

囚人に仏道を説く浄土真宗の教誨師の顕真。ある日、拘置所で一人の死刑囚を見かける。それは、20数年前の大学時代の登山部の顕真を雪山の遭難事故から救った、無二の親友・関根要一だった。人格者として知られていた友は、なぜ見ず知らずのカップルを殺めたのか。人間性を知っていた教誨師は、犯罪に疑問を持ち裁判記録に浮かび上がる不可解な証言をもとに、事件に疑問を持った当時の担当刑事の文屋と遺族に聞き込みをはじめる。・・・宗教と無縁であった教誨師はなぜ僧侶になったのか。犯罪とはおよそ無縁とおもえた命がけで自分を救ってくれた男のその後の人生に何が起こったのかのミステリーとともに人間ドラマが進行します。俗世の因縁と煩悩に悩みながら答えの見出せぬまま、再び関根と対峙することとなる顕真。迫りくる死刑執行の日、想像を超えた事件の真相の展開に引き込まれました。若き教誨師と死刑囚という変わった2人の主人公の設定が意外だった。
2019年9月新潮社刊
情報産業に潜むリスクと、カネの現実、現在の資本主義社会の退廃ぶりを、ジャーナリスト、起業家、投資家が交錯するストーリーの中で描き出す。気がつけば、忖度独裁国家と化していた日本。そこには、権力におもねり人を食いものにするフェイクなヤツらがあふれている。斜陽の新聞社を辞めた泣き虫記者、失敗続きのバリキャリ美女、うだつの上がらない学習塾経営者、そして、地獄から這い上がった孤高の投資家。崖プチの4人の逆襲だ。「EVの革命児」ともてはやされるミラクルモーターズの黒崎宏、成功した男たちを渡り歩くクールビューティーな女性起業家、椎名マリア、個人投資家として数百億の資金を動かし、莫大な利益を得ている天才投資家・城隆一郎、そして城に雇われ、ミラクルモーターズを調べ始める、元大手新聞記者のフリージャーナリスト・有馬浩介、捜査線上に浮かんできた、闇の大物・・・。
現代の資本主義社会の現実を見事に描き出しています。脇の甘い人間がハマる落とし穴、レバレッジ投資のリスク、情報操作の危険性、平気で風呂敷を広げる起業家と、それに群がる危うい投資家たち。まさに今の日本の闇の部分を描いているようで怖い。早いストーリー展開、そして読後感も心地よいが人物描写は昭和的で大きな金が動いている割にはその辺が伝わってこないのは残念。続編が期待できる終わり方でした。
2018年9月ダイヤモンド社刊
マンションの屋上庭園の奥にある「縁切り神社」。そこを訪れる「生きづらさ」を抱えた人たちと、「わたし」の物語全5章。小学生の百音と国見統理はふたり暮らし。朝になると同じマンションに住む路有が遊びにきて、三人でご飯を食べる。百音と統理は血がつながっていない。その生活を“変わっている”という人もいるけれど、日々楽しく過ごしている。三人が住むマンションの屋上。そこの小さな御建神社は、統理が管理をしている。地元の人からは『屋上神社』とか『縁切りさん』と気安く呼ばれていて、断ち物の神さまが祀られている。悪癖、気鬱となる悪いご縁、すべてを断ち切ってくれるといい、“いろんなもの”が心に絡んでしまった人がやってくる。このマンションの住人はとても優しくあたたかいのだ。誰かが決めた「当たり前」や「正しさ」「世間体」に束縛されて生き辛くなってしまう世の中で、それらに縛られず、自分と折り合いをつけながら自分らしく生きていく。貴方はあなた、私はわたしで良いんだと思わせてくれる読後感は穏やかな気持ちでした。「フリーサイズの恋:相手に期待せず依存しない。不測の事態が起きても自分でなんとかする。相手の状況に振り回されない、どんなサイズも受け止めるフリーサイズのシャッにお互いになるという恋」(P61)
2019年12月ポルラ社刊
