ミステリー作家、デザイナー、映像作家、警察官僚の友人たちが自身の経験と知識を駆使し非日常で繰り広げられる日常の謎解きに挑む中編2つ。
豪華クルーズ船で行われる謎解きゲーム、ファンとの交流会を豪華客船「斑鳩」で行う企画を受けた人気ミステリー作家の高沢のりおだが、4泊5日のクルーズ中に客船にまつわるトリックを二社分作らなくてはならなくなった。高沢は友人でかつて航空機に関わっていたデザイナー倉崎修一に同行をたのみ、彼の工学的な知識に頼ろうと考えたのだが・・・「クルーズはミステリーとともに!」。苦労して手に入れた旧いクルマにまつわる悲喜こもごも。念願の旧い1988年製BMW635csiを手に入れた映像作家の深川隆哉は友人たちに自慢するためにドライブに誘う。故障多発の旧いクルマ特有の問題に悩まされながらも楽しんでいる深川だが、友人の警察官僚・園部芳明から車に関するミステリーを相談される。・・・「ドライブは旧き良きクルマとともに!」。クルーズ船では4つ。クルマ編では3つ。派手さはないが謎解きされればなんだそんなことかと、非日常生活に潜む謎解きが楽しめた。
2021年5月南雲堂刊
広告・イベント制作会社で働く小島佑は社長に僻地の離島・小鬼ヶ島へ行くよう命じられる。実は、会社で使えないやつとレッテルを貼られ、みなが嫌がる離島のPR案件の担当に指名され、離島に赴いたのだ。島に向かう船中で、美しい女性、るいるいさんと出会う。この島はちょっと変わった離島で、住民が東と西で対立。村長選挙や村議会議員選挙のたびにガチンコの争いになる。佑は島の居酒屋に働きにきた・るいるいさんと一緒に島の問題を解決するため、とっておきの作戦を実行する。東軍、西軍でもない地球防衛軍として島の東西融和作戦。佑は、何も知らない島民達から期待されながらも島に来た秘密が暴露され窮地に追い込まれます。島の巫女から救世主と御信託を受けたのに・・・「どうしようもないときはもうひとつのドアに逃げ込めばいい。いつかドアから出て本当の自分と出会い、自分の役割を果たすことで、争いのない社会がきっとやってくるはず。」と落ち込む。会社にいた時の鬱々とした心の重さの正体は「自分が自分でいられる「居場所」がないことからくる不安と寂しさ」なのだと気付く佑。しかし島には島のトラブルだらけだけれど、誰かの役に立つというシンプルな喜びで心が満たされる、これこそ働くことの真髄なのだと気付く。「感動って『心の食べ物』だから常に与え続けないと、心がやせ細る」。(本文より)ドタバタの喜劇だけどほっこり感動の物語でした。
2021年3月双葉社刊

板橋の商店街で、父の代から続く中華そば店を営む牧野康平62歳は、一緒に店を切り盛りしてきた妻蘭子を急病で失って、長い間休業していた。ある日、分厚い本の間から、妻宛ての古いはがきを見つける。30年前の日付が記されたはがきには、海辺の地図らしい線画と数行の文章が添えられていた。差出人は大学生の小坂真砂雄。記憶をたどるうちに、当時30歳だった妻が「見知らぬ人からはがきが届いた」と言っていたことを思い出す。なぜ妻はこれを大事にとっていたのか、そしてなぜ康平の蔵書に挟んでおいたのか。妻の知られざる過去を探して、康平は灯台を巡る旅に出る・・・。市井の人々の姿を通じて、人生の尊さを伝える物語。親子や夫婦って何でもわかっている訳ではない事、蘭子さんの芯の強さが印象に残り余韻の残る読後感でした。
2020年9月集英社刊

