の政治や組織を敵にすることで無党派・無組織有権者を引きつけ、支持を広げているのだ。

【メモ】ポピュリズム
 国際的には一般的に、「人民の意思を直接政治に反映させるべき」との主張の下、反エリート主義を掲げる改革主義、と理解される。

 世の中を基本的に、エリート・特権層(上)と一般国民・人民(下)の2層に分けて考える。「上」とは、既成政党やその議員、官僚・司法権力・労働組合・メディア・知識人など。

 そして、権力を独占する「上」に対し、グローバリゼーションや欧州統合を進めて移民や外国人に優しい政治を行なっている、国民の利益を損なっている、などと批判する。

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