生活保護にスポットを当てた社会派ミステリー。仙台市の福祉保健事務所課長・三雲忠勝が、手足や口の自由を奪われた状態の餓死死体で発見された。三雲は公私ともに人格者として知られ怨恨が理由とは考えにくい。一方、物盗りによる犯行の可能性も低く、捜査は暗礁に乗り上げる。三雲の死体発見から遡ること数日、一人の模範囚が出所していた。男は過去に起きたある出来事の関係者を追っている。男の目的は何か?なぜ、三雲はこんな無残な殺され方をしたのか?続いて第二の殺人が起こった。二人の被害者をつなぐ線は何か。担当刑事の県警捜査一課の笘篠誠一郎は、大震災の津波で妻子を失っている。無辜の善人がなぜ死なねばならないのか。重い問いかけに答えはない。罪と罰、正義が交錯した先に導き出されるのは、切なすぎる真実だった。生活保護を必要とする者が予算削減という政策のために保護を受けられず、むしろ罪を犯し刑に服した者の方が厚い保護を受けている実態には疑問に感じる事多し。最後のドン伝返しは途中で予想が付いたのは少し残念。最後の方「護られなかった人たちへ・・・どうか声を上げてください。・・・不埒な者が挙げる声よりも、もっと大きく、もっと図太く」(P379~380)のメッセージには胸が痛む。
2018年1月NHK出版刊
金融ミステリー。帝都第一銀行に入行し、3年目で都内の大型店舗に配属が決まった結城真悟。そこはリーマン・ショック後に焦げついた債権の取り立て部署、上司となるのは伝説の債権回収マンとして悪名高い38歳の山賀雄平だった。百戦錬磨の山賀の背中を見ながら、地上げ屋、新興宗教、ベンチャー企業など、回収不可能とされた案件に次々と着手せざるを得ない結城。そんなある日、山賀が刺殺体で見つかる。帝都第一銀行の闇を山賀が握っていたのか?山賀殺害の犯人は、上司の仕事を引継ぎ一癖も二癖もある債権者たちに対峙ながら、回収を図っていく結城が回収困難な不良債権案件にどう対応していくのか二本立てで物語が展開。
「貸したカネをきっちり回収し、そのカネをまた必要な顧客に利用してもらう。それが金融の本来あるべき姿だ。バブル崩壊の責任の一端は、自分に課せられた仕事を先送りにしたその時々の回収担当者にもある。金融に身をおく者の無責任さと他力本願が日本経済を壊滅させた」という山賀があっさり殺されて短い見習い期間なのにあっさり「シャイロック」に成れたところに少し違和感が。だが解決策がどれも新鮮で面白かった。
2019年5月KADOKAWA刊
高校生と刑事のバディが活躍する学園ミステリー。「ねえ。慎也くん、放課後ヒマだったりする?」雨宮楓から突然声をかけられた高梨慎也は驚いた。楓は常盤台高校の学園一のアイドルで、自分とは何の接点もないからだ。用件を言わず立ち去る楓を不審に思いながらも、声をかけられたことで慎也の胸は高鳴っていた。しかしその日の午後彼女が校舎の3階から転落死する。学校は騒然となり、さらに楓が麻薬常習者だったという噂が流れる。警察の聞き取り調査が始まった。そこに現れたのは、慎也の従兄弟で刑事の葛城公彦。公彦は、転落死の真相を探るため、教育実習生として学園に潜入することを決める。一方の慎也も、楓が所属していた演劇部に入部し、楓の周辺人物に接触を図る。なぜ楓は、慎也を呼び出したのか。慎也と公彦は、真相解明に挑む。やがて予想だにしない結末が二人を待ち受ける。
演劇部の活動にのめり込んでいく青年を描いた青春小説のような感じで連続で起きた死者2人があるにもかかわらず緊張感に欠ける展開は緩い。終盤の真相が明らかになる展開も、とってつけたような感じ。犯行の動機も弱いとおもった。
2018年9月集英社刊
「連続殺人鬼 カエル男」の続編。凄惨な殺害方法と稚拙な犯行声明文で世間を震撼させた「カエル男連続猟奇殺人事件」から十ヵ月後、事件を担当した精神科医・御前崎教授の自宅が爆破され、その跡からは粉砕・炭化した死体が出てきた。そしてあの犯行声明文が見つかる。カエル男の報復に、埼玉県警の渡瀬&古手川の刑事コンビもふたたび動き出す。釈放されたカエル男こと精神障害者の当真勝雄、勝雄の保護司で今は医療刑務所にいる有働さゆり、釈放間時下の古沢冬樹、そして有働の弁護を担当する悪徳弁護士の御子柴。多くの役者が揃う中、どんな捜査が行われるのか、埼玉県警の古手川の回想場面が多く挿入されて前回を振り返る展開。
刑法39条の欠陥「心身喪失者の行為は罰しない。心神耗弱者の行為はその刑を軽減する」責任主義を徹底的に批判し刑法三十九条の精神障害の扱いが今回の事件をめぐる大きな焦点となっていて、人権問題と犯罪者の更生の問題、予算不足によるお粗末な医療刑務の実態、所精神障害者の扱いなど、マスコミやSNSを用いながら市民感情なども取り上げていて面白い。結末に意外性はあるが前作を読まずに読んだため面白さは半減カモ。刑法39条の問題点の指摘だけで解決策のヒント提示がないのは不満。
