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読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

塩田武士著「女神のタクト」

2012-01-04 | さ行
どう見てもたよりない指揮者と、あまりに濃いメンバー。
偶然、オルケストラ神戸に足を踏み入れた明菜だが、そこで封印していた「音楽」への思いを呼びさまされ―。
30歳にして職と男をなくした矢吹明菜。
旅先で出会った老人に「アルバイトせえへんか?」と誘われる。
金がなく公演もままならない小さな楽団に、ある男を連れてくれば成功報酬が貰える。それが明菜と、一度は世界的に活躍した引きこもり指揮者・一宮拓斗、そしてオルケストラ神戸の出会いだった。
ポンポン飛び出す関西弁、口より手が出て暴力に訴える女と、飄々とした
老人。引きこもりの内股で歩く指揮者に小柄なパンチパーマの事務局長、オタクぽい事務局員など、個性的な胡散臭いん登場人物達がドタバタ喜劇のように展開され笑いがいつしか感動になる、猪突猛進・情熱物語。
クラシック音楽でプロを目指しながら挫折し、人知れず苦しんでいた明菜と拓斗が、幾多の困難を克服しようやく実現したコンサートで、音楽の持つ奇蹟の瞬間を体験することで甦る・・・人間再生物語でした。
どこもジリ貧状態と伝え聞く地方のオーケストラの裏事情などが書かれていて考えさせられました。
感動の涙と鼻水で読後感は最高でした。

2011年10月講談社刊
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仙川環著「逃亡医」

2011-11-30 | さ行
息子の肝臓移植のドナーになるはずだった心臓外科医・佐藤基樹が突然失踪した。ドナーの子供の母親・遼子から捜索を頼まれた元刑事・鹿川奈月はかすかな手がかり・情報をたよりに男の立ち寄り先を訪ねるが、以前そこにいた「佐藤基樹」はまったくの別人だった。
“佐藤”とは何者なのか?そして、なぜ逃げるのか?。
後半逃亡の謎は明かされるが納得のいく結末には程遠い。
理由が地位も名誉も教養もある医者が翌日の手術の執刀や全てを放り出す程のこととは思えないし、元女刑事奈月が僅かな報酬で駆けずり回る動機にも、本人を追い詰めるやり方も偶然やご都合的に仕組まれすぎ。
別人に入れ替わる動機も納得出来ず全て消化不良でした。
奈月の刑事を辞める訳もその恋人の描写も納得いかなかった。

2011年8月祥伝社刊
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翔田寛著「無宿島」

2011-11-17 | さ行
脱出不能の孤島が舞台の時代小説。1790年、天明の大飢饉によって各地から無宿人などの浮浪人が江戸市中に流れ着き激増したため、時の老中・松平定信は江戸の沖合を埋め立て無宿人を収容する施設・人足寄せ場を創設した。この「無宿島」に、旗本の妾の子・倫太郎と元井戸掘り職人・伊之助が無宿人になりすまして潜入する。
彼らの目的は、幕府が隠密裏に島に埋蔵した10万両を強奪しようというもの。
うまく無宿人たちに紛れ込んだ二人。しかし、島ではひとり、またひとりと無宿人たちが殺されて不審な死を遂げる事件が発生し、役人の監視が強まっていた。
また、倫太郎たちの動きを怪しむ古株の無宿人や、伊之助の過去に関わる女無宿人などが関わりを持ってきて・・・。
一体誰が、何のために殺人を犯すのか。犯人は?二人は上手く大金を手に入れることが出来るのか?
展開も早く二重三重の伏線と人間関係が絡み面白い特殊な世界での時代劇ミステリーでした。
今の佃島あたりの二百数十年前の生活が垣間見れて楽しかった。


2011年9月幻冬舎刊
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阪本恭彦著「ご褒美人生マレーシア」

2011-11-04 | さ行
定年後、夫婦でマレーシアに移住しセカンドライフを楽しむ著者が、そのノウハウを伝授。ビザの取得方法や、メイドの雇い方、日本語の通じる病院リストなどマレーシアでの生活を詳しく紹介。