移動デリを経営するバツイチでアラサーの掛川夏都。借金を返しながら、海外赴任中の姉の息子・智弥を預かる生活はぎりぎりであった。ある日突然、中学生アイドル・カグヤのファンたちに車ごと拉致された夏都は、芸能界の闇に巻き込まれていく。やがてカグヤとファンの暴走に思われた事件は、思いもよらぬ結末を迎えるのだが・・・。前半の突然の誘拐劇も、強引な展開だし、生活と仕事の方で精一杯の筈の夏都の行動に全く共感できないのでもどかしい。後半の少年達の心情は、切なくて理解はできるが、中途半端さと言うか物足りなさが最後まで残った。塾の菅原先生やゲームの世界の住民。素手おにぎりの乳酸菌から ・・心の食中毒?作者は伊坂か? こんな展開で、最後まで気持ちがのらないまま読了。スタフの意味 も最後まで理解できず。
2016年7月文藝春秋社刊

8つのSF短編集。長年一緒に暮らしてきたロボットと若い娘の、最後の挨拶。・・・表題作「さよならの儀式」。
養父母のもとで暮らしていた主人公の二葉。しかし二葉が16歳のとき、養母の死によって「グランドホーム」という施設に戻されること。虐待を受ける子供とその親を救済する奇蹟の法律「マザー法」でも、救いきれないものはある。・・・「母の法律」。
主人公の藤川達三は、散歩中に奇妙な光景を目にする。少年が防犯カメラを壊そうとしているのだ。果たして少年の目的は、孤独な老人の日常に迫る侵略者の影。・・・「戦闘員」
45歳のわたしの前に、中学生のワタシが現れた。・・・「やっぱり、タイムスリップしちゃってる! 」・・・「わたしとワタシ」。
高校生の主人公・深山秋乃は、10歳違いの妹・春美と母親と3人で暮らしている。春美が突然不調を訴え、通常の学校生活が送れなくなってしまった原因は?妹が体調を崩したのも、駅の無差別殺傷事件も、みんな「おともだち」のせい?・・・「星に願いを」
千川調査事務所に寺嶋という男が、息子・和己の相談に来た。和己が妙なものを見たというので、その調査を依頼するためだ。依頼人の話によれば、ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。・・・「聖痕」。
千川調査事務所に寺嶋という男が、息子・和己の相談に来た。和己が妙なものを見たというので、その調査を依頼するためだ。依頼人の話によれば、ネット上で元〈少年A〉は、人間を超えた存在になっていた。・・・「聖痕」。
明治日本の小さな漁村に、海の向こうから「屍者」のトムさんがやってきた。フランケンシュタイン博士の作ったものは・・・「海神の裔」。
隔絶された町「ザ・タウン」の保安官のところへ、チコという助手がやってきた。パトロール中、保安官の無線が鳴った。「誘拐事件発生です」なぜいつも道を間違ってしまうのか・・・「保安官の明日」。
親子の救済、老人の覚醒、30年前の自分との出会い、仲良しロボットとの別れ、無差別殺傷事件の真相、別の人生の模索。なぜこの殺人がおきたのか、なぜ監視社会がこれほど進むのか、人とロボットは共存可能なのか、そんな疑問への回答が宇宙人の存在だった等々、読後感は短すぎて暗い面白みのない短編集だった。
2019年7月河出書房新社刊

埼玉で小料理屋を営む藤原幸人のもとにかかってきた一本の脅迫電話。それが惨劇の始まりだった。昭和の終わり、藤原家に降りかかった「母の不審死」と「毒殺事件」。 真相を解き明かすべく、幸人は姉の亜沙実らとともに、30年の時を経て、因習残る故郷へと潜入調査を試みる。すべては、19歳の一人娘・夕見を守るために・・・なぜ、母は死んだのか。父は本当に「罪」を犯したのか。村の伝統祭〈神鳴講〉が行われたあの日、事件の発端となった一筋の雷撃。後に世間を震撼させる一通の手紙。父が生涯隠し続けた一枚の写真。そして、現代で繰り広げられる新たな悲劇。ささいな善意と隠された悪意。決して交わるはずのなかった運命が交錯するとき、怒涛のクライマックスが訪れるという展開。主人公の妻の事故死と31年前に起った殺人事件が絡まりあうように進行していくハードボイルド的謎解きは面白かった。田舎の小さなコミュニティーの中で起った怨念の絡まる事件。都合よくて出来事が起きるのは仕方がないのだが、写真家でいわば“事件ハンター”ともいえる彩根が途中都合良く登場して、まとめ進行役を勤めてしまっているのだが立ち位置がイマイチ不明。誰が罪を犯し、誰を救おうとしていたのか、30年前に起きた事件の真相を探る彼らの果たした結果に救いはあったのか疑問に思った。
2021年5月新潮社刊