2018年5月宝島社刊
悪辣弁護士シリーズ第4作。御子柴礼司は被告に多額の報酬を要求する悪辣弁護士。彼は十四歳の時、幼女バラバラ殺人を犯し少年院に収監されるが、名前を変え弁護士となった。事務所に妹・梓が30年ぶりに訪れ、母・郁美の弁護を依頼してきた。郁美は、再婚した夫を自殺に見せかけて殺害した容疑で逮捕されたという。郁美が〈死体配達人〉の母だと分かるとどの弁護士からも断られ、仕方なく御子柴を頼ってきたのだ。接見した御子柴に対し、郁美は容疑を否認。依頼人が誰であろうと情にとらわれることなく冷徹に処理をするのが信条の御子柴だが、今回はいや応なく自らの過去がまとわりつく。おまけに御子柴の逮捕後に自殺を図った父の事件と今回の事件とが関連があるらしいことを知る。過去ときっぱり縁を切ったはずの御子柴だが、実の母を前に冷酷非情さを貫き通すことができるのかというのが内容。
名を変え、過去を捨てた御子柴は、肉親とどう向き合うのか、そして母も殺人者なのか等々。異常な人間関係・状況設定で如何に無罪まで導くのか楽しませてもらった。悪徳は輪舞曲のように同じ旋律を繰り返す、続編が楽しみだ。
2018年3月講談社刊
巷を騒がす西成ストーカー殺人事件を担当している、大阪地検一級検事の不破俊太郎と新米検察事務官の惣領美晴。どんな圧力にも流されず、一ミリも表情筋を動かすことのない不破は、陰で能面と呼ばれている。自らの流儀に則って調べを進めるなかで、容疑者のアリバイは証明され、さらには捜査資料の一部が紛失していることが発覚。やがて事態は大阪府警全体を揺るがす一大スキャンダルへと発展するのだが・・・・。
能面検事と呼ばれる不破と、すぐに感情的になってしまう美晴の対比したコンビが面白い。物語にリアリティがあり、不破が何事にも動じず真実を追い求めていく姿にグイグイ引き込まれた。過去の取り返しのつかない失敗が元で、感情を一切表に出さなくなった不破検事。その現実離れした、徹底した忖度のなさが、小気味いい、今野敏著「隠蔽捜査」の竜崎にも似たぶれない姿勢が良かった。続編シリーズ化期待。
2018年7月光文社刊
千葉県警の警察官が殺された。捜査にあたるのは、県警捜査一課で検挙率トップの班を率いる警部・高頭冴子。陰では「アマゾネス」と綽名される彼女は、事件の目撃者である八歳の少年・御堂猛から話を聞くことに。そこで猛が犯人だと示したのは、意外な人物だった。思わぬことから殺人事件の濡れ衣を着せられた冴子。自分の無実を証明できる猛を連れて大阪へ逃げだすのだが・・・。
後半最大のピンチでの突破場面の荒唐無稽な展開はさすがにあり得ずリアル感に欠ける。その結果作品全体の完成度が下がってしまった。刑事の冴子とやくざの山崎のやり取りが一番面白かった。
「人にはいくつもの顔があって、いくつもの言葉を持っている。その都度その都度変わっていく。・・・人はそんなに単純なものじゃない。単純でないものを単純に分類すると、取り返しのつかない間違いを犯す。」(P319)
2017年12月PHP研究所刊
「和僑」とは作者の造語で、華僑の日本人版構想。前作「プラチナタウン」では出世街道を外された総合商社部長の山崎鉄郎は、商社を辞め厖大な負債を抱えた故郷緑原町の町長を引き受け、財政再建の道として、老人向けテーマパークタウンの誘致。宮城県緑原町に老人定住型施設「プラチナタウン」が開設され四年。町は活気を取り戻し居住者は増えた。だが、町長の山崎は不安を覚えていた。少子化・過疎化・高齢化の進展が予想されるなか、いずれ高齢者人口も減り、町は廃れてしまう。だが、日本の味を浸透させる案が中々浮かばない。アメリカ移住してレストラン業を展開している時田が、家の処分の為に一時帰国し、日本の食の素晴らしさに感動して、アメリカでB級グルメを扱う店を始めたいと思い山崎に協力を仰ぐ。緑川の食材を加工してアメリカに輸出することを思いつき、役場の工藤とともに緑原の食材を海外に広め、農畜産業の活性化を図ろうとするのだが・・・。
社会性に照らした将来展望、問題提起、登場人物の描写、等々、新たな視点で日本の未来を考える展開に考えさせられた。
2017年10月祥伝社刊