クアラルンプール暮らし便利帳付き。なぜ定年後のマレーシア移住が日本人にとってベストなのか、多角的、客観的に分析されており、「退職後の自由時間は現役時代の200年分に相当するので、この過ごしかたが重要(「自由人生200年」)」(P17)がユニーク。

コラム「耳寄りな話」が楽しくて役立く話しがいっぱい。海外でのセカンドライフを考える参考になる本。


第一章人生のご褒美にマレーシアで暮らす
第二章食いしん坊天国マレーシア
第三章クアランプールの住まい
第四章はクアランプールオーダーメイド天国
第五章マレーシアの医療
第六章クアランプールで何をするか
第七章マレーシアに住むときに知っておきたいこと
第八章知っておきたいマレーシアの法律事情
第九章日本を離れて老人介護
第10章ここから天国へー葬儀と墓地
第11章マレーシア・マイ・セカンド・ホーム・プログラム解説


2011年9月 イカロス出版刊


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笹本稜平著「特異家出人」

2011-10-03 | さ行
警察小説。「特異家出人」の意味は家出人の中でも犯罪等で生命・身体に危害のおそれのある者や、事件事故に巻き込ま れたとおそれのある者、自傷や他者に危害を加えるおそれのある者をさす。その数は年間3万人超 。
彼と唯一交流があった近所に住む少女が交番に通報してきたところからミステリーは始まる。
東京都葛飾区在住の有村礼次郎という一人暮らしの84歳資産家老人が失踪した。捜査すべき“特異家出人"であるかを探ることになった警視庁捜査一課特殊犯の堂園晶彦は、老人と唯一交流があったという少女・加藤奈々美から、老人と電話で話した際「変な音」を耳にしたことを知る。
有村邸の玄関からは血痕が検出され、預金通帳や証書、有価証券、不動産の登記書、時価2億と推定される根付のコレクションが消えていた。
目撃証言により、彼を拉致したのは鹿児島の元指定暴力団員・中俣勇夫であることが判明。
中俣の消息を追い鹿児島に飛んだ堂園は、自身の祖父と有村老人が県立鹿児島第一中学校で同級生だったことを知る。
主人公の堂園と繋がりが明らかになるにつれご都合主義的な展開が気になった。
しかし展開が遅く、事件の全貌が明らかになり進展が早くなるのが後半近くでじれったい。またある程度予想が付くのが難点。
小学生といえど聡明で機転が利く「奈々美」の存在が鍵になっていた。
この警察小説のもう一つのテーマ「たった一瞬の過ちや思いこみが、何十年もの足枷()になり、時には人生を破壊してしまう」というやるせない哀しみを晴らす結末で読後感は温かい感動物に仕上がっている。

2010年8月小学館刊
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白石一文著「翼」

2011-09-28 | さ行
テーマ競作「死様」シリーズの1冊です。私的には読んだのは6冊中5冊目になります。
親友の恋人であるが、ほとんど初対面の男から結婚を申し込まれた学生だった田宮里江子。
十年後キャリアウーマンになり、医師になった二人は再会する。彼は彼女の親友と子を成し家庭を持っているものの、当時の気持ちはまったく変わっていなかったそれどころか、確信を深めたと言う。そして誰だって真実の人生を見つけられると言う。
自分の直観を信じて生きたいと願う男と、何に囚われているのか正直になれない女。
二人の行く末を通じて自分自身の死よりも、さらに致命的な死があると説く。
常識と道徳の枠外にあるもの「誰かの不幸を前提にした幸福なんて、この世界に存在できるはずがない」(P158)と女がいい。
彼は「僕たちの人生は誰かを不幸にしないためにあるわけじゃない。 愛する人を幸せにするためにある
のだし、そして、何よりも自分自身を幸福にするためにあるんだ。」(P184)
「最も大事なことは、この人が運命の相手だと決断すること」(P209)
「自分のことを最も深く理解してくれている人間の死は、自分の死と限りなく近いのかもしれませんね」(P99)
「愛のない世界で生きることは、死んでしまうことよりもずっと苦しみに満ちている」(P181)
211ページの物語はけっして軽くない重たい内容です。生きる意味について考えさせられました。