心理ミステリー。一人ずつインタビューに答える形式で進む独白物語。一人の女の子が自殺した真相を追求していく話です。美容クリニックに勤める医師の橘久乃は、久しぶりに訪ねてきた幼なじみから「やせたい」という相談を受ける。カウンセリングをしていると、小学校時代の同級生・横網八重子の思い出話になった。幼なじみいわく、八重子には娘がいて、その娘は、高校二年から徐々に学校に行かなくなり、卒業後、ドーナツがばらまかれた部屋で亡くなっているのが見つかったという。母が揚げるドーナツが大好物で、それが激太りの原因とも言われていた。もともと明るく運動神経もよかったというその少女は、なぜ死を選んだのか――?
「美容整形」をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる物語。この独白タイプは感情移入しにくく読み難かった。ラストもモヤモヤしたままで読了。
「美容整形」をテーマに、外見にまつわる固定観念や、人の幸せのありかを見つめる物語。この独白タイプは感情移入しにくく読み難かった。ラストもモヤモヤしたままで読了。
「外見の美しさは一生のものではありません。肌のはり、豊かな毛髪。失っていくものもあれば・・・お腹や腰、背中二の腕いたるところに増えていくものもあります。ジグソーパズルのピ―スに似ている・・・人それぞれに似ているようで少しづつ違うへこみやでっぱりがある。・・・長所があり短所があり、好きなもの苦手なものがある。そうやって自分というカケラができあがる。カケラとカケラがはまって家族ができ、町ができる。そして一枚の絵の一片となる。だけどみながうまくはまれるとは限らない。学校という名の絵,会という名の絵。なぜだか自分が浮いてしまっている。この絵の中に自分の居場所がないのかもしれない。無理に押し込むと周囲のバランスが崩れてしまう。少し変えればうまくはまるのに」「「自分の理想の形が必ずしも他人にとっても他人そうではないことを」(P283)
2020年5月集英社刊

“子ども食堂”を舞台に、温かくて幸せな奇跡、決して色褪せることのない人生の「美味しい奇跡」無力な子どもたちをとりまく大人たちの深い想いを描いた希望の物語。
貧困家庭の子どもたちに無料で「こども飯」を提供する『大衆食堂かざま』。
その店のオーナーの息子、中学生の心也は、「こども飯」を食べにくる幼馴染の夕花が気になっていた。7月のある日、心也と夕花は面倒な学級新聞の編集委員を押し付けられたことから距離が近づき、そして、ある事件に巻き込まれる。遠い海辺の町へと逃亡した二人の中学生の恋心と葛藤。事故に巻き込まれたカフェレストラン兼こども食堂のマスターとゆり子。 並行して語られるふたつの物語が後半に繋がって驚きと感動が押し寄せて感涙でした。
その店のオーナーの息子、中学生の心也は、「こども飯」を食べにくる幼馴染の夕花が気になっていた。7月のある日、心也と夕花は面倒な学級新聞の編集委員を押し付けられたことから距離が近づき、そして、ある事件に巻き込まれる。遠い海辺の町へと逃亡した二人の中学生の恋心と葛藤。事故に巻き込まれたカフェレストラン兼こども食堂のマスターとゆり子。 並行して語られるふたつの物語が後半に繋がって驚きと感動が押し寄せて感涙でした。
「人の幸せってのは、学歴や収入で決まるんじゃなくて、むしろ『自分の意思で判断しながら生きているかどうか』に左右される」(P127)
2020年6月角川春樹事務所刊