2011年6月光文社刊
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志水 辰夫著「 夜去り川」

2011-09-21 | さ行
幕末、黒船が来航した年、檜山喜平次は素性を隠して渡良瀬川のほとりで渡し舟の船頭となっていた。
何故、武士の身分を隠して渡し舟の船頭に身をやつしているのか?どうやって船頭に潜り込んだのか?妙見村と黒沢村の渡しで乗り込んでくる其々の村人との交流、村の成り立ち。あるきっかけで久しく付き合うことになる春日屋の人々・・・。
時代小説らしくゆっくりじっくりエピソードはさみながら状況説明が続き中盤以降になってやっと目的が明らかになる。
じつは喜平次は剣術指南だった父を盗賊一味に殺され、敵討ちのために藩を出て流浪の身となっていたのだ。
だが時代は転換期を迎え、敵討ちという古臭い重荷を背負わされた喜平次は、武士たる己の進むべき道をどう見極めるのか悩んでいた。武士としての誇りを失いかけた男が選んだ道とは・・・。
じっくり読める面白い時代小説、人物の成り立ちや自然描写、状況描写が丁寧でいい。
「働けば稼げるから、みなそれを目当てに、一生懸命働いている。いまはもうそういう時代なんだ。だが侍は、その仕組みに与っていない。金のことを言うのは卑しいという、百年も二百年も前の理屈にしがみついて、実際にやっていることと行ったら、民百姓からかすりを取っているだけ。先々の見通しも、目指すべき目途も持っていない。」(P128)

2011年7月 文藝春秋刊
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末浦広海著「 檻の中の鼓動」

2011-08-29 | さ行
主人公の中畑蘭子は3年前のあの事件が起きるまでの前職は警察官、今では元警官のヤクザの恋人から紹介されたデリヘル嬢の送迎係を生業にしていた。
蘭子のグループには出産間近の妊婦アキナがいたが、彼女は誰かに脅迫され客を取らされているようだった。
ある日、アキナは派遣され接客中ラブホテルの一室で産気つき出産してしまい、電話で駆けつけた蘭子が応急処置を施し、生まれたえい児とともに闇医者へ連れ出した。
しかし、大量の出血による吃驚したラブホの従業員からの通報で駆けつけた警察により部屋から検出されたアキナの指紋が、7年前に起きた嬰児産み捨て事件の現場に残された指紋と一致したこと、蘭子自らもうっかり指紋を残してしまって捜査対象になってしまう・・・。
この小説、ミステリー性が少ないすぐ予想できる展開と作者が書きたかった意図と何を伝えたいのか理解出来なかいのが難点だということ。蘭子の転落や他の展開の必然性も理解しがたいのだが。
悪徳警官の実態?蘭子の再生物語?


2011年6月 中央公論社刊
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柴田哲孝著 「冬 蛾 」 

2011-08-13 | さ行
東北の私立探偵、神山健介のシリーズ第3弾。今回は神山が、雪に閉ざされた福島県会津の寒村へ。
1年前に冬山で起きた村人の不審な死と、時空から取り残された人里の謎を追います。
私立探偵・神山健介に舞い込んだ不可解な依頼。
一年前に冬山で起きた村人の不審な死と、殺人の疑いをかけられ失踪した依頼者の夫。
真相を追って神山が足を踏み入れた七ツ尾村は、時空から取り残された人里だった。この村は、どこかおかしい!
村人は、狂っている!吹雪で閉じ込められた神山の前に、次々と明らかになる大量殺人事件。
帯のコピーは「因習の土地、謎の昔語り、凄惨なる連続殺人事件…」
横溝正史ばりの猟奇的殺人事件で余り期待せずに読んだが結構面白かった。舞台現場は山深い隔絶された地の集落。
会津犬、木地氏、熊狩り・・・屋敷の最奥で機を織る老婆の昔唄。
平家の落人伝説も絡んだ村の隠された秘密が謎となり展開される。
唯一難点は登場人物が多く整理しぬくかった相関図か人物一覧が必要だと思うのだが・・・。

2011年6月 祥伝社刊
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佐藤正午著「ダンスホール」

2011-07-23 | さ行
四年前から、小説家である「私」の身の上に起こったある災難をきっかけに、大きく人生が動いてゆく様子を描かれている。
一度死を覚悟した小説家に、鮮明に見えてきたもの。気の病に見舞われて、仕事ができなくなり、男は、離婚を含めて身の周りを整理した。
発砲事件現場に居合わせた事に端を発し、違法らしい物の受け渡しを巡って描かれる人間の再生小説。
西聡一にコールガールの女、大越よしえと護国寺という死にかけの男等々、難解な推理小説みたいな小説だと思う。
まずあっちに行ったり帰ったり時系列と出来事がバラバラ、誰が誰れで・・・「う~ん」一回だけでは理解不能。
小説を読みながら、全体の動きと感情を推察しながら、バラバラになったパズルを組み立てるように読む必要があります。
何度も読み返し、時系列を自分なりに繋げ、そして登場人物の感情をよく観察することが必要です。
根気と時間の余裕のある方には結構楽しめるかも。
読み方が足りないのか何が言いたいのかワカリマセン。
(最期のあり方を考えると今の生き方が見えてくる。テーマ競作小説「死様」の一冊)
2011年6月光文社刊
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桜庭 一樹著「 ばらばら死体の夜」

2011-06-29 | さ行
『「ご利用は計画的に」と、かわいいアイドルが笑顔で消費者金融の利用を呼びかけ、「払いすぎしてませんか」と消費者金融返済困窮者の相談に乗る弁護士事務所のコマーシャルがよく目立つようになった。
最近のCMの変化を見て何かが起こっているんだろうって、とても気になって、消費者金融問題を扱った小説を書こうと思った」と著者が書いたミステリーサスペンス。
舞台は2009年秋。翌年6月から改正貸金業法の施行が決まりその結果は、借金からの救済か、破滅か・・・四十過ぎの大学講師で翻訳家、吉野解は貧乏学生の頃に下宿していた神保町の古書店「泪亭」の二階で謎の美女、白井沙漠と名乗る女と出会う。
裕福な家庭に育った妻の由乃とは正反対の魅力に強く惹かれ、粗末な下宿部屋で何度も体を重ねる。しかし、沙漠が解に「三百万円、貸して」借金を申し込んだことから「悲劇」の幕があがる。
誰もがうらやむ美貌は実は整形のおかげながらも実は消費者金融に多額の借金を抱えている女、大学の非常勤講師でありながら学生時代に消費者金融から借りた学費を返せずにいる高学歴ワーキングプアの男吉野解、翻訳の職を持っているのに学生時代から生活水準がちっとも向上しない40女などが登場する。
女の孤独感を現すのが上手い著者がこの本でもその本領を発揮しての怪しいサスペンスが楽しめた。
最初のPrologueは一体読者を欺く為?
『金持ちになりさえすれば、なんでも手に入って、誰よりも幸せな人生が送れる、というわけじゃない。金にできるのは、不幸のもとを最大限、追っ払うこと。それだけなんだ」(P304)

2011年5月集英社刊
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末浦広海著「白き失踪者」

2011-05-28 | さ行
主人公は中国人の賭場を押さえるためのがさ入れ現場で中国人マフィアに銃撃され入院した刑事の瀧野純司。
入院中に知り合った中国残留孤児の三世の看護師 ・田村芳里と親しくなり心を通わせる中になり結婚を考えていたが、ある日を境に職場の病院からも姿を消してしまう。
同じ頃、革のツナギを着た謎の男女が日本人暴力団と中国人マフィアの覚醒剤取引現場を襲撃し、以前瀧野を撃った中国人含め三人は射殺され、暴力団幹部の秋元だけが怪我をしたが一人生き残り現場を立ち去る。
瀧野は行方不明の芬芬(芳里の中国名)を追って一人バイクを駆ったのだが・・・そこには深い闇が・・・。
中国残留邦人偽装帰化問題や外国人犯罪を取り扱ったハードボイルド・ミステリー。
展開も早く面白いのだが残念ながら心理描写も中途半端で、物語の過程からも結末からも著者が何を訴えたかったか不明のまま不完全燃焼で終った。

2011年1月 講談社刊
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西條奈加著「無花果の実のなるころに」