家族小説。川合淳は中堅出版社に勤めるサラリーマン。妻・杏子と娘・春香とともに、マイホームで穏やかに暮らしていた。しかし中学生の春香がいじめにあい引きこもってしまう。やがて妻もそんな辛い現実を受け止めきれなくなり、救いを求めて「紫音」という霊能者にはまっていく。父親は「ふつうの幸せ」を失い、バラバラになった家族の心の和を再生しようとするが。家族の絆を救ったのは、まさかの老人・・・。推理小説の様な謎の伏線が張りめぐられており楽しめる。「スピリチュアル」「マインドコントロール」「ユング」「コールドリーディング」等々が語られ家族再生の物語になっている。
「人を傷つける人は、自分の心が傷ついている可哀想な人。人を騙す人は、人に騙されて世界を信頼できなくなった淋しい人」(P378)
闇から光へ、雨上がり人の物の見方を学んだ春香の今後が楽しみな展開でした。
2018年10月幻冬舎刊

15年前に起きた、判決も確定している『笹塚町一家殺害事件』を映画化したいという新進気鋭の映画監督長谷部香から相談を受けた新人脚本家の甲斐千尋(本名・真尋)。事件は真尋の生まれた故郷笹塚町で起きた、引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめたというもの。この事件を、香は何故撮りたいのか。真尋はどう向き合うのか真実は?のミステリー。千穂・沙良・力輝斗など登場人物たちの関係性をわざと伏せ複雑化させて間延びさせたような展開でうんざりさせられたが人間関係の機微や臨場感ある筆運びは流石。事件の裏に隠された「真実」、過去に囚われた人々に対する「救い」とは、そして、脚本家・映画監督として「表現する」ということはと。絶望の深淵を見た人々の祈りと再生を描いた物語です。
2019年9月角川春樹事務所刊

「カラスの親指」の続編。「久々に、派手なペテン仕掛けるぞ」詐欺師から足を洗い、口の上手さを武器にスーパーなどで実演販売士として真っ当に生きる道を選んだ武沢竹夫。しかし謎めいた中学生・キョウが「弟子にしてくれと、とんでもない依頼」とともに現れたことで彼の生活は一変する。シビアな現実に生きるキョウを目の当たりにした武沢は、ふたたびペテンの世界に戻ることを決意。そしてかつての仲間たち、まひろ、やひろ、貫太郎らと再集結し、キョウを救うために「超人気テレビ番組」を巻き込んだド派手な大仕掛けを計画することに。
設定舞台は前作から15年後の物語。前作同様リアル感のない騙し騙しドン伝返しの連続で最後まで展開が読めない、まして前作を読んでないと人間関係が理解できないと来ている。そういう世界の物語として楽しむしかない物語です。騙される、思っていたのが予想がひっくりカエルそんな詐欺師たちの物語です。
2019年10月講談社刊

金魚すくいの屋台で出会いそれから飼われることになりユキと名付けされた和金の金魚の視点で描かれた心温まる物語。都内のアパートで一人暮らしをしている、恋に臆病なイズミ。引っ込み思案なのは誰にも明かしていない心と体に「傷」があったからだ。そんな彼女をいつも金魚鉢から見つめているユキ。ひとつ屋根の下に暮らしながら言葉を交わすことはないが、イズミへの思いは誰よりも強い。もどかしい関係の「ふたり」の間に、新たな男性の存在が。果たしてイズミの凍った心を溶かす恋は始まるのか・・・
登場人物は4人と黒猫やパンジーなどこじんまりとした世界の話で広がりがないがほっこりさせてくれる優しい話です。「心は傷つかない。ただ、ただ磨かれるだけ。」(P214)「ふたりが喧嘩するのは、相手ことがとても好きだからだ。好きだからこそ自分を理解して欲しくて喧嘩になる。・・・喧嘩できるのは、そもそもふたりがしあわせだからだ。」(P272)
2019年12月小学館刊
架空の街、蝦蟇倉市で起こった事件3編が連作短編を読む如くミステリーが繋がっていきます。復讐殺人を捜査する刑事、殺人現場を目撃してしまった少年、他殺の疑いのある事件を追う刑事。各章ごとに主人公は変わり全ての事件は最終章へと。第1章「弓投げの崖を見てはいけない」・・・自殺の名所付近のトンネルで起きた交通事故が、殺人の連鎖を招く。
第2章その話を聞かせてはいけない」・・・友達のいない少年が目撃した殺人現場は現実か夢か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」・・・宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。
どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが仕掛けられており、ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる趣向。
さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、これまでの物語の全てが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが・・・。伏線が複雑で何度も再読するも盲目の男が絡むなど在り得ない設定でトリックも後味の悪い読了感。複雑なミステリーを書きたかったのか何を主張しかったのか好き嫌いのハッキリする出来。
第2章その話を聞かせてはいけない」・・・友達のいない少年が目撃した殺人現場は現実か夢か?
第3章「絵の謎に気づいてはいけない」・・・宗教団体の幹部女性が死体で発見された。先輩刑事は後輩を導き捜査を進めるが。
どの章にも、最後の1ページを捲ると物語ががらりと変貌するトリックが仕掛けられており、ラストページの後に再読すると物語に隠された〝本当の真相〟が浮かび上がる趣向。
さらに終章「街の平和を信じてはいけない」を読み終えると、これまでの物語の全てが絡み合い、さらなる〝真実〟に辿り着く大仕掛けが・・・。伏線が複雑で何度も再読するも盲目の男が絡むなど在り得ない設定でトリックも後味の悪い読了感。複雑なミステリーを書きたかったのか何を主張しかったのか好き嫌いのハッキリする出来。
2019年7月文藝春秋社刊

九つの短篇集。野良犬に囲まれた夏の日の恐怖・・・「真夏の犬」、転校してきた混血の美少女をめぐる争い・・・「暑い道」、アル中の母と住んだ古いアパート・・・「階段」、奇妙な香具師が売っていた粉薬・・・「力道山の弟」、同級生の女の子の危険なささやき・・・「チョコレートを盗め」他ホットのコーラを注文され右往左往する喫茶店のマスターと客達の話・・・「ホット・コーラ」「駅」「香炉」「赤ん坊はいつ来るか」等々。少年や青年の目線であのころの少年の日の悲しみ、青春の日の心の痛み、歳月のへだたりを突き抜けてよみがえる記憶を鮮烈に刻みつけ、苦悩と慰めの交錯する人生への深い思いを浮かびあがらせた短編。多様な過去のイメージを交錯させ、見事な描写と会話ちょツとした小道具と場所を象徴的に描いてミステリー風に臭いが漂ってくるような強烈な描写の奥深い個性的な物語ばかりでした。
1993年4月文春文庫刊
現役の内科医が書いた小説。クレーマー患者たちに悩む女性医師が、先輩医師や同僚とともに、患者たちと真摯に向き合い寄り添おうと努力する中で、人と人との絆を見つけ出してゆく物語。病院を「サービス業」と捉え、「患者様プライオリティー」を唱える佐々井記念病院の医師たちは、さまざまな問題を抱えていた。主人公の真野千晶は、半年前に大学病院を辞めてこちらに移った。彼女は聴診や触診から病人特有の気配を感じ取ることに長け、医師としての第六感的な直観力に優れている。「患者を診て治療する」というシンプルな医師像に立ち返りたいと思い、「患者を大事にする」と評判だった佐々井記念病院を選んだのだが、しかし、内情は評判とは少し違っており、病院の「患者様第一主義」「患者獲得競争」に振り回されて、納得のいかない〝3分診療〟を行わなくてはいけないジレンマを抱えている。その上、外来、病棟、夜勤と寝る暇もない日々。あげく「最悪のモンスター患者・座間敦司」に目を付けられ、執拗に嫌がらせを繰り返されることになる。唯一の救いは明るい性格で患者からも好かれているが、大きな医療訴訟を抱え悩む先輩女医浜口陽子らの存在だった。・・・・
読んでいてこれでもかと続く理不尽な患者の言動行いに読み進めるのが嫌になってしまった。救急外来や医療訴訟の実態もしかvり。大変な医療現場で人命を預かって働く彼ら彼女らの実態を知り自分だけは理解ある患者様になろうと思った。「患者に癒し続ける人でありなさい。その医療が、いかにささやかであろうが。愚鈍に見えようが、誤解を生もうが、力不足であろうが、それでいいんだ。」(P304)
2018年1月幻冬舎刊