2011-04-25 | さ行
時代物が多い著者には珍しい現代物小説。
父の札幌転勤に同行せず、神楽坂に住み履物屋を営む祖母お蔦さんと暮らすことを決めた私学の中学二年生の望が主人公。
元芸者で映画俳優でもあったが包丁も持てない位で料理が出来ない祖母は面倒くさがりで、気が強くて、決して世話好きには見えないが、「お蔦さん、お蔦さん」と誰からも頼られるような、不思議な吸引力を持っていた。
そんなお蔦さん目当てに人が集まってくるから孫の望も何かと忙しい。お蔦さんや学校の同級生のみんなに振り回されつつも少しずつ成長していく望の、あたたかくて少しだけ波乱のある爽やかな日常のミステリー連作短編集。
振り込め詐欺を扱った表題作「無花果の実のなるころに」他
「罪かぶりの夜」「蝉の赤」「酸っぱい遺産」「果てしない嘘」「シナガワ戦争」の六編収録。中2で料理が上手って設定だけど毎回美味しそうな料理が出てきて食べたくなりました。それなりに面白く読めた。
「心からすまないと相手に謝罪して、その上で己の罪の意識を抱えて生きるのも、それもひとつの立派な生き方だ」(P243)

2011年2月東京創元社刊
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雀野日名子著「太陽おばば」

2011-04-16 | さ行
30代のフリーライターの舞は不妊が原因で離婚し、アパートに引っ越してきた。
一生子どもを持てないまま一人で生きていくことになるのかと傷心を抱えながらも、隣の高齢者用アパートの向いの子ども夫婦に見捨てられた、60代の未亡人女性・耶知子さんというパワフルなおばあさん「太陽おばば」と交流が始まる。
耶知子さんは不思議な力で、身近な人々の「最期」にまつわる心のすれ違いを解決させてゆく。
ケンカ別れしたまま和解することなく死別したコーラス仲間の葬儀で故人の霊を冒涜する婆さんの話。
ろくでなしの夫が長い患いの後死んだあと新盆の日に霊が帰ってきて、そして死ぬ前に依頼していた自費出版の自叙伝が遺族に送られて来た話。
親の延命装置のスイッチを切るか切らないか巡ってケンカする、双子の中年息子の話。
など
そんな耶知子さんと過ごすうちに、舞はライターとして書かなかればならない本当に大切なことを見つけていく。
「この世に残すことができない新たな命の代わりに、自分にしか残せないものを」
『親子が大人同士として言いたいことを言いあえる時期は、長いようで短いもんもんなんよ。』(P155)
『親として子に望むこと・・・子が心身ともに健やかに生き続けてくれることこそが、何にも代え難い親孝行なのです。』(P237)
ちょっぴり怖い優しく切ないファンタジックミステリーでした。
2011年2月 双葉社刊
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鈴木英治著「忍び音」(しのびね) 

2011-03-01 | さ行
武田勝頼が信玄亡き後家督を継ぎ2年がたったころ、長篠の戦に至る前夜の躑躅ヶ崎館のある甲府を舞台に武田家に仕える下級武士津島智之介が主人公の時代劇ミステリー。
智之介と小杉隆之進の妻菜恵との密通不倫現場から物語は始る。
智之介と小杉隆之進は十五の時に初陣を共にした同志だったのだが、その後智之介は戦いで父と兄を失い津島家の家督を継ぎ、隆之進は自分の元許嫁であった菜恵の小杉家へ婿入りしたのだ。
小杉家は「横目付け」の家柄で隆之進は何か重要な探索を行なっていた。
そんなとき、智之介の目の前で隆之進が何者かに殺され、智之介に嫌疑がかかる。
汚名をそそぐためまた自らの罪の意識から、死の真相をひとり探り始めるが・・・。
織田・徳川との決戦が迫る中、勝頼の家督継承による武田家臣団の中から誰かが敵方への裏切りの噂がささやかれる動揺した時代背景のもと騎馬武者ながら無役の下級武士の日常生活が詳しく描かれていて興味深かった。
謎解きそのものは大した驚きの結末ではなかったが長篠の戦いの描写シーン等面白かった